エキサイト、Twilioで通話基盤を刷新 5億円超のコスト削減とサポート品質向上を実現

2026年7月31日15:00|インサイト谷川 耕一
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 ポータルサイトをはじめ、多彩なWebサービスを展開するエキサイトは、主力事業であるオンラインカウンセリング「exciteお悩み相談室」と「excite電話占い」の通話基盤を刷新した。2006年に始まったexciteお悩み相談室を中心に両事業は成長を続けてきたが、従来型の通信システムでは、同時接続数の増加に伴う設備投資や運用保守の負担、通話情報の可視化の難しさが課題となっていた。同社は通信プラットフォーム「Twilio」を採用し、従量課金制のクラウド基盤へ移行。通信コストを従来比で約70%削減し、累計5億円以上のコスト削減を実現したほか、通話セッションのリアルタイム把握や全通話のテキスト化も可能にした。同社が基盤刷新に踏み切った背景と、その成果をたどる。

24時間、社会のメンタルヘルスを支えるカウンセリング事業

 1997年8月に設立されたエキサイトは、複数のIT関連事業を展開している。その中核の一つが、専門家によるカウンセリングを提供する「exciteお悩み相談室」と「excite電話占い」だ。両サービスは、同社グループ全体の売上高の2割以上を占める。

 exciteお悩み相談室は、約20年の運営実績を持ち、在籍カウンセラー170名以上、累計相談件数40万件超のオンラインカウンセリングサービスである。臨床心理士や心理カウンセラーなどの専門家が、24時間365日、匿名で相談に応じている。料金は通話時間1分ごとに発生する分数課金方式で、ユーザーは相談内容に応じて専門家を選び、利用時間に応じた費用を支払う。

 運営を続ける中で、ユーザー層や相談内容には変化が生じた。エキサイト取締役の秋吉正樹氏は、「コロナ禍以降、仕事やメンタルヘルスに関する相談が増えており、20代の若年層の利用も着実に広がっています」と話す。さらに、サービスの利用は20時から24時にかけて集中する傾向があり、帰宅後や一息ついた時間帯に相談する人が多いという。こうしたサービスは、深夜や早朝も含めて、24時間、社会のメンタルヘルスを支える役割を果たしている。

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エキサイト 取締役 秋吉正樹氏

サポート終了に伴うシステムリプレースを課題解決の機会に

 同社が通話基盤のリプレースに踏み切った直接のきっかけは、従来システムのサポート期限終了だったが、長年抱えてきた事業構造上の課題を根本から見直す機会として活用することにしたという。

 旧システムの課題は大きく3点あった。1点目は、通信方式の拡張性が乏しかったことだ。従来の仕組みは回線ベース(レガシーPBX等)による着信型通話に限られ、Web上で申し込んだユーザーの登録電話番号に自動で着信が入る仕組みに限られていた。

 2点目は、通信コストの高騰と設備管理の難しさである。サービスの成長に伴って利用者が増えると、同時接続数も増加するが、旧システムは自動で接続量を調整するオートスケールに対応していなかった。そのため、夜間の繁忙期に合わせてハードウェアを増設し続ける必要があった。エキサイト執行役員CTOの藤田毅氏は、当時の悩みを次のように振り返る。

 「絞り込みすぎると繁忙期に顧客の電話が話中になってしまい、接続自体ができなくなります。逆に最大接続数に基準をあわせると、閑散期の昼間に設備が過剰となり、運営事業者として維持管理コストが高止まりしてしまうというジレンマが常にありました」

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エキサイト 執行役員CTO 藤田 毅氏

 3点目は、通話セッション情報の可視化が難しかったことだ。通話時間と現在の接続数程度しか把握できず、通信不良が起きた際の原因究明や迅速なサポート対応は難しかった。

 こうした課題を解消する基盤として選ばれたのが「Twilio」である。Twilioは、電話やSMSなどの通信機能をAPIで組み込めるクラウドコミュニケーションプラットフォームだ。従量課金制によるクラウド運用への移行によりコスト削減が見込める点に加え、API経由で細かな通話制御を行える点が評価された。さらに、開発者向けドキュメントやSDKが充実しており、移行コストや開発期間を抑えられる点も決め手となった。

 加えて、サービスの特性上欠かせない「音声品質と接続安定性」も評価されている。同社のカウンセリング関連事業では年間約15万時間もの通話が発生するが、Twilioはその膨大な通信を安定して処理し続けている。専用アプリを通じたIP通話においても高い通信品質を保てている実績が、同プラットフォームへの信頼につながっている。

新基盤は「バッチ中心」の処理から「イベント駆動型」へ

 2021年6月の本番稼働に向け、開発は段階的に進められた。技術検証の段階では、担当エンジニア1名がアカウントを作成し、オンラインドキュメントを参照しながら評価を進めた。2カ月でプロトタイプの構築に成功し、社内での採用判断を後押しした。

 その後、プログラマー3名をアサインして本番用プログラムを構築し、約3カ月で開発を完了した。さらに後半の3カ月は、旧システムからTwilioベースの新基盤へのデータ移行と、無停止切り替えの検証に充てた。サービスの性質上、長時間の停止が難しいため、安全な切り替えには万全を期した。

