Shopify、Savannah Bananasに学ぶスケール戦略 ERP選びの重要性とは?

2026年1月19日10:30|コラム末岡 洋子
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 急成長する企業が共通して直面する課題の一つが、事業拡大に伴うシステムの複雑化だ。年間1兆ドルの取引を処理するコマースプラットフォームのShopifyと、新興の野球エンターテインメント企業のSavannah Bananas――異なる業種の2社が共通して選んだのが、Oracle傘下のクラウドERP「NetSuite」だ。2025年秋にNetSuiteが開催した年次イベント「SuiteWorld 2025」に登壇した2社の幹部は、自社のスケール(拡大)戦略と、その実行基盤としてのERP選びの重要性について語った。

成功企業に共通する「スケーリングDNA」

 現在でこそ、SAPをはじめ主要ベンダーがクラウドERPを提供しているが、NetSuiteは最初からクラウドでERPを提供している。創業は1998年で、Salesforceの創業よりも1年早い。ERPのみならず業務アプリケーション全体において、SaaSのパイオニアといえる存在だ。

 ERP市場では、SAPやMicrosoft Dynamicsといった大手プレイヤーが存在するが、NetSuiteは中堅・成長企業に特化したポジショニングで差別化を図ってきた。2016年にOracleが同社を約93億ドルで買収して以降も、独立性を維持しながら成長企業向けのポジショニングを堅持している。

 NetSuiteで成長と戦略担当シニアバイスプレジデントを務めるSam Levy氏はSuiteWorld 2025の基調講演で、成功する企業に共通する「スケーリングDNA」として三つの要素を示した。単一プラットフォームで全ての業務を実行する「プラットフォームファースト思考」、人的資源を戦略業務に集中させる「戦略としての自動化」、そして業界特化のKPIとワークフローで競争優位を築く「業界特化による差別化」だ。

「旧来型の『売上増加=人員増加』という成長方程式は限界に達しています。AI時代のスケーリングとは、採用ではなくレバレッジの活用です」とLevy氏は強調する。では、実際にNetSuiteを活用して成長を維持するShopifyとSavannah Bananasはどんなスケール戦略を採用しているのだろうか。

ShopifyはNetSuiteで非効率という「摩擦」を取り除く

「全ての人にとってよりよいコマースを実現する」――これがShopifyのミッションだ。創業者の1人で現在CEOを務めるTobias Lütke氏が2004年にスノーボード用品のオンラインストアを立ち上げたことから始まった同社は(Shopifyとしての創業は2006年)、今や世界最大級のコマースプラットフォームに成長した。現在、55の法人を通じて150カ国以上でサービスを展開し、累計1兆ドル相当の取引を処理している。

 Shopifyが成長の基盤としてNetSuiteを選んだのは、2015年のIPOの2年前、2013年頃だった。CRO(最高収益責任者)のBobby Morrison氏は当時の状況を振り返る。

「以前は年間800ドルの(別の)システムを使っていましたが、それでは明らかに上場できませんでした。NetSuiteはSOX法(上場企業会計改革および投資家保護法)への準拠や監査対応が標準装備されており、IPOだけでなく、その後の成長も見据えたシステムだと判断しました」

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ShopifyのCRO(最高収益責任者)を務めるBobby Morrison氏

 その判断は正しかった。Morrison氏は「2025年第2四半期は31〜32%の成長を記録し、過去40四半期のうち39四半期でShopifyの顧客コホートは市場平均を上回るパフォーマンスを示した。現在、プラットフォーム上には87万人のバイヤーが存在する」と胸を張る。Shopifyは直近の四半期決算である2025年度第3四半期(7月〜9月期)まで、10四半期連続で25%以上の成長率を維持している。

 NetSuiteがShopifyにもたらした価値は多岐にわたる。最も重要なのは、新市場への展開スピードだ。Morrison氏は「法人の立ち上げやM&Aが非常に容易になりました。2024年だけで世界で17の新市場を追加し、西欧や中東でも積極的に展開しています。2026年にはさらなる拡大を図る方針です」と語る。

 Morrison氏には独自の成長方程式があるという。「(レート×ボリューム÷摩擦)×リーダーシップのAI乗」というものだ。「多くの企業はレート(コンバージョンレートや取引単価など)とボリュームに注目するが、真のレバレッジは「摩擦の削減」から生まれる」と続ける。摩擦とは、バックオフィスのプロセス、ポリシー、ツールに潜む非効率のことで、NetSuiteはこの摩擦を取り除く中核的な柱となっている。

