AIが音声通話で予約や調整を代行 グローバルな多言語通信の基盤に求められる要件とは?

2026年9月29日09:00|インサイト|谷川 耕一
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 チャット型生成AIによる対話や検索にとどまらず、指示された目的に応じてタスクを自律的に遂行する「AIエージェント」の実用化が進んでいる。外部サービスと連携した予約や問い合わせの代行も、そのユースケースの一つだ。米スタートアップのGensparkが提供する「Call for Me」は、AIがユーザーに代わって電話をかけ、店舗予約や日程調整などを代行するサービスだ。同社はその通信基盤として、Twilioの「Twilio Programmable Voice」を採用し、多言語対応とグローバル展開を実現している。しかし、国境を越えて音声通話を行うAIサービスには、通信品質の確保だけでなく、不正利用対策や各国・地域で異なる通信規制への対応といった課題も伴う。GensparkはなぜTwilioを選び、いかにしてグローバルな音声AIエージェントを運用しているのか。両社の担当者に話を聞いた。

AIエージェントを現実世界とつなぐ「電話」の役割

 大規模言語モデルの普及により、生成AIは文章作成や情報整理、検索支援などに活用されるようになった。一方で、外部サービスとのやり取りや、予約・問い合わせといったタスクを、指示から完了まで自律的に行うAIエージェントの実装は始まったばかりだ。

 米国のスタートアップであるGensparkは、自社のサービスを「オールインワンAIワークスペース」と位置づけ、文書作成、スライド作成、画像・動画生成、コード生成、情報整理など、複数のAI機能を提供している。その中には、外部とのやり取りを通じてタスクの完了を目指すAIエージェントの機能群も含まれる。

 「Call for Me」は、その具体例の一つといえる機能だ。オンラインのフォームやチャットだけでは完結しにくい予約手配や問い合わせに対し、ユーザーに代わってAIが直接電話をかけ、会話を伴う手続きを進める。Call for Meの開発を担当するリード・エンジニアのグルッグ・サン(Greg Sun)氏は、電話を「AIエージェントが外部とやり取りするための手段の一つ」と位置づけている。

 「従来の対話型AIは、質問への応答や情報提示が中心で、タスクを最後まで進める用途は限られていました。私たちが目指しているのは、実際にタスクを完了させることです。予約や問い合わせなど、実社会の多くの営みは今なお電話で行われています。だからこそ、AIを現実世界とつなぎ、人々に代わって実際に物事を終わらせるための架け橋として、音声通話機能が必要でした」(サン氏)

 Call for Meは、デジタル空間でのやり取りにとどまらず、実際の音声通話を介してタスクを実行する機能を備えている。真価を発揮するのは、複数の条件調整や細かな確認が求められる電話応対の現場だ。例えば飲食店の予約では、日時や人数だけでなく、予約者の氏名や連絡先、禁煙席や個室の希望、アレルギーの有無といった複数の条件をすり合わせる必要がある。Call for Meでは、ユーザーが指示した条件をもとにAIが店舗側と自然に対話し、通話完了後には結果や確認事項を要約してメールで通知する。

 Gensparkによると、Call for Meのユニークユーザー数は世界全体で18万人に達し、1日あたりの発信通話数は最大800件を記録している。特筆すべきは、全通話の23%でリアルタイム翻訳が利用されている点だ。海外の店舗や取引先など、言語が異なる相手に対しても、AIを介してスムーズに問い合わせや手配が進められていることがうかがえる。

各国・地域での電話番号取得や通話ルーティングを共通インターフェースで

 AIが自律して電話をかけるサービスをグローバルに展開するには、安定した通信品質の維持や各国の通信規制への対応など、AIモデルの開発とは異なるインフラレイヤーの課題をクリアする必要があった。Call for Meのように予約や問い合わせの代行を担うサービスでは、通話そのものがタスク完了の手段となるため、発信や接続の失敗はサービスの信頼性を損なうことにつながる。その上、少人数の開発チームで構成されるGensparkは、サービス開始当初からグローバル展開を前提としていた。国や地域ごとに異なる電話番号の調達やルーティング、現地の通信事業者との接続、各種規制への適応といった複雑な通信基盤を自前で構築・運用することは、限られたリソースでは現実的ではなかった。

 そこで同社は外部の通信プラットフォームを活用し、自社はAIモデルの開発やアルゴリズムの最適化にリソースを集中させる方針をとった。その通信基盤として採用したのがTwilio Programmable Voiceだ。Twilio Japan プリンシパルソリューションアーキテクトの中村光晴氏によれば、Twilioの役割は「インターネットと各国の電話網をシームレスにつなぐ仕組み」だという。国や地域ごとに異なる通信制度や規制、運用要件に対応し、世界中の通信キャリアとの接続に加えて電話番号のプロビジョニングや現地の通信規制、データレジデンシー(データの保持地域)への対応までをプラットフォーム側で吸収している。

