移行の対象は、SAPが提供する「SAP S/4HANA Cloud, private edition」を中核とするサブスクリプション型サービス「RISE with SAP」で稼働する基幹システムだ。業務システムそのものは変更せず、稼働基盤だけを、Amazon Web Services(AWS)からGoogle Cloudへ移した。移行後のシステムは、すでに安定稼働している。
丸紅I-DIGIOグループは、AI・データ活用の分野でパートナー各社との協業を通じた高度化を方針に掲げる。その一環として、基幹システムの稼働基盤をGoogle Cloudへ移し、将来のデータ分析基盤や生成AIサービスとの連携を、より柔軟かつ効率的に進めるための環境を整えた。
ただ、稼働中のSAP S/4HANA Cloudを異なるハイパースケーラーへ移す公開事例は限られる。RISE with SAPでは、インフラやSAP BASIS領域の作業をSAPにサービス依頼(SR)として起票する必要があり、依頼する時期や内容、手順を適切に管理しなければならない。ハイパースケーラー間でデータを直接転送できない制約もある。移行に必要な準備や体制、業務停止時間を見極めるための判断材料が乏しいことが、基盤の見直しを検討する企業の課題になっていた。
プロジェクトでは、丸紅ITソリューションズがSAPと連携し、要件整理から本番切り替えまでを一貫して担った。移行方式には、実績があり、切り戻し手順も確立しているSAP標準ツール「SWPM」を用いたシステムコピーを採用した。バックアップ/リストア方式でデータを移行する方法だ。
契約の範囲、システム構成、外部インターフェース、運用監視、データ量など9領域で現行環境を可視化し、影響範囲を洗い出した。開発機と検証機で2回のリハーサルを実施して業務停止時間を実測し、本番切り替えは秋の連休に合わせて実施した。移行作業は3日間、後処理は1日間で完了し、業務を止めたのは1営業日にとどめた。
SAPアプリケーションとデータベースのバージョンは維持し、OSと分析基盤のバージョン更新にとどめることで、既存業務への影響を抑えた。SRの起票・進行管理はSAPの窓口担当と連携して進めた。回線とファイアウォールの切り替えはグループ会社が担い、SAP、丸紅ITソリューションズ、グループ会社による三者連携の体制で対応した。
丸紅I-DIGIOグループは、今回整備した移行計画や手順書、SAPとの連携ノウハウを、SAP基盤の刷新やマルチクラウド化を検討する顧客の支援に生かす。Google CloudのAI・データ活用サービスと基幹データの連携にもグループ内で先行して取り組み、得られた知見をソリューションとして提供していく。
丸紅I-DIGIOホールディングス情報システム部の古塩英之部長は、「稼働基盤をGoogle Cloudへ移行したことで、将来的なデータ分析や生成AI活用に向けた確固たる基盤を構築できた。異種ハイパースケーラー間の移行という高難度の挑戦だったが、影響範囲の徹底的な可視化や事前リハーサルを重ね、業務停止時間をわずか1営業日に抑え、通常業務に支障なくスムーズに切り替えられた」とコメントしている。