akippa、オファーレターのシステム化で内定承諾率を80%に スクラム採用の体制強化も

2025年4月17日17:00|インサイト本多 和幸
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 近年、アプリエンジニアの人材採用は難易度が上がる一方だ。多くの企業が人材を奪い合う中で、採用側には、候補者に選ばれる企業になるための工夫が求められている。駐車場シェアリングサービス「アキッパ」を手がけるakippaは、アトラクト採用を支援するSaaS「RekMA」を導入し、50%未満だった内定承諾率を80%超へと劇的に向上させた。さらにRekMAの導入は、社内の採用体制強化にもつながっているという。

エンジニア採用を強化も内定承諾に至らないケースが多発

 akippaは大阪市に本拠を置くスタートアップ企業だ。創業者・社長CEOの金谷元気氏が2009年に設立。当初は営業代行事業などを主力としていたが、14年に駐車場シェアリングサービスを開始した。現在は同事業、つまりアキッパの専業会社になっている。

 アキッパは空きスペースを貸したいオーナーと駐車場を探すドライバーをマッチングするサービス。オーナー側は月極駐車場の未契約区画や個人宅の車庫や空き地、商業施設などを時間貸し駐車場としてスマートフォンアプリ経由で簡単に貸し出すことができる。ドライバー側もスマートフォンアプリから自分にとって最適な場所や料金の駐車場を探して、予約、決済まで完了できる。

 駐車場シェアリングサービスには過去、NTTドコモやソフトバンク、楽天、リクルートなど大手企業も参入したが、既に終了したサービスも多い。一方でアキッパは今年4月、登録会員数が450万人を超え、予約可能な駐車場を常時5万件以上確保するなど、市場のリーダーとして成長を続けている。

 従業員数は、2024年12月時点で約85人。内訳としては、エンジニアチームと営業チームに最も多くの人員が配置されている。従来、アキッパの成長をけん引してきたのは、営業代行会社としての出自を生かした営業力だという。ユーザーにとっては利用できる駐車場が多いほどサービスの利便性は高まる。akippaは精力的な営業活動で駐車場(貸し主)開拓を進め、貸し主が売り上げを増やすための支援なども営業チームが担ってきた。

 アキッパ事業が次のフェーズに入ったのが22年ごろだ。サービス開発、プロダクト開発を強化すべくエンジニア採用に注力する方針を打ち出した。しかしここで課題として顕在化してきたのが、エンジニアの採用の難しさだ。採用活動をリードした同社HR Group兼Founder Group新規事業担当の広田康博氏は次のように説明する。

「エンジニア採用を立ち上げた当初は、選考は進むんですが、内定を出しても内定承諾がなかなか得られないという状況が続いていました。一旦入社してもらえれば、アキッパのサービスの優位性やシェアリングエコノミーの可能性、そして5年以上勤務している従業員が70%で、ホスピタリティというカルチャーが浸透している働きやすい会社であることなど、当社のよさをすごく感じてもらえている実感はあったんです。本来、採用候補者に届けるべきこうした当社の武器がなかなか届けきれていない。そこに大きな課題意識を持っていました」

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HR Group兼Founder Group新規事業担当の広田康博氏

内定承諾率の改善を目指しRekMAの最初期ユーザーに

 当時の採用支援サービスは、求人に対する応募者をいかに増やすかにフォーカスしたものがほとんどで、akippaの課題感にフィットするものがなかったという。「とにかくスカウトメールをたくさん出しましょう、みたいなサービスが多かった印象です。でも、100人面接しても内定承諾が0人だったら採用活動としては成果にならないわけです。ここの歩留まりを改善する方が効果が高いんじゃないかと考えていました」(広田氏)

 同社は採用候補の母集団を大きくするのではなく、内定者にakippaの魅力や採用への熱意を的確に伝えて内定承諾率を上げる取り組みに注力することが、エンジニアやハイクラス人材の採用では有効だと考えた。その施策実行のツールとして採用したのが、Haulが提供するSaaS「RekMA」だった。

 RekMAは内定承諾率の向上や採用プロセスの改善、アトラクト採用(自社の魅力を伝えて採用したい人材から選ばれるようにする採用手法)を支援するツールだ。Web上の管理画面から内定者ごとにパーソナライズしたオファーレター(内定通知と雇用条件の提示を兼ねた文書)を簡単に作成、共有できる。面接の内容などを踏まえ、入社後の役割・目標、オンボーディングの計画、経営層・管理職やチームメンバーからの歓迎メッセージなども盛り込める。また、オファーレターを受け取った内定者が採用体験について企業側にフィードバックするためのアンケート機能なども備える。

