チームスピリットがAIシフト作成基盤をSalesforce外のOCIに構築した理由

2026年10月9日09:00|インサイト|谷川 耕一
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 チームスピリットは2026年8月27日、勤務シフトの作成を自動化する新サービス「TeamSpirit AIシフトエージェント」の提供を開始した。生成AIとルールに基づくプログラム処理を組み合わせ、従業員の勤務希望や現場ごとの条件を踏まえたシフト案を作成する。Salesforceのプラットフォーム上で主力製品を展開してきた同社が、新サービスの基盤に選んだのはOracle Cloud Infrastructure(OCI)とOracle Autonomous AI Database(ADB)だ。同社プロダクトオペレーション本部 本部長の手島健志氏へのインタビューから、Salesforceの外に基盤を構築した背景と、OCIとADBを選んだ決め手を探る。

生成AIの進化が後押ししたシフト作成の自動化

 チームスピリットは、2012年のサービス開始以来、企業の勤怠・労務管理を支えてきた。主力製品の「TeamSpirit」は、勤怠管理を中心に、工数管理や経費精算、電子稟議などのバックオフィス業務をまとめて扱えるクラウドサービスで、Salesforceのプラットフォーム上に構築されている。

 TeamSpiritの勤怠管理機能は、従業員が実際に働いた時間の記録・集計が中心で、誰がいつ働くかを前もって決めるシフト作成は対象外だった。一方、シフト勤務を取り入れている企業からは、シフトの作成や管理もTeamSpiritに任せたいとの要望が寄せられていた。

 同社はこれまで、Microsoft Excelなどで作成したシフトデータをTeamSpiritに取り込む仕組みは提供してきた。ただし、対象となるのは作成済みのシフト情報であり、シフトそのものを自動で組む機能ではなかった。

 シフトの自動作成には、従業員ごとの勤務希望、時間帯ごとの必要人数、労働時間のルールなど、多くの条件を考慮する必要がある。その内容は企業や現場によって異なり、こうした条件を踏まえて人員を割り当てる仕組みの開発には、時間とコストがかかる。同社は顧客のニーズを把握していたものの、本格的な開発には踏み切れずにいた。

 状況を変えたのが、生成AIの性能向上である。

 「勤怠システムを提案する中で、シフト作成機能のニーズの大きさは実感していました。生成AIの性能が上がり、実用的な自動生成のめどが立ったことで、社内でも開発の話がスムーズに進みました」(手島氏)

 検証を経て、同社は新サービスの開発に踏み切った。

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チームスピリット プロダクトオペレーション本部 本部長 手島健志氏

 開発を後押ししたもう一つの要因が、労務管理を取り巻く環境の変化だ。短時間勤務や週3日勤務、副業・兼業など、働き方が多様になり、1日を複数のシフトに分けて人員を配置するケースも増えている。就労資格に応じた勤務時間の制限や、店舗ごとに必要な資格・スキルなども考慮しなければならない。

 こうした条件を目視や手作業だけで確認すると、見落としによって、法令や社内ルールに反するシフトを組んでしまうおそれがある。管理者の負担を減らしながら、問題のある割り当てを事前に検知する仕組みが求められていた。

Salesforceの外に基盤を設けた理由はライセンスコスト

 構想を進める中で同社はまず、新機能を稼働させる基盤を決める必要があった。有力な選択肢は、既存のTeamSpiritと同じSalesforceのプラットフォームだ。しかし、その場合に課題となったのが、利用者のライセンスコストだった。

 シフト管理機能を必要とする企業の多くは、パートやアルバイト、派遣社員などのシフト勤務者を大勢抱えている。繁忙期だけ人員を増やしたり、従業員の入れ替わりが頻繁だったりする職場も少なくない。シフト希望の提出や確定したシフトの確認のため、従業員一人ひとりもシステムを利用する必要がある。同社が検討したSalesforce上での提供方式では、管理者だけでなく、こうした従業員もSalesforceのライセンスの対象となる。

 「パートやアルバイト一人ひとりにSalesforceのライセンスが必要となれば、顧客企業にとって割に合わなくなってしまいます。多くの利用者を無理のないコストで管理するには、Salesforceの外に基盤を用意する必要がありました」と手島氏は説明する。

 そこで同社は、新サービスの基盤にOCIを、データベースにADBを採用した。OCI上で動作するTeamSpirit AIシフトエージェントは、Salesforce上のTeamSpiritとREST APIを介して双方向にデータをやり取りする。TeamSpiritと組み合わせて使うほか、TeamSpiritを導入していない企業でも利用できる。

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AIシフトエージェントの論理構成(冗長化構成‧監視‧バックアップ等の詳細は省略)

 TeamSpiritと連携する場合、管理者は画面上のボタン操作で、社員マスターや部署情報、勤務パターンなどの基本データを同期できる。連携対象のデータを手作業で入力し直す必要はない。AIシフトエージェントはPCに加え、スマートフォンやタブレットにも対応しており、従業員は手元の端末からシフト希望を提出し、確定したシフトを確認できる。

