老舗商社・大昌貿易行が進める貿易業務デジタル化とプロセス再構築 Shippio製品を基盤に

2025年4月7日09:00|インサイト本多 和幸
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 香港を拠点とする大昌行集団有限公司の日本法人として1951年に設立された大昌貿易行は、食品、自動車、機械などの輸出入や販売を手がける老舗の専門商社だ。缶詰やオリーブオイルといった食品の輸入を手がける食品飲料部では、貿易事務の属人化や業務効率の低さが長年の課題になっていた。展示会で偶然目にした国際物流管理SaaS「Shippio Cargo」など、Shippioが提供するソリューションを業務基盤として活用することで業務プロセスの再構築を進め、工数削減や事業継続性の向上、パートナー企業との連携強化につなげている。

異なるソースから人力で情報を集約して輸送状況を管理

 食品は基本的に海運で輸送される。手続きとしては、まず海外のメーカーから荷主である大昌貿易行に対して船積書類のPDFファイルがメールで送付される。船積書類とは、輸出する貨物や金額など取引の詳細を記載した「インボイス」や、貨物の梱包内容の明細である「パッキングリスト」、貨物の引換証や有価証券、運送契約書として機能する「船荷証券」(B/L)などで構成されるという。大昌貿易行はこれらの書類を受け取った後、印刷して保管するとともに、通関をサポートしてくれる乙仲業者(乙仲)にメールで必要な書類を送付。通関手続きが完了したら輸入許可通知書が乙仲から大昌貿易行にメールで送られ、商品を納入した倉庫からはFAXやメールで入庫報告書が同社に届くという流れだ。

 大昌貿易行では、メールやFAXでやり取りされる一連の情報を、担当者が手作業でスプレッドシートに転記して管理していた。また、貨物を積んだ船の状況確認は、船荷証券番号や船会社から発行されるブッキングナンバーを船会社のWebサイトに入力して確認し、その結果も同じスプレッドシートに随時集約していた。食品飲料部課長の三好辰典氏は「どの荷物が現在どこにあるのか、どんなステータスにあるのかなどは、異なる情報ソースから人力で情報を集約する必要があり、作業にかなりの手間がかかっていました」と説明する。

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食品飲料部課長の三好辰典氏

 また、船のルートは日本への直行ではなく、シンガポールや上海といった国外の港を経由するケースが多い。発送時に経由地への到着と出発、最終目的地の日本の港への到着などの大まかなスケジュールが設定されるが、実際は当初の予定どおりに進行することはほとんどないという。「コロナ禍期間中は荷物の遅れが顕著でしたが、遅延の程度も予測しづらかったことがあり、ほぼ毎日、船会社ごとに情報を取得して管理シートにまとめる作業が必要で、なかなか大変でした」(三好氏)

 さらに、業務の属人化も課題だった。食品飲料部部長の井口隆志氏は次のように説明する。「当社は部門単位で独立性の高い組織になっています。貿易事務の業務自体はそれほど複雑ではないのですが、各作業と人が紐付いていて、担当していたスタッフが離職してしまったりするとその作業のスキルが部門としてゼロに戻ってしまうリスクがありました」

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食品飲料部部長の井口隆志氏

海外の港から日本の倉庫まで、管理を自動化・一元化できる仕組みを構築

 食品飲料部では、なんらかのシステムを導入して貿易事務の手間を効率化しつつ、プロセスを可視化、標準化し、必要な情報を関係者が容易に共有できるようにすべきだという課題意識を長年持っていた。しかし、数年前までは適したソリューションが見当たらないのが実情だった。三好氏は「国内の配送を管理するサービスなとはいろいろありますが、国際物流を統合的に管理できるソリューションは当社の知る限りではありませんでした」と話す。

 転機になったのは、2023年に物流の展示会でShippioのソリューションを見つけたことだという。Shippioは、貿易業務管理SaaS「Shippio Cargo」や、Shippio Cargoとフォワーディングサービス(輸出入に関する輸送手段の手配から納品までの業務を代行するサービス)をパッケージにした「Shippio Forwarding」などを提供。自社を業務効率化とサプライチェーンの可視化、データ活用を実現する「日本初のデジタルフォワーダー」と位置付けている。

 Shippio Cargoは輸送中の船舶の運航状況を自動でトラッキングする。ステータスが自動で取得できない船会社についても、Shippio独自のロジックとオペレーションで運行状況を正確にトラッキング可能だという。また、貿易書類の管理・共有機能により、ステータス情報と貿易書類を案件ごとに一元管理し、各プロセスの担当者が自分に必要な情報をWeb上で確認できる。さらに、外部取引先を案件ごとにShippio Cargoに招待し、社内外の関係者が同一のプラットフォーム上でステータス確認やチャットでのコミュニケーション、書類の共有などができる「Partner Connect」機能も備える。