 22年にakippaがエンジニア採用を始めた当時、広田氏が人事業務を一人で担当しており、社内に採用のノウハウはなかった。そこで、akippaの株主であるベンチャーキャピタルからの紹介で、Haulの創業者/代表取締役CEOの平田拓嗣氏とコンサル契約を締結。採用活動の支援を受けた。その後、社内のリソースのみで採用活動を完結できる体制が整ったためコンサル契約は一旦終了したが、「当時からRekMAの構想は聞いていて、実際にサービスインするときに紹介してもらった」(広田氏)という。こうした経緯もあり、akippaは2023年、最初期のユーザーとしてRekMAを使い始めた。

内定承諾率は50%未満から80%超に向上

 akippaの採用活動における内定承諾率は、RekMAの導入により明確に向上している。22年の内定承諾率は50%を切る水準だったが、23年から24年にかけての採用活動では80%を超えている。広田氏は「現在、アプリエンジニアの採用は難しくて、5社くらいで1人の人材を奪い合うようなケースも珍しくない中で、80%以上の内定承諾率というのは非常に高い数字だと評価しています」と手応えを語る。

 採用候補者からのフィードバック機能には、特に有効性を感じているという。「オファーを承諾してくれた人も、残念ながら辞退された人も、なぜその決断をしたのかについて想定していた以上に丁寧に回答してくれるんです。特に辞退された人からの声というのは集めにくいものですが、RekMAというシステムを通じて聞くことで、回答しやすい環境が整備されるというのは大きなポイントだと思います」(広田氏)

 また、akippaは現在、エンジニア採用だけでなく、経営の高度化に向けて各業務分野のハイレベルな専門家も採用しているが、ここでも成果を上げている。RekMA導入後に入社した執行役員CHROの平賀晶雄氏は、オファーレターを受けた立場から率直な感想を聞かせてくれた。

「社長や副社長からこんな熱いメッセージをもらえるのか、という感動がありましたね。私のどういうところを評価し、なぜ入社してほしいのか、入社後に何を期待しているのかがよく分かりました。こういうオファーレターを受けたら、仮に辞退するにしても、採用側の熱意になんらかのかたちで応えなければと思う人が多いのではないでしょうか。候補者から丁寧なフィードバックがいただけるのは、そういう背景があると考えています」

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執行役員CHROの平賀晶雄氏

 内定者に採用側の熱意が十分に伝わるオファーレターを作成するのは、それほど容易ではないようにも思えるが、それをサポートする仕組みが組み込まれていることもRekMAのメリットだという。広田氏は「RekMAにはオファーレターでどんなことを伝えるべきかというテンプレートが用意されていて、基本はそれに沿って作成すれば候補者の採用体験がよくなるという実感があります。各パートのカスタマイズや追加、削除も簡単で、よりパーソナライズされたオファーレターが必要な場合にも対応できます」と説明する。

システムによるプロセス構築が採用への意識を変える

 一方で、リッチな内容のオファーレターを作成、送付したり、内定者からのフィードバックを収集したりするのは、厳密にはRekMAがなければできないわけではない。akippaもRekMAを導入する前は自社でスライドをつくるなど、資料を充実させオファー体験を向上させる取り組みには注力してきた。それでもRekMAを使う意義はどこにあるのか。広田氏は「RekMAのツールとしての使い勝手のよさというのはあるのですが、それ以上にオファーレターが仕組み化、標準化されることの効果が大きいと感じています」と話す。加えて、人材採用に関する全社的な意識の変革にもつながっていると平賀氏、広田氏は指摘する。

「オファーレターがRekMAでシステム化されたことで、内定を出した後に、社長をはじめとした経営層、受け入れ先のマネージャーやチームメンバーなどがメッセージを入力するというプロセスとマインドが出来上がりました。配属先部門のマネージャーは採用に対する熱量が高いわけですが、誰かが熱いメッセージを書き込むと、それに触発されてみんなのメッセージの熱量も高くなっていくんです。HR部門としては『採用を自分ごと化する』というのが重要なテーマですが、Rekmaを導入したことでそれが自然にできるようになったと考えています」(平賀氏)

「オファーレターのメッセージを書き込む際は、相手のことを理解し、自分たちのことも理解する必要があります。高い熱量を経営層、管理職やチームメンバーが共有すると、みんなが候補者のことを好きになっていくんです。スクラム採用(経営層や人事部門だけでなく現場の従業員も主体的に参加して採用活動を進める手法)の体制がRekMAによって強化される部分があると感じています。その結果、オファーレターが魅力的なものになるのはもちろん、入社後の受け入れ態勢の整備やオンボーディングもスムーズになるので、これも非常に大きな効果です」(広田氏)

 akippaは現在も積極的に採用活動を行っており、「入社後の活躍までつなげられる質の高い採用活動を継続していく」(広田氏)意向だ。RekMAは現在、オファーレターだけでなく、選考途中の候補者とのコミュニケーションを強化する「ステップレター」機能も提供しているほか、生成AIを活用したメッセージの作成支援機能なども実装している。こうした新たな機能の活用も検討していくという。