OCIとADBを選んだ三つの理由

 クラウド基盤とデータベースの選定で同社が重視したのは、コストの予測可能性、企業向けシステムとしての信頼性、AI活用を支える機能の3点だ。

 まず、コストの予測可能性である。同社は、リクエスト数やクエリの実行回数に応じて料金が変動する方式では、利用が増えたときの費用を見通しにくいと考えた。分析やデータ抽出のたびに費用を意識することが、データ活用をためらう要因にもなり得る。

 これに対し、ADBのコンピュート費用は、割り当てた計算リソースと稼働時間などに基づいて決まる。「OCIとADBはアクセス数に左右されず、定額に近い形で使えるので、事業計画上のコストが読みやすい。将来ほかのプロダクトを移すことも含めて試算したところ、既存のインフラコストを約半分にできる見込みが得られました」と手島氏は話す。

 同社は本サービスの開発に先立ち、SnowflakeとAWSで構成していた社内の主なデータ分析基盤をADBへ移行し、運用を始めていた。コスト削減効果や安定性を自社で確かめていたことも、今回の採用を後押しした。

 信頼性については、大企業や大規模な組織での実績があるOracleのデータベースを採用していることが、顧客の安心材料になるという。

 AI活用を支える機能として同社が評価したのが、ADBのアノテーション(注釈)機能だ。業務システムのデータベースでは、テーブルやカラムの物理名に略語が使われていることが多い。既存のアプリケーションが参照しているため、それらの名称は変更しにくい。一方、略語だけでは、AIが何のデータなのかを読み取りにくい。アノテーション機能を使えば、物理名を変えずに名称の説明や業務上の意味をメタデータとして補足できる。

 自然言語の質問からSQL文を生成し、データを抽出する「Select AI」も選定理由の一つとなった。同社は、AIシフトエージェントで有給休暇の規定などに関する管理者や従業員からの問い合わせ対応にSelect AIを利用している。加えて、社内のデータ分析にも活用しているという。同社の評価では、LLM(大規模言語モデル)への複数回の問い合わせとベクトル検索を組み合わせる方法に比べ、コストを抑えながら、迅速で正確な回答につなげられるとしている。

「30人の壁」を越えたAIとプログラムの役割分担

 開発初期、同社は大きな壁にぶつかった。当初は、プロンプトで勤務ルールや各スタッフの希望をインプットし、シフトの割り当てから制約条件のチェックまで、すべてをLLMに任せる設計だった。しかし、スタッフ数が30人を超えたあたりから、条件を踏まえたシフト案を安定して生成することが難しくなった。

 そこで同社は、LLMと、ルールに基づいて動作するプログラムを組み合わせる構成に切り替えた。シフトの割り当て処理はプログラムが担い、LLMはそのプログラムを生成する。

 「LLMに直接シフトを作らせるのではなく、シフトの割り当てを行うプログラムをLLMに生成させる方式へ変更したことで、大規模なシフトも安定して作成できるようになりました」と手島氏は語る。現在は、100〜200人規模の組織でも、シフト案を約5分で作成できるという。

 この役割分担は、コスト面でも効果がある。LLMがプログラムを生成・更新するのは、会社の勤務ルールや店舗独自の条件が変わったときだけだ。日々のシフト作成時にはLLMを呼び出さないため、AIの利用コストを抑えられる。

 作成したシフト案に、人員不足や重複した割り当て、勤務希望との不一致などがあれば、エラーや警告として画面に表示する。システムが一方的に修正するのではなく、管理者が内容を確認し、最終的な調整と判断を行う。

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AIシフトエージェントのシフト管理画面イメージ

 店舗ごとの運用ルールや、店長が経験の中で培ってきた配置のコツも、言葉で伝えれば、LLMがプログラムに反映する。管理者が交代しても、登録したルールやノウハウはシステムに残り、次の担当者に引き継がれる。

シフト作成業務は月20〜30時間の削減へ、他製品の基盤見直しも

 同社はリリース前の検証を踏まえ、利用企業のシフト作成にかかる時間を月20〜30時間削減できると見込んでいる。今後は本番運用を通じて、アクセス集中時の処理性能や運用の安定性も確認していく。

 今回の開発にかかった費用については、インフラコストの削減を踏まえ、1〜3年で回収できると試算している。

 基盤のコスト削減に向けた取り組みは、今回の新サービスにとどまらない。OCIとADBの運用で得た知見を、ほかの製品にも生かす方針だ。Salesforceなど既存のプラットフォームも引き続き活用しながら、製品ごとに適した基盤を選ぶ。他の基盤で稼働する既存のシステムや機能のうち、移行によるコスト削減が見込めるものは、順次OCIへ移す計画だ。

 同社が見据えるのは、コスト削減だけでなく、蓄積したデータの活用を広げることだ。手島氏はデータ基盤の今後について「汎用性の高いリレーショナルデータベースにデータをしっかり集約できれば、これまで見えていなかったデータ全体の価値や新しい活用法が見えてきます。蓄積されたデータを高度な分析や将来的なAI連携に柔軟に生かせる環境を整え、プロダクト全体の新たな価値につなげていきたいです」と語る。