ジニアス・ソノリティ、HeatWave MySQLの採用で膨大なゲームデータの分析を高速化

2024年9月18日12:00|インサイト谷川 耕一
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 人気ゲーム「電波人間」シリーズを開発するジニアス・ソノリティは、ゲームデータの分析に課題を抱えていた。特に最新作「New 電波人間のRPG FREE!」は初日に10万ダウンロードを記録し、膨大なデータが発生していた。従来の環境ではデータ加工や分析処理に時間がかかっていたが、オラクル(Oracle)が提供する「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」の「HeatWave MySQL」を採用したことで分析速度が大幅に向上。データドリブンなゲーム開発・運用を加速している。

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ジニアス・ソノリティ 取締役 最高技術責任者 川本昌之氏(左)、プログラマーの太田賢一郎氏(中)、シニアプログラマーの米内山浩介(右)

ネットワーク型RPGで得られる膨大なデータをどう分析する?

 2002年に設立したジニアス・ソノリティは、ニンテンドー3DS時代を代表するゲーム開発会社だ。「電波人間のRPG」シリーズを始め、独創的な作品で多くのプレイヤーに愛されている。2024年7月22日には、Nintendo Switch向けに、基本プレイ無料のロールプレイングゲーム「New 電波人間のRPG FREE!」の配信を開始した。

 「電波人間シリーズは10年ほど前からリリースしており、これまでも多くのユーザーに遊んでもらっています。今回のNintendo Switch版は、初日に10万のダウンロードがあり、想像以上の反響で、現在もダウンロードが増えています」と言うのは、ジニアス・ソノリティ 取締役最高技術責任者の川本昌之氏だ。

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 従来の買い切り型ゲームでは、プレイヤーとの関係がゲームクリアとともに途絶えがちだった。 一方、現在のゲームは、基本プレイ無料でアイテム課金を行うビジネスモデルが主流となり、プレイヤーを長く楽しませることが重要となっている。

 そのため、New 電波人間のRPG FREE!のようなゲームは、「ゲームそのものの面白さも重要ですが、プレイヤーを惹きつけ長く遊んでもらうことが重要です。ゲームを販売して終わりではなく、毎日のように遊んでもらう工夫がいります」と川本氏。そのため、24時間さまざまなところからプレイヤーがアクセスするので、常時安定して動くサーバーが必要だ。

 3DSが登場した2011年頃は、ネットワーク環境が未成熟で、プレイヤーが長時間サーバーに接続して遊ぶことは難しかった。しかし、現在ではネットワーク環境が大幅に改善され、Nintendo Switchを常にネットに接続して遊ぶことが可能 になった。

 買い切り型の時代は、プレイヤーの動向を把握することは困難だった。しかし、現在では、プレイヤーが長時間サーバーに接続して遊ぶため、リアルタイムにプレイデータを取得し分析できるようになった。その一方で、膨大なデータから必要な情報を抽出することは容易ではなく、新たな課題も生まれている。

 実際、New 電波人間のRPG FREE!リリースからの2週間で「2テラバイトものユーザーログのデータが発生しています」と話すのは、ジニアス・ソノリティ シニアプログラマーの米内山浩介氏だ。これまでリリースしたゲームよりも、かなり速いペースでデータが蓄積されている。

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「桁違いに速い」HeatWave MySQLで分析時間を大幅短縮

 New 電波人間のRPG FREE!以前にリリースしたネット型パズルゲームも多くのプレイヤーにダウンロードされたが、1プレイヤーあたりのログデータ量は少なかった。一方、New 電波人間のRPG FREE!のようなRPGでは、ゲーム内のさまざまなイベントで詳細なログデータが発生する。ゲームの人気も相まって、データは予想を上回るペースで蓄積されている。

 ジニアス・ソノリティでは、New 電波人間のRPG FREE!リリース以前から、膨大なデータの加工と分析に課題を感じていた。必要な情報を容易に抽出することが難しかったのだ。データ分析は専任担当者ではなく、ゲーム開発者や運用担当者が兼任で行っていた。ゲームリリース後は、運営業務に追われ、データ分析に十分な時間を割くことが難しかった。