 井口氏は「Shippioのシステムは我々が思い描いていたシステムに非常に近かったので、一瞬で心を奪われました(笑)」と当時を振り返る。「国際貿易業務に特化した統合的なソリューションで、海外の港から日本の倉庫までの輸送状況の把握が自動化されるとともに一元的に可視化できる点が大きなポイントでした。必要な書類も案件ごとに管理され、しかもこれらの情報を社外パートナーも含めた関係者間で簡単に共有できるということだったので、業務の手間や属人化といった当初の課題を解決できそうだという期待がありました。クラウドサービスでイニシャルコストがかからない点も魅力でした」

 導入にあたっては、「実務担当者の意見も聞いてみたかった」(井口氏)ため、まずはトライアルを兼ねてShippio Forwardingを利用。Shippioにフォワーディングを依頼した上で、Shippio Cargoが実際の輸入業務でどのように利用できるのかを確認したという。「社内のみの利用でしたが、想定していたとおり、非常に分かりやすかったです」と三好氏。オペレーションの感覚や導入効果を具体的にイメージでき、本格活用に向けた社内調整などもスムーズに進んだという。

 一方で、乙仲や倉庫業者といったパートナー企業にもShippioのソリューションを利用してもらわなければ、個別の連絡や情報共有の手間が残り、業務効率化の効果は限定的になる。そこでトライアル後は、パートナー企業をPartner Connect機能でShippio Cargoに招待し、一つのデジタルプラットフォーム上で協働するプロセスを改めて構築していった。三好氏は次のように説明する。

「まずは一番取引量が多く関係の深い乙仲さんから取り組みを始め、1社1社パートナーを説得しながら、段階的に巻き込み範囲を広げていったイメージです。当初は変化に対してネガティブな反応もゼロではなかったのですが、Shippio Cargoを一緒に使うことでパートナー側も業務改善や生産性向上につながりますので、そのメリットを丁寧に説明しました。3~4カ月でほぼ全ての乙仲、倉庫会社を巻き込み、Shippio Cargo上で貿易業務の一元的な管理体制をつくることができました」

明確な工数削減効果、ブラックボックス解消で事業継続性も向上

 現在はShippio Cargoの利用を基本としつつ、案件によってはShippio Forwardingを利用するかたちで食品の輸入に伴う国際物流をクラウド上で管理している。全ての案件のステータスや必要な書類が同じシステム上で一元管理できるようになり、倉庫業者との連絡手段もShippio Cargoのチャット機能に置き換わったことで、案件に紐づくあらゆる情報が可視化、共有可能になった。井口氏は「明確な定量化は難しいのですが、当初の狙いどおり、当社側の貿易事務の工数は明らかに削減できています。セールスの支援やお客様サポートなど、ビジネスの成長につながる業務に、より多くの人的リソースを割けるようになりました」と手応えを語る。

 担当者のみが特定の情報を把握・管理するというシチュエーションを排除したほか、過去のチャット履歴などを参照できるので、案件ごとの業務の属人化も解決できたという。「ブラックボックスになっていたプロセスをなくし、事業継続性を高められたのは大きな成果でした」と井口氏は強調する。

 また、社外パートナーとのコミュニケーションも活発化したという。メールやFAXではなくShippio Cargoのチャット機能を使うようになったことで、コミュニケーションの頻度が増え、より密な連携が取れるようになった。さらに、Shippioソリューションの本格導入過程でShippio Cargoを共通の基盤とした業務プロセスの最適化、再構築に取り組んだことで、パートナーシップも強固になった。「双方向で継続的にプロセスの改善を提案しあえる関係になった感があります。Shippioのソリューションをしっかり活用してくれるパートナーさんとは、長期的に安定した取引がしたいと考えていますし、パートナー企業にとってもそれがインセンティブの一つになっているのではないでしょうか」(井口氏)

 現状の課題は、「(貿易事務の起点となる)海外のメーカーからの船積書類送付をShippioソリューションに巻き込めていない」(三好氏)こと。取引量の多い海外メーカーについては、メールではなく、直接Shippio Cargoに書類をアップロードしてもらうという運用に変えてもらえるように働きかけていくという。Shippioソリューションを基盤に業務プロセスやパートナーエコシステムの最適化、再構築をさらに進め、ビジネスの成長にフォーカスしたい考えだ。