JPX総研は、株式取引の公正性を審査する売買審査システムのデータ基盤を刷新し、9月28日に本番稼働を始めた。基盤には、日立製作所の超高速データベースエンジン「Hitachi Advanced Database(HADB)」を採用した。本番データを使った概念実証(PoC)では、データ処理時間を従来基盤の約4分の1に短縮した。注文が集中するピーク時にも、所定時間内に処理を完了できる性能を実証した。日立が10月1日に発表した。
JPX総研は、日本取引所グループ傘下で、金融商品市場に関係するデータやインデックス、システム関連のサービスを提供する。日本取引所自主規制法人(JPX-R)が使う売買審査システムの開発・維持管理を通じて、相場操縦やインサイダー取引といった不公正取引の兆候を捉える売買審査業務を支えている。
近年は、NISA(少額投資非課税制度)の普及などを背景に個人投資家の市場参加が広がり、市場参加者の多様化と取引手法の複雑化が進んだ。売買審査で分析する注文・約定データも増え、従来の分析基盤は処理能力の限界に近づいていた。特に、取引終了後に注文・約定データを処理する夜間バッチでは、通常は朝2~3時ごろに完了する処理が、注文が集中した日には、業務部門が定める朝8時までの完了要件を超えるケースが目立ち始めた。未処理分は別の時間帯や環境で補い、審査漏れを防いでいたが、運用負荷は小さくなかった。従来製品のサポート期限も迫っていた。
JPX総研は、当面のオンプレミス運用に加え、将来のクラウド移行も見据え、性能、拡張性、長期運用、コストを総合的に評価して次期基盤の選定に着手した。複数の候補製品を対象に、実際の取引データを使って本番に近い条件で性能を検証するPoCを実施し、HADBを選んだ。
評価したのは、大量データの検索・分析に適したHADBの「非順序型実行原理」だ。CPUやストレージの処理能力を効率的に活用し、大量の注文が集中する状況でも高速な検索・集計を可能にする。CPUのコア数ではなくデータ容量を基準とするライセンス体系、長期サポート、取引量の増加やクラウド移行を見据えた拡張性も選定理由となった。従来から売買審査システムのアプリケーションを担ってきた日立が、次期の分析基盤まで一体で支援できる点も、選定時の安心感につながった。
移行では、従来と同じ処理結果を保ちながら、既存SQLをHADBの特性に合わせて書き換え、最適化する必要があった。従来環境のSQLを単純に変換するだけでは期待する性能が出ない処理があり、処理方法を組み替えた。日立はSE、HADBの製品部門、ハードウェア部門が連携し、PoCから構築、移行、性能検証までを支援した。
プロジェクト期間中には、相場の急変などを背景に、注文件数が要件定義時の想定を上回る水準に増えた。両社は小さく始める方針を見直し、CPUなどを増強した構成で稼働を迎える計画に切り替えた。
稼働前の検収テストでは、従来システムと新システムの抽出結果を照合し、同じであるべき箇所の一致を確認した。改修した処理では、狙いどおりの差異が得られた。本番データを用いたPoCでは、処理時間を従来基盤の約4分の1に短縮した。新システムは、注文が集中するピーク時の大量データについても、所定時間内に処理を完了する要件を満たした。
SQLによる抽出結果の提供方法も見直した。従来のWeb画面を廃止し、汎用的なCSV形式で出力する方式に変更した。機能を絞ることで、追加改修時の影響範囲を狭め、開発のリードタイム短縮を図る。
JPX総研ITビジネス部課長の岡江慧氏は「今後は朝までに処理が終わるのかと心配することもなくなりそうだ」と話す。同部の大野光誠氏は、今後は性能向上に加え、AI活用についても日立と議論を重ね、新たな開発につなげたいとしている。日立は、AI活用やデータ利活用の高度化を見据え、HADBの性能向上に加え、外部データレイクの活用にも対応していく。