デンソー、AIで熟練技術を継承へ 暗黙知を形式知化し開発力維持

2025年12月1日23:25|ニュースCaseHUB.News編集部
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 デンソーは、熟練エンジニアが持つ技術やノウハウを次世代へ継承する仕組みとして、AIを活用したナレッジマネジメントシステムの構築を開始した。システムの構築には富士ソフトの支援を受ける。11月28日、富士ソフトが発表した。熟練者の経験や勘といった「暗黙知」をAIに学習させて「形式知」へと変換し、データベース化する。これにより、技術の属人化を解消して生産性を向上させるとともに、人材の流動性が高まる中でも安定した開発力を維持したい考えだ。

 デンソーは先進的な自動車技術やシステムを提供するグローバルサプライヤーであり、近年は農業分野などへも事業領域を広げている。競争力の源泉は高い技術開発力にあるが、その根幹を支える熟練エンジニアのナレッジ消失が深刻な経営課題となっていた。定年退職による人材減に加え、グローバル展開に伴い人材の流動性が高まっていることが背景にある。特に海外拠点では日本に比べて在籍期間が短い傾向にあり、限られた時間内でいかに効率的に技術を継承するかが急務となっていた。

 従来の手法では、熟練エンジニアの頭の中にある経験則や勘を言葉で説明しきれず、継承が困難な場面が多かった。今回構築を開始したナレッジマネジメントシステムは、こうした言語化が難しい「暗黙知」を、AIや機械学習を用いてデジタルデータ(形式知)として蓄積するものである。これにより、若手エンジニアや経験の浅い職員でも、必要な時にデータベースから高度なナレッジを抽出し、業務に活用できる環境を整備する。

 システム構築パートナーとして富士ソフトを選定した理由は、35年にわたる取引で培われた信頼関係に加え、同社の提案力を評価したためだ。デンソーの研究開発部ではAI活用の構想を持っていたものの、具体的な実現方法に課題を抱えていた。富士ソフトは確かな技術力を背景に、AIの可能性や具体的な活用方法を積極的に提案した点が、最終的な決め手となった。

 プロジェクトは2025年4月に始動した。現在はプレビュー版システムの構築と検証を進めている段階だ。現場のエンジニアに実際にシステムを利用してもらいながら、いかに効率よく暗黙知を形式知化できるか、システムの処理能力や精度の検証を行っている。部署の垣根を越えて多くのエンジニアが利用することでデータを蓄積し、AIの学習精度を高めていく方針だ。

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構築するナレッジマネジメントシステムの概要

 今後は数年をかけてプレビュー版でシステムの完成度を高めた後、正式版としての運用を開始する計画だ。蓄積するデータの形式も、現在のテキスト中心から、動画や音声など多様なフォーマットへの対応を目指す。デンソー研究開発部課長の田口和也氏は、「AIの可能性を信じ、ナレッジマネジメントシステムの構築とエンジニアへの浸透に取り組んでいく。AIのナレッジを高めつつ、それを扱うエンジニア自身も成長できるシステムにしていきたい」と話している。

ニュースリリース