核融合科学研究所、AIでプラズマの放射崩壊を予測し制御 Spakonaと実証実験

2025年12月24日11:56|ニュースCaseHUB.News編集部
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 核融合科学研究所は、核融合プラズマの安定化を目的にAI制御技術を採用した実証実験を実施した。12月24日、AI制御技術の共同研究を行うSpakonaが発表した。プラズマが不安定化して消失する「放射崩壊」の兆候をAIがリアルタイムで検知し、自動制御する仕組みの有効性を検証した。政府が推進する核融合原型炉の基盤技術確立を目指し、商用炉の実現に向けた技術革新を加速させる方針だ。

 日本政府は2025年6月にフュージョンエネルギー・イノベーション戦略(核融合戦略)を改定し、2030年代の発電実証を目標に掲げている。核融合エネルギーは脱炭素とエネルギー安全保障を両立する次世代電源として期待されているが、1億度を超えるプラズマを長時間安定して維持することが極めて困難という課題がある。特に放射崩壊によるプラズマの消失は核融合炉の実現を阻む大きな障壁となってきた。

 こうした課題に対し、核融合科学研究所とSpakonaの共同研究チームは、同研究所の大型ヘリカル装置(LHD)に蓄積された実験データベースを活用したAIモデルを開発した。このAIは、電子温度や密度などのセンサーデータをリアルタイムで分析し、放射崩壊が発生する前に予測するよう学習されている。実証実験では、AIが兆候を捉えた際に自動で粒子供給や加熱パワーを制御する信号を発信するシステムを構築した。

 AIモデルの構築には時系列スペクトル解析に特化した決定木アンサンブル学習を採用し、放射崩壊発生の100ミリ秒前を予測起点として学習を進めた。今回の実験ではさらに余裕を持たせ、崩壊の200ミリ秒以上前に兆候を検知して制御介入を行うことを試みた。モデル構築には約半年を要したが、研究所が従来から汎用的な設計で整備してきた制御系・通信基盤を活用したことで、LHDへの実装自体はわずか1週間程度で完了した。

 今回の実証実験により、AI技術が核融合炉の運転において有効に機能する一連のプロセスが示された。今後は制御アルゴリズムの高度化を進め、人間の熟練者に代わってAIが複雑な運転条件に対応できる技術への発展を目指す。また、今回の手法と既存の先行研究との比較解析も進め、重層的な研究展開を図る考えだ。

 核融合科学研究所の横山雅之教授は、産学連携により実機でのAI制御を、スピード感を持って実施できたとし、実験データベースの共有が核融合研究におけるAI活用の重要なユースケースになったと語る。また、Spakonaの河﨑太郎代表取締役は、AIが核融合炉の運転者として機能し得ることを示す重要な一歩になったとした上で、今後は判断根拠の可視化を進め、科学と工学の境界を越えた研究開発を支えていきたいとしている。

ニュースリリース