 新基盤のアーキテクチャでは、全体の処理構造が大きく見直された。従来は通話終了後にシステム側からログを取得しにいく「バッチ中心」の処理だったが、Twilio導入後は「イベント駆動型」へと刷新されている。

 エキサイト開発責任者の千葉雄介氏は、リプレース工程での工夫と苦労について次のように語る。「匿名通話を成立させる2者間の接続ロジック自体は、Twilioの豊富な事例を参考にスムーズに実装できました。苦労したのは旧システムのデータ構造からの移行と、新たなリアルタイム処理の組み込みです。システムをイベント駆動型へと刷新し、『ユーザーが通話を行うと、Twilioが着信や切断などの通話イベントを受け取り、Webhook経由で自社バックエンドへ即時に通知する。これをデータベース(DB)へ反映する』という流れへと作り変えました。この自社システムとの密結合部分を分解し、再構築する作業が最も神経を使いました」

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エキサイト テクノロジー戦略室 コンシューマーエンジニアリング部 部長 千葉雄介氏

 この「ユーザー→Twilio→自社バックエンド→DB」という明確な情報の流れを構築したことで、通話状況のリアルタイムな可視化が実現している。同基盤では、通話や録音に「Twilio Programmable Voice」、電話番号認証に「Twilio Verify」、通知や案内に「Twilio Programmable SMS」を使い分けており、これらの認証系・通知系APIの実装も比較的スムーズに進んだという。

コスト70%削減し、機能拡張や新規開発、顧客体験向上に投資

 Twilioの導入は、コスト面とサービス品質の両面で成果をもたらした。移行後は、Webからの発信に加え、専用アプリを通じたIP通話も利用できるようになった。従量課金制のクラウド基盤への移行により、初期投資やハードウェア拡張に伴う保守費用を大きく抑えられた。

 定量的には、回線費用や設備維持費を含む通信関連コストを、従来比で約70%削減した。サービス切り替えから2年間で約1.8億円、導入から約5年が経過した現在までの累計では5億円超の削減につながっている。削減分は、機能拡張や新規開発、顧客体験向上の投資に振り向けられている。

 定性的な効果としては、CS品質の大幅な向上が挙げられる。Webhookによるリアルタイム管理で、通話終了後すぐに精算処理を行えるようになり、ユーザーへの料金確定情報の提供も迅速になった。さらに、「Voice Insight」や「Request Inspector」を活用することで、発信側・着信側のどちらの応答が遅れたのか、強制切断が起きたのかといった詳細な通話セッション情報をCS担当者自身が視覚的に把握できるようになった。これにより、従来はエンジニアへのエスカレーションが必要だった通信不良時の障害特定がCS現場のみで完結するようになり、一次対応での原因究明スピードが飛躍的に向上している。秋吉氏は、この変化について次のように評価している。

 「従来はカスタマーサポートの担当者が技術者に聞かないと原因が分からないケースもありましたが、Twilio導入後は詳細な情報をCS担当者自身が簡単に取得できるようになりました。通信状態に応じた緊急性や重要性の判断も容易になり、お客様への迅速かつ適切な一次対応が可能となったことで、サポートの品質は飛躍的に向上したと感じています」

 ピーク時間帯に合わせた設備投資を前提とする従来モデルから、需要に応じてスケールするクラウド型通信基盤への転換が、コスト構造そのものを変えた形だ。

プロの専門家だからこそのサービス品質をテクノロジーでさらに向上

 エキサイトはTwilio基盤への移行後、新たに全相談の通話内容を録音し、自動でテキスト化する取り組みを始めた。録音データは、利用規約違反や不適切な対応のモニタリングに活用されており、相談品質の管理と向上に役立てられている。

 一方で、同社はテクノロジーを活用しながらも、サービスの本質は「人」にあると強調する。秋吉氏は、AI時代にあっても深い悩みに向き合うには専門家による寄り添いが不可欠だと話す。

 「AI活用が進む時代にあって、私たちが扱うのは顧客の『心』です。AIでは対応しきれない、プロの専門家だからこそできる手厚いサポートや寄り添いがあると考えています。所属するカウンセラーや占い師一人一人の存在こそが真の差別化要因であり、そこは今後もぶらさずに提供し続けていきます」(秋吉氏)

 今後は、通話中に音声アナウンスを流すことができるConference機能(同時通話機能)の拡張や、「Twilio Video」を活用した映像相談の導入、生成AIや「Twilio Customer AI」を組み合わせた相談品質の分析などが検討されている。さらに、オンライン診療やバーチャル株主総会支援など、音声を伴う高品質なリアルタイム通信が必要なグループ事業全体でも、Twilioの基盤活用が期待されている。通信機能が単なるインフラからWebサービスと深く統合された価値創造の源泉へと変わる中、エキサイトの取り組みは今後のデジタルサービスにおける競争力の源泉となりつつあることを示している事例といえる。

写真提供::エキサイト