 AI活用でもNetSuiteは重要な役割を果たしている。社内でNetSuite用のMCP(Model Context Protocol)を開発した。MCPはAnthropicが開発したオープン標準で、AIアシスタントと外部システムを接続するためのプロトコルだ。これにより、AIが直接NetSuiteのデータにアクセスし、異なるツール間のワークフローを自動的に連携させることが可能になる。

 Shopifyの商業チームはこのMCPを活用し、過去9カ月で約100万の自動化フローを実行。1500万〜1600万行のコードを生成した。「従来ならエンジニアが手作業で構築していたタスクを、営業やマーケティング担当者が自らAIを使って自動化しています」とMorrison氏。

 最もAIを活用しているのは、エンジニアチームではなくビジネスチームだという。従業員が自発的に「苦痛なタスク」や「過度に管理的な業務」を自動化し、それらをMCPで連携させることで、顧客ジャーニー全体の自動化が実現しているとのこと。AIユースケースのSlackチャンネルが最も活発で、従業員が家庭でのAI活用も含めて情報共有しているという。

 最後にMorrison氏は、AI導入を検討する企業へのアドバイスとして「まずは遊び心を持って試すこと」「小さなユースケースから始め、楽しみながら進めることが重要」と語った。

売り上げよりもファン戦略を重視するSavannah Bananas

 Savannah Bananasは、ジョージア州サバンナに本拠地を置く新興の野球チームだ。独自ルールの野球「Banana Ball」を展開する同社は、MLBスタジアムやNFLスタジアムでの試合チケットを次々と完売させ、ESPN、TNTなどで放映される人気コンテンツに成長した。Forbesは同チームの企業価値を5億ドルと評価している。参考までに、Los Angeles Dodgersは68億ドルだ。

 Savannah BananasのCFO(最高財務責任者)のTim Naddy氏はまず、同社のユニークなビジネス哲学を紹介した。一般的なCFOなら、試合後に報告するのは売上と利益率だろう。だがNaddy氏が創業者のJesse Cole氏から毎回問われるのは、売上に関する数字ではない。「今夜何人のファンに触れたか?」だ。

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Savannah Bananas CFO(最高財務責任者)のTim Naddy氏

 この問いに答えるため、Naddy氏はShopifyの注文データを確認し、配布したグッズを集計する。CFOの仕事は、ドルではなく「ファンとの接点」を数えることから始まるという。

 Savannah Bananasの目標は「10億人のファン」だ。Naddy氏は「10億人のファンを獲得できれば売り上げは自然とついてきます。我々の通貨は笑顔と喜びです」と強調する。なお、同社のチケットには食べ放題の飲食が含まれているが、「食べ放題はCFOとして最も心臓に突き刺さる」とNaddy氏は苦笑する。利益率よりもファンの満足を優先する、同社らしい戦略といえそうだ。

 他のスポーツチームと同様、Savannah Bananasの主要な収益源は三つ。チケット販売、マーチャンダイジング(グッズ販売)、そしてメディアパートナーシップだ。特にマーチャンダイジングでは、Shopifyと物流サービスのShipBobを活用している。52台のトレーラーで全米を巡回しながら、会場とオンラインの両方でグッズ販売を展開している。

 2021年にはワールドツアーとして初のエキシビションマッチを行ったところ、大成功。その翌年のワールドツアーのチケットは完売するなど、チームは急成長を続けた。2024年シーズンには、タンパのスタジアムで6万5000人を動員するなど、全米規模での巡回興行が過去最大の規模となった。しかし、急速な事業拡大に既存システムが対応しきれなくなっていた。

 それまでSavannah BananasはIntuitの会計ソフト「QuickBooks」を使用していたが、限界を感じていたとNaddy氏は振り返る。「QuickBooksのコア機能を超えて周辺機能を追加し始めると、プログラマーが必要か?IT担当者が必要か?と自分でリスクを負わなければならなくなります。これ以上の役割を担えないと感じました」

 そこで、複雑な事業を管理するため、2024年にNetSuiteを導入した。総勘定元帳(GL)の機能を大幅に拡張するだけでなく、複数の事業体を自然に統合できる環境を提供した。「NetSuiteの素晴らしい点は、GLを管理するだけでなく、成長に応じて他の事業体をスムーズに統合できることです」とNaddy氏。

 同社は現在、メイン事業の基本的な会計機能でNetSuiteを使い、小規模な事業体では引き続きQuickBooksも併用するという体制をとる。日々の業務では、独自開発のチケットシステム「Fans First Tickets」や、ShipBobとShopifyを組み合わせた物流・在庫管理システムなど、独自のテクノロジースタックを構築した。

 スケールでNaddy氏が特に重視するのは「シンプル化」だ。「財務情報を誰もが理解しやすい形で伝え、組織全体で共有できる環境を作ることが、急成長を支える鍵です」と述べた。