ガス機器の設置工事において、施工不良によるガス漏れは重大事故だ。大阪ガスマーケティングは、年間約10万件に及ぶ既築住宅でのガス機器取り替え工事で、こうした事故を防ぐために、「AI画像解析システム」の導入に踏み切った。エクシオ・デジタルソリューションズ、セカンドサイトアナリティカとの共創により、熟練者のノウハウをAIモデルに実装。日本ガス協会の「2025年度 技術賞」を受賞し、業界の注目を集めるプロジェクトの全貌とは。

大阪ガスグループの家庭用サービス全般を担う大阪ガスマーケティング株式会社。同社のリビング技術部では、販売・施工代理店網と連携し、年間約10万件ものガス機器設置工事を管理している。
施工不良の発生頻度は、10万件のうち1件あるかないかという極めて低い確率だ。しかし、同社はその「1件」を重く見ているという。リビング技術部 設備エンジニアリングチーム リーダーの山根久尚氏は「当社のミッションは、お客さまへの安心安全の提供です。全体から見れば低い確率でも、施工不良に直面したお客さまにとっては『1分の1』の事故です。だからこそ、万全の対策が必要でした」と説明する。
不良原因の多くはヒューマンエラーだ。従来は作業者のセルフチェックに加え、監督者が写真を再確認するダブルチェックを行っていた。しかし、膨大な件数を人の目だけで完璧にチェックするのは限界があり、管理者の負担も増大していた。同チームの松尾雄大氏は「ダブルチェックを徹底しても、品質維持が『人の目』に依存している限り、根本的なリスク対策にはなりません」と話す。
こうした背景から、同社はAI画像解析技術の活用へと舵を切った。DX推進の旗振り役として、山根氏や松尾氏と連携して課題解決に奔走したのがリビング技術部 サービスエンジニアリングチームの荒関裕貴氏だ。パートナーに選んだのは、エクシオ・デジタルソリューションズと、エクシオグループの資本業務提携先であるセカンドサイトアナリティカだった。3社共創体制に至った理由を、荒関氏はこう語る。
「我々の課題やロードマップを丁寧に整理してくれた点に加え、エクシオグループ自体が通信インフラ等の工事を手がけている点が大きかったです。彼らのAI技術には、我々と同じ『施工現場』で鍛えられた実績がある。現場に強いという安心感が決め手でした」
プロジェクトは、現場作業者が目視確認しているポイントを9項目に絞り込むことから始まった。この過程で、熟練者の「暗黙知」が次々と可視化された。松尾氏は「例えば、ガス管を工具で締めた際に付く『傷』。熟練者はこの傷を見て、適切な力で締まっているかを判断していました。こうした現場特有の知見を定義し、形式知化できたことが大きな成果です」と振り返る。
AI開発には約4600枚の写真データを使用したが、不良(NG)データは不足していたため、実際の部材で意図的に失敗パターンを作成し、学習させる工夫も重ねた。特に難易度が高かった「シール剤の塗り具合」などは、現場の有識者による度重なるチューニングを経て、実用レベルの判定精度を実現した。
PoC(実証実験)を経てAIモデルは完成したが、現場導入段階ではシステムとしての「正解」と、現場作業員の「感覚」とのギャップに直面した。安全最優先のAIは判定基準が厳しく、許容範囲内の施工でも「疑わしい」と判定する場合がある。その際のアラートの表現が、職人のストレスになったのだ。
松尾氏は「『警告』のような言葉では、職人は作業を否定されたと感じてしまいます。そこで『念のため確認してください』といった表現に変更するなど、アラートを出す側と受け取る側の感覚に齟齬が出ないようUIを改善しました」と振り返る。
この「現場との対話」により、システムは受け入れられつつある。スマホで撮影し、AIが即座に判定。NGならその場で是正する。このフローが定着すれば、手戻りのムダはなくなり、業務効率は飛躍的に向上する。現在は2026年4月の本格稼働に向け、約1500人以上への展開準備が進んでいる。
2025年11月、同プロジェクトは日本ガス協会の「2025年度 技術賞」を受賞した。荒関氏は、この技術が業界全体の資産になる未来を見据えている。
「工事品質の確保はガス業界共通の課題です。我々が作った仕組みを他社にも展開できれば、社会インフラ全体の安全レベルを底上げできるはずです。また、データ蓄積によるトレーサビリティの確保は、将来的な業務改善や職人の働きやすさにもつながると信じています」
現場の暗黙知をデジタル資産へと昇華させ、10万分の1のリスク対策に挑んだ大阪ガスマーケティング。社内外の共創で課題解決を実現したDXの好事例と言えそうだ。
提供:エクシオ・デジタルソリューションズ株式会社