顧客体験の進化を追求するSUBARUのID戦略 200万超のユーザーを支える認証基盤とは

2024年10月9日18:00|インサイト京部 康男
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 SUBARU(スバル)は、ユーザー体験(UX)の向上を目指して顧客IDを統合し、その認証基盤として「Okta Customer Identity Cloud (Auth0 by Okta)」を採用した。従来、複数サービスにまたがるIDの分断や、データのサイロ化が課題となっていたが、共通のIDで顧客データを一元管理することで、パーソナライズされたサービスの提供や、新たなビジネスの創出につなげている。9月に東京で開催された「Okta Identity Summit Tokyo 2024」に同社国内営業本部ビジネスイノベーション部カスタマーエクスペリエンスグループの吉田隆幸氏が登壇し、取り組みの詳細を説明した。

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SUBARU国内営業本部ビジネスイノベーション部カスタマーエクスペリエンスグループの吉田隆幸氏

商品の差別化だけでなく顧客体験の付加価値向上が課題に

 自動車事業を主軸としながら、航空機事業も手がけるSUBARU。自動車部門では、SUVを中心としたラインナップを展開し、SUVが全体の8割を占める選択と集中を徹底したラインナップ戦略を展開している。「安心と愉しさ」という提供価値を掲げ、四つのコアテクノロジーを展開している。特に注目されるのが、「ぶつからないクルマ」としても知られる「アイサイト」と、国産車で唯一の水平対向エンジンだ。

 こうした技術に自信を持つSUBARUだが、国内外のビジネスは楽観できる状況にはないという。グローバルでの販売台数は年間約100万台で、世界シェアではわずか1%程度にとどまっている。吉田氏は「2017年頃まではSUVのラインアップやアイサイトで先駆者的な立場にあったことが強みでした」と話すが、国内市場は2017年以降、販売台数が低下傾向にある。

 さらに、自動車業界全体が直面している課題として、市場の縮小や車両の高価格化、CASEと呼ばれる新たな技術トレンドへの対応が挙げられる。こうした状況を踏まえ、吉田氏は「商品の差別化だけでなく、顧客体験領域でも付加価値を高めていく必要があります」と強調する。

「Auth0 by Okta」で顧客IDの認証基盤を統合、顧客体験分断を解消

 SUBARUが直面していた大きな課題の一つは、デジタルサービスにおける顧客体験の分断だった。「SUBARU ID」という顧客IDを使ったデジタルサービスを提供していたが、異なるIDが必要なサービスも存在していたため、顧客の利便性が損なわれていた。さらに深刻だったのは、この体験の分断によって引き起こされる顧客情報のサイロ化だったという。

 こうした課題を解決するために、SUBARUは顧客データ基盤の整備に着手。その中核となる取り組みとして、SUBARU IDをあらゆるデジタルサービスの共通IDと位置づけ、認証基盤の統合を図った。吉田氏は「認知の段階からアフターサービスのファンコミュニティの領域まで、一貫してSUBARU IDで全てのサービスを提供できるかたちになっています」と説明する。

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SUBARU IDの活用イメージ

 SUBARU IDの認証基盤には「Okta Customer Identity Cloud (Auth0 by Okta)」を採用している。吉田氏は選定理由について、セキュリティ面での優位性、特に多要素認証への対応を評価したと説明。また、Auth0 by Oktaのソーシャルログインの豊富な選択肢は、顧客のログイン時の負荷を低減する上で大きな利点となったとしている。また、対応言語の豊富さが外部サービスとの連携をスムーズにし、開発コストの低減に寄与しているという。

リード情報を分析して販売店に共有し営業活動を高度化

 ID認証基盤の統合により、それぞれの顧客に紐づく多様なデータをより網羅的に分析できるようになった。こうした環境を積極的に活用し、顧客体験の向上、業務効率の改善、にマーケティング効果の向上、新規ビジネスの創出につなげたい考えだ。吉田氏はOkta Identity Summit Tokyo 2024の講演で、現在進行中の具体的な取り組みも紹介した。

 特に大きな成果を上げている施策としては、キャンペーンなどで収集したリード情報を機械学習で分析し、商談成約に至りやすい顧客をランク付けし、販売店に共有しているという。「現在の実績では、Aランクを付けた顧客は約5割近く成約に至っています」と吉田氏。直近では、キャンペーンで取得したアンケート情報だけでなく、IDとクッキー情報を紐付けて顧客のWeb回遊履歴も可視化して販売店に提供している。これにより、商談の一層の効率化や成約率向上につなげたい考えだ。

 顧客データの分析から生まれた新しい価値提案の事例としては、ドライブアプリ「SUBAROAD」を挙げた。単純なナビゲーション機能だけでなく、ユーザーに「走って面白い道」を提案するアプリで、ロイヤルユーザーと一般ユーザーのニーズの差を分析して生まれたものだ。

 SUBARU IDの登録ユーザーは現在、200万を超える規模に成長している。吉田氏は「これだけの数のお客様の情報を捉えて分析し、体験設計ができているということです。この規模感に耐えられるOktaの認証サービスは、我々の期待に応えてくれていると改めて実感しています」と話す。

 今後、リード情報の集約はオフラインデータまで範囲を広げていく計画だ。「例えば紙のアンケートなどを電子化してデータを収集できるようにしていく」(吉田氏)という。オーナー向けにも、アプリを通じてSUBARU IDの登録を促す。SUBARU IDを起点に顧客情報の取得範囲を拡大することで、「パーソナライズされた便利なサービスをシームレスに提供していきたい」と吉田氏は意気込む。