 Gensparkが製品選定にあたって重視した要件は、単一のAPIで複数国・地域の通話を扱えることだ。国や地域に合わせた電話番号の取得や通話ルーティングを、共通のインターフェースで扱えることが求められた。Twilio Programmable Voiceは、40カ国以上での電話番号の取得や通話ルーティングに対応しており、Gensparkの方針に合っていた。

 リアルタイムの会話を支える低遅延と音声品質も重要なポイントだった。電話での対話では、応答が遅れたり、音飛びやノイズにより音声が聞き取りにくくなったりすれば、通話相手が会話を続けにくくなる。サン氏は、「AIがリアルタイムで会話するには、低遅延で、どの地域でも安定して利用できる音声通信の基盤が必要です。遅延により通話が切断されれば、ユーザーの信頼を一瞬で失ってしまいます」と話す。Gensparkによると、Twilioの通信基盤は、同社が求めるリアルタイム性と音声品質の要件に対応できたという。さらに、継続運用を支える可用性の高さも採用を後押しした。

利用者の理解促進と不正防止、実運用で見えた二つのハードル

 開発者向けAPIやドキュメントを活用することで、Call for MeへのTwilio導入自体は順調に進んだ。しかし、サービスを実運用へ移す段階では、通信機能の実装とは別に、利用者がAIによる電話発信をどのように受け止めるか、不正利用をどう抑止するかといった運用上の課題が浮かび上がった。

 その一つが、初期の利用者にサービスの内容と利用場面を理解してもらうことだった。生成AIの利用経験があるユーザーでも、AIが外部へ電話をかけ、相手との会話を通じて予約や問い合わせを進める仕組みには、従来の自動音声応答(IVR)に近い印象を持つ場合があった。そのため、利用前に具体的な用途や、AIがどのように自律対話を行うのかをいかに分かりやすく伝えるかが課題となった。

 これに対してGensparkでは、初めて利用するユーザー向けにAIエージェントが本人の電話番号へ発信する仕組みを設けた。この通話では、AIエージェントがCall for Meで対応できる内容や利用方法を説明する。利用者は実際のAIとの会話を通じて、応答の仕方や通話の進み方を確認できる。

 もう一つの課題は、不正利用や不適切な発信への対応である。国や地域をまたいで電話を発信できるサービスでは、詐欺や嫌がらせなどへの悪用を防ぐ仕組みが求められる。Gensparkは、ユーザーから依頼されたタスクの内容を発信前に確認し、不審な兆候がある場合には発信を制限する仕組みを設けた。

 また、電話代行サービスの悪用やスパム発信を防ぐセキュリティ対策として、同社はユーザー認証APIの「Twilio Verify」も採用している。新規登録時に連絡先情報の本人確認を行うことで、不正なアカウント作成や第三者による悪意ある利用を未然に防ぐ仕組みを整えた。

個人向け電話代行から企業業務を担う「AI従業員」へ

 Twilio製品の導入後、Call for MeのAIエージェントは地域を問わず1秒未満のレイテンシーと安定した通話品質での発信を実現し、通話成功率は94.3%、稼働率は99.97%に達しているという。Gensparkはこうした成果を踏まえ、個人による予約・問い合わせの代行で実績を重ねたCall for Meを、企業ユースへ展開することも見据えている。想定する領域は、社内手続きや顧客対応、営業活動のフォローアップなど、電話やメッセージによるやり取りを要する業務だ。Gensparkのコラボレーション機能「G Team」との連携も進められており、チャット上でAIエージェントに指示を出すだけで、必要に応じて電話発信と交渉を自動で実行できるようにするなど、業務プロセスの自動化を支えるツールとしての活用を見据えている。

 サン氏は、その将来像を「AI従業員(AI Employee)」という言葉で表す。これは、専用の電話番号やメールアドレスを持ったAIエージェントが、社内外の関係者と直接やり取りしながらタスクを進めるイメージだ。具体例として、社内ワークフローで割り当てられたタスクの完了を関係者に電話で伝えることや、人間の参加者による電話会議にAIエージェントが加わり、進捗や関連情報を説明することを挙げる。いずれも、音声通話やメッセージングを、AIエージェントがタスクを実行する際のコミュニケーション手段として活用するものだ。

 「将来のエンタープライズ市場では、企業がAI従業員を採用する時代が来るでしょう。AIが固有のアカウントを持ち、本物の従業員と同じように電話やメールでやり取りをするようになれば、人間とAI従業員の区別がつかなくなる未来が訪れるはずです」(サン氏)

 このAI従業員を実現するには、AIが判断・実行した結果を、状況に応じて適切な手段で伝える仕組みが不可欠となる。現在Gensparkは、音声通話の制御にTwilio Programmable Voiceを、メール配信にTwilioのSendGridを利用している。今後、企業での利用を広げていく上では、即時の確認には電話、定型通知にはSMS、詳細な記録共有にはメールといった柔軟なチャネルの使い分けに加え、実行権限の範囲設定や操作履歴の記録といった運用設計も重要な鍵を握る。