元プロ野球選手が営む人気焼肉店、「無断キャンセルゼロ」を実現した顧客接点設計とは

2025年7月25日10:00|インサイト本多 和幸
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 多くの飲食店にとって、予約の無断キャンセルや大手予約サイトに支払う送客手数料は、経営を圧迫する悩みの種だ。予約の「数」は重要だが、店のファンになってくれる「質」の高い顧客といかにつながるかが、特に小規模な店舗にとっては死活問題ともいえる。元プロ野球選手・武山真吾さんが営む名古屋の「焼肉たけやま」は、小規模事業者ながら公式Webサイトを内製で構築し、独自の予約チャネルを整備。自社サイト経由の「無断キャンセルゼロ」を実現し、顧客との良質な関係づくりに成功しつつある。

独自の公式サイトがオンラインでの顧客接点のハブとして機能

 横浜ベイスターズや中日ドラゴンズでプレーした元プロ野球選手の武山真吾さんは、セカンドキャリアとして名古屋市・栄で「焼肉たけやま」を経営している。全席個室で「居心地がよく落ち着く焼肉店」をコンセプトとしており、アスリートや芸能人など著名人の来店も多い。

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元プロ野球選手の武山真吾さんと妻の真由さんが経営する焼肉たけやま

 オーナー兼経営者、そして店の「顔」として現場を率いる真吾さんと二人三脚で、運営の屋台骨を支えるのが妻の真由さんだ。焼肉たけやまの公式Webサイトや、食べログ、一休.comといった予約サイトの管理、Instagramの公式アカウントの運用など、オンラインの顧客接点管理を一手に担っている。

 同店のマーケティング施策上、最も重要な基盤となっている公式サイトは、ホームページ作成サービス「ペライチ」を使って真由さんが自身で構築している。ペライチのオンライン予約機能も活用し、公式サイトからの予約も受けられるようにしている。

 食べログや一休.comといった大手予約サイトは集客力に優れ、多くの店舗が公式サイト代わりにこれらのサービスを利用している。しかし、焼肉たけやまはこれらのサービスを利用しつつも、オープン当初から自社で公式サイトを立ち上げ、独自の予約チャネルも設置している。その背景を真由さんは次のように語る。

「大手予約サイトは送客手数料がかかるというコストの問題もありますが、そうしたサイト経由の予約は気軽にキャンセルされやすいという印象がありました。キャンセル料がかからないタイミングまで、とりあえず何席か押さえておこうという使われ方も目にします。小規模な店舗ですので、来店に至らない予約はなるべく少なくしたいと考えていました」

 最新の情報を積極的に発信しているInstagramでは、メインの予約チャネルとして公式サイトに誘導しており、同サイト経由での予約比率を高めている。また、大手予約サイトの利用に拒否感がある顧客層も存在するという。公式サイトはそうした顧客層の受け皿としても機能している。結果として、予約経路の割合は食べログが4割、公式サイトが3割、一休.comが2割、電話やLINEが1割で、既に自社サイトが顧客接点として重要な役割を果たしていることが分かる。

 他方、公式サイトでは大手予約サービスへのリンクも設置し、顧客が予約経路を柔軟に選べるようにして機会損失を防ぐ工夫もしているという。公式サイトがオンラインでの顧客接点のハブとして機能し、スムーズな動線を実現している。さらに、独自の公式サイトを持つことで「お客様にしっかりした店だと思っていただける」(真由さん)ブランディング上の効果も感じているという。

公式サイトがロイヤルカスタマーの育成に貢献、オペレーションの改善も

 自社サイトでの予約比率を高める戦略は、明確な成果につながっている。ペライチの予約機能は、顧客が会員登録をしなくてもメールアドレスや電話番号だけで予約が可能で、予約のハードルも低いにもかかわらず、オープン以来、ペライチ経由の予約で無断キャンセルは一件も発生していない。

「他の予約サイト経由では、月に2~3件の無断キャンセルが発生してしまうのですが、公式サイトからご予約されるお客様は、必ず来店いただけるという安心感がありますね」と真由さんは話す。公式サイトを能動的に検索し、そこから予約する顧客は、焼肉たけやまを応援してくれるファンである場合が多い。「送客手数料がかからないように」と公式サイトを選んでくれる顧客までいるという。同店では、リピーター顧客が売り上げの50%以上を占めるが、公式サイトがロイヤルカスタマーの育成に貢献しており、安定した店舗運営の土台となっている。

 また、ペライチの「予約承認制」は店舗オペレーションの改善に大きく貢献している。予約が入るたびに、店側が内容を確認して承認する仕組みだ。これにより、予約が集中した際に起こりがちなダブルブッキングを未然に防ぎ、きめ細やかな席の調整が可能になる。「営業中に常に予約サイトをチェックできるわけではないので、自分たちのタイミングで予約を確定できるのは非常にありがたいです」と真由さんはその利便性を語る。

出したい情報をすぐに反映、内製化がもたらすスピードと即応性

 真由さんはこれまでのキャリアで専門学校の広報業務などを経験しており、Webサイト制作の知識はあったものの、制作そのものの経験はなかったという。それでも外部に委託せず、自らペライチでサイトを構築・運用する道を選んだのは、「スピード感」と「即応性」を重視したからだ。

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「外部に委託すると少しの修正でも時間や手間、コストがかかります。自分たちでやれば、新しいメニューやコースの情報を追加したい時、古い情報を更新したい時など、すぐに対応できる。その点、ペライチは専門知識がなくても直感的に操作できますし、機能も小規模な飲食店にとっては十分すぎるほどで、現状としては満足しています」

 7月17日には系列店として「ホルモンたけやま」をオープン。スタッフの求人ページもペライチで作成している。多店舗展開を進めるにあたっても、「自分たちでスピーディーに情報をコントロールできる」という強みは今後も大事にしていきたいという。