日本生命済生会、請求書処理の入力作業を約40%削減 現場への定着を支えた事前準備

2026年10月23日13:00|インサイト|谷川 耕一
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 日本生命病院を運営する日本生命済生会は、紙と手入力を中心とした請求書処理を見直すため、請求書受領システム「楽楽請求」を導入した。AI-OCRによる読み取りと仕訳パターンの事前登録を組み合わせ、会計仕訳と振込データの入力作業を約40%削減。経理グループでは、年間30人日の工数削減を見込む。実務担当者を選定段階から巻き込み、稼働前に現場が使いやすい環境を整えた取り組みを取材した。

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法人全体のデジタル化を背景に、経理業務も見直しへ

 日本生命済生会は1924年に設立された公益財団法人で、大阪市西区で日本生命病院を運営している。同病院は350床の病床と29の診療科、九つの診療センターを備える。同会は予防医学センターや訪問看護ステーションの運営に加え、生活困窮者への無料診療や児童養護施設での無料検診など、社会福祉事業にも取り組んでいる。

 同会は、医療現場から総務・経理などの事務領域まで、法人全体でデジタル技術の活用を進めている。例えば、電子カルテシステムと生成AIを連携させ、診療情報を基に紹介状の素案を自動作成することで、医師の業務負担を軽減している。

 こうした取り組みの中で見直しの対象となったのが、病院経営を財務面から支える事務管理部経理グループの請求書処理である。紙と手作業を中心とした運用が続き、その負担は年々重くなっていた。

PDFも紙に印刷して回覧、二重入力と確認作業が負担に

 請求書処理の見直しに着手した背景には、取引先の増加と制度改正がある。同会は、より安価で質の高い医療材料を調達するため、調達先の選定を進めてきた。その結果、取引先は約500社に広がり、受け取る請求書も増加した。インボイス制度や電子帳簿保存法、複数税率への対応も、経理グループの負担となっていた。さらに、2024年12月には公益法人会計基準が大幅に改正され、財務諸表の様式や注記による開示項目の見直しへの対応も必要になった。

 日本生命済生会 日本生命病院 事務管理部 経理グループの武本将氏は「この10年ほどで業務量は段階的に増えてきました。現状の体制のまま従来通りに回していくのは限界でした」と振り返る。

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日本生命済生会 日本生命病院 事務管理部 経理グループ 武本将氏

 楽楽請求の導入前、受け取る請求書の8割は紙、2割はPDFだった。紙の請求書が郵送で届くと、各部署の担当者が手書きで伝票を作成し、部署内で回覧して押印による承認を受けていた。PDFで届いた請求書は、電子帳簿保存法に対応するため専用サーバーのフォルダに保存したうえで、紙に印刷していた。その後は紙の請求書と同じように、伝票を作成して回覧する。武本氏は「PDFで受け取った方が、紙で郵送されてくるよりかえって手間がかかっていました」と話す。

 部署内で承認を終えた伝票と請求書は、経理グループに回される。同グループでは書類を基に電卓で集計し、会計システムへの仕訳入力と、法人向けインターネットバンキングへの振込データ入力を、それぞれ手作業で行っていた。同じ請求書の情報を二つのシステムに入力する運用だった。

 処理後の伝票を科目コード順に並べ替え、ファイリングする作業もあった。入力漏れや不整合は月に5〜10件程度発生しており、その確認と修正にも時間を取られていた。

 紙中心の運用には、処理状況を共有しにくいという問題もあった。担当者が急に休むと、ほかの職員が作業を引き継ぐのが難しい。ベテラン職員の定年退職を見据え、業務のノウハウをどう継承するかも課題となっていた。

実務担当者も選定に参加、使いやすさと費用対効果を評価

 そこで同会は、2025年2月に請求書受領システム導入の検討を始め、最終的に4社のシステムを比較した。重視したのは、現場での使いやすさ、将来的な機能拡張性、費用対効果の3点である。

 比較に当たっては機能比較一覧表を作成し、重視する条件を総合的に評価した。その結果、ラクスの「楽楽請求」を選んだ。武本氏は「現場に導入しやすく、重視した評価項目のバランスが最も取れていました」と語る。

 ベンダーから提案を受ける場には、各部署の実務担当者も参加した。業務に欠かせない機能と、あれば便利な機能を切り分け、実際の作業に即して評価を進めた。楽楽請求の画面構成や操作性についても、担当者が高く評価したという。