 従来は、ゲームログをMySQLに蓄積し分析していた。しかし、データは未加工のまま格納されていたため、分析には手間と時間がかかり、多角的な分析も困難だった。

 これらの課題を解決するため、新たなデータ分析基盤の導入を検討。高速な分析処理とMySQLの知見を生かせることから、OCIのHeatWave MySQLを選定した。

 まずはパズルゲームのデータを適宜HeatWave MySQLに移行し、継続率などの指標の分析に利用。従来の環境では560分かかっていた分析が、HeatWave MySQLでは6分で終了した。ほかにも30分かかっていたものが30秒で終了するなど「桁違いに速いことが分かりました」と川本氏。パズルゲームについては分析対象のデータをHeatWave MySQLに蓄積し、積極的に分析・活用を進める方針だ。

 パズルゲームでHeatWave MySQLを利用し始めた際は、スタンドアロンDBの形で利用時だけインスタンスを立ち上げて使う形を取っていた。新たにリリースした電波人間 RPGのデータ分析は、当初からHeatWave MySQLに全てのログデータを蓄積することにした。高可用性(HA)構成を採用し、常時稼働させている。HA構成では柔軟な拡張性も担保できるため「データが増加傾向にあるNew 電波人間のRPG FREE!でも使いやすい」と評価するのは、ジニアス·ソノリティ プログラマーの太田賢一郎氏だ。

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 また、「HeatWaveはMySQLそのものなので、新たな学習コストなどは発生しませんでした」と米内山氏。HeatWaveのインメモリのクラスターにデータを読み込ませる指定などは必要だが、MySQLのスキルがあればHeatWave MySQLを使う上で手間取ることはないという。

 HeatWave MySQLの環境に移行したことで分析処理が速くなり、さまざまな軸での分析を試せるようにもなった。顧客からのトラブルに関する問い合わせ対応にもログデータを使うが、解析し調査する時間が大幅に短縮され、回答のレスポンスが速くなっている。以前はトラブル特定のためにログから必要な情報を抽出する際、「処理に長い時間を要する可能性が高く、SQLの実行をためらうこともありました」と太田氏。HeatWave MySQLでは、複雑なSQLや集計処理も数秒、数十秒で結果が返ってくるので、躊躇せずSQLを実行でき、担当者の心理負担は大きく軽減されているという。

HeatWave MySQLを起点にOCI活用拡大

 ジニアス・ソノリティでは、HeatWaveの利用をきっかけにOCIのコストパフォーマンスの良さを評価し、分析用のデータベースだけでなくゲームの運用に必要なサーバーリソースもOCIに移行している。「サーバーインスタンスだけでなく、OCIはネットワーク等を含めトータルでコストパフォーマンスが高いと評価できました」と川本氏は話す。

 迅速な分析環境が手に入ったことで、これまで見ていなかった指標でユーザーの行動を見たいなど、新たな要望も出ている。また、これまではデータ分析を行うのは特定のメンバーだけだったが、プログラムスキルがそれほど高くない人も分析できる環境を用意し、幅広いメンバーがデータを活用できるようにしたいという。

 データ分析の裾野を社内で広げる際には、データベースとのインターフェース部分で生成AIの技術も積極的に利用する方針だ。ゲームの中では大量のテキストデータも扱っており、生成AIとの相性が良好だと見込む。

 データ活用が広がることで、分析した結果を見てゲームをより遊びやすく、より面白いものにするアイデアが生まれる可能性もある。既に、ゲームのチュートリアルの内容などは、プレイヤーの動きを分析した結果を加味し適宜修正を加えている。また、ゲームの適切な難易度設定にもデータ活用は必須だと見る。「ゲームの難易度設定の判断はかなり難しいものがありますが、CRM的な分析をする必要があります。たとえば、熱量の高い人とそれほどでもない中間層、また初心者などでは、離脱するところが違います。それぞれでアプローチを変えていくことになるでしょう」(川本氏)

 ゲームのビジネスでは、得られるデータの活用の重要性がかなり高まっている。さまざまな情報が取得できるようになり、それをどう生かすのかが問われるようになっている。ジニアス・ソノリティは、オラクルクラウドのサポートサービスを高く評価しているというが、今後はさらに、よりデータを活用するための支援にも期待しているという。