 ラクス製品の利用経験も選定を後押しした。同会はすでに、請求書の発行業務に「楽楽明細」を利用しており、同社のサポート体制に信頼を寄せていた。

 費用対効果については、経理グループと各部署で削減できる工数を人日に換算し、システムの利用料と比較した。削減効果の見込みを数字で示したことで、経営層の承認もスムーズに得られた。

仕訳パターンを事前登録し、現場が使い始めやすい環境を整備

 2025年9月の本格稼働に向けては、約500社の取引先情報の登録や口座情報のひも付け、補助科目コードの設定など、多くの初期設定が必要だった。中でも武本氏が重視したのが、取引先ごとの仕訳パターンの事前登録である。

 継続して取引のある業者への支払いでは、計上する勘定科目や振込先口座が毎月変わらないことが多い。こうした処理内容をパターンとして登録しておけば、請求書を取り込んだ際に必要な項目が自動入力される。

 武本氏は「システムが稼働して現場の担当者が画面を開いたとき、仕訳や振込の情報がすでに入っている状態にしたかったのです。初期設定の手間はかかりましたが、パターンを網羅して登録しておいたことで、現場の反応はよかったです」と明かす。

 紙中心の運用からの移行では、各部署の担当者が、新しいシステムの操作や仕事の進め方に戸惑うことも予想された。そこで同会は、選定段階から参加していた担当者から、継続して懸念や要望を聞き取った。

 本格稼働前には業務の流れに沿ったマニュアルを整備し、ラクスのサポート担当者もオンラインで参加する院内説明会を開いた。こうした準備を経て、約30人の登録ユーザーは、大きな混乱なく新しい運用に移行できた。

入力作業は約40%減、年間30人日の工数削減を見込む

 導入に合わせ、請求書の受け取り方も見直した。PDFの請求書は、システムに取り込むための専用メールアドレスに直接送ってもらうよう、取引先に依頼した。これにより、専用サーバーへの保存や、印刷して回覧する手間をなくした。紙で届く請求書も、スキャナーで電子化してシステムに取り込む運用に切り替えた。

 取り込んだ請求書はAI-OCRで読み取り、登録済みの仕訳パターンと組み合わせて処理する。担当者は入力内容を確認し、承認を進める。請求金額や振込先口座、仕訳内容に登録済み情報との食い違いがある場合はシステムが警告を表示するため、確認が必要な箇所を把握しやすくなった。

 AI-OCRによる読み取りと仕訳パターンの組み合わせにより、会計仕訳と振込データの入力作業は約40%減った。紙の回覧や電卓による集計、ファイリングといった作業も減り、毎月の請求書処理が完了するまでの期間は、5営業日から1〜2営業日程度に短縮した。さらに、請求書の処理状況をシステム上で共有できるようになった。担当者が不在でも、ほかの職員が進捗を確認して対応できる。経理グループ全体では、目標としていた年間30人日の工数削減を達成できる見通しだ。

 処理の正確さも高まった。武本氏は「入力ミスや確認漏れのリスクは大きく下がりました。導入前は月5〜10件程度あった入力漏れや不整合が、今はほぼゼロになっています」と効果を語る。

 これにより生まれた時間は、従来手が回りにくかった業務に充てている。住民税や所得税に関する実務に加え、経営層向けの財務レポートの作成・分析にも取り組めるようになった。

請求書処理に続き、経費精算や債権管理の見直しも視野に

 同会では既に、楽楽明細により請求書の封入・発送作業や郵送コストを減らしてきた。今回の楽楽請求の導入で、請求書を発行する側だけでなく、受け取る側にもペーパーレス化が広がった。

 今後は、現金で処理している小口経費の精算を「楽楽精算」に、Microsoft Accessで管理している債権管理業務を「楽楽債権管理」に移すことも検討する。現場の運用状況や担当者の交代時期を踏まえ、段階的に進める方針だ。

 今回の取り組みでは、AI-OCRによる読み取りに加え、仕訳パターンの事前登録や実務担当者への説明など、稼働前の準備に力を入れた。入力作業を自動化する仕組みと、現場が使い始めやすい環境を併せて整えたことが、具体的な成果につながった形だ。