タカラスタンダード、Salesforceと企業データベースLBC で営業変革

2024年9月9日09:05|インサイト谷川 耕一
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 住宅設備メーカーのタカラスタンダードは、人口減少と新築着工数減少という業界の逆風の中、Salesforceと企業データベースLBCを活用したデータドリブン営業の実現で、変革に取り組んだ。営業活動の可視化、現場主導のレポート作成、取引先入力の負荷軽減などにより、Salesforceの定着にも成功。今後は蓄積されたデータを製造、在庫管理などにも活用し、さらなる成長を目指す。

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タカラスタンダード、データドリブン営業への転換

 大阪市に本社を置くタカラスタンダードの創業は明治45年(1912年)、琺瑯(ホーロー )素材を利用したシステムキッチンやユニットバスなどを製造販売する大手住宅設備機器メーカーだ。ホーローにはキッチンやお風呂などの水回りで利用しても汚れが付きにくく、耐久性があり退色もしない特長がある。

「素材的な優位性があるホーローを使った水回り商品を扱っているのは、国内ではタカラスタンダードだけです」と言うのは、タカラスタンダード 構造改革・DX推進室 兼 営業本部 マネージャーの新實 小百合氏だ。分譲マンションにおけるシステムキッチンの市場シェアで、タカラスタンダードは国内でトップレベルにある。

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タカラスタンダード 構造改革・DX推進室 兼 営業本部 マネージャー 新實 小百合氏

 日本では人口減などの影響もあり新築着工数は減少傾向だ。一方でリフォーム市場は活況だが、新築減少分をカバーし住宅設備市場が拡大するほどの伸びは期待できない。そのため国内だけでなく「海外展開にも積極的に取り組む必要があります。その上で、日本市場でしっかり勝ち残らなければなりません」と新實氏。そのためには、営業のあり方を大きく変える必要があったと言う。

 営業を変革するためにタカラスタンダードが考えたのが、「データドリブン」だった。タカラスタンダードの営業は、どちらかといえば時間を惜しまず働く「昭和の営業スタイル」だった。新しい世代の社員が、従来と同じやり方で育ち成果を出せるとは限らない。

 営業のあり方を変革するには、エモーショナルではなくロジカルにアプローチする。それにはデータを取得し、データに基づいた合理的な判断、指導が必要だ。そのために、CRMやSFAの仕組みを導入すべきと考える。

 タカラスタンダードでは、営業活動に関わる情報を蓄積してきた。とはいえ取得していたのは主に実績データで、見積もりが何件作成され、何がどれだけ売れたかなどだった。 

「どれだけ見積もりが作成されているかを見れば、おおよその顧客数とパイプラインが分かります。しかし、どの顧客に対し営業担当がどのような活動をしているのか、また代理店からの案件がどれくらいありそれにどう対処しているかなどの、営業担当の活動量のような概念はありませんでした」と新實氏。顧客が現状どのようなステータスにあり、代理店との間で十分に情報共有ができているのか。その上でホットなのかコールドなのか、商談のスコアリングのような概念が欲しかった、と新實氏は言う。

 現状の案件やパイプラインの状況を数字やファクトで把握し、それを踏まえ営業担当の次なるアクションに結びつける。そのためのツールとして、タカラスタンダードでは2019年にSalesforceを導入した。

 Salesforceの利用は、営業担当者による日報の入力から始まった。日報の次は、案件情報を入力し活用する。このようにステップを踏み段階的に利用を拡大し、Salesforceの定着化を図っている。案件情報が確実に入力されようになり、営業における情報活用の環境がほぼ整ったのは2022年の4月頃だった。Salesforceの活用は「この時点で、ようやくファーストステップに立った感じです」と新實氏は言う。

 日報や商談情報を確実に入れてもらえるまでには、苦労もあった。タカラスタンダードは全国に営業拠点があり、中にはSalesforceの利用がなかなか進まないところもあった。そういった拠点には、営業本部がマンツーマンで勉強会を開催するなどでサポートしている。

企業データベースLBCで、取引先情報を営業所単位できめ細かく管理

 Salesforceの導入に際し、タカラスタンダードでは事前に要件定義、全体設計をしっかり実施している。その過程で、データドリブンな営業活動のために、取引先情報をどのように管理すべきかの議論があった。タカラスタンダードには、基幹系システムに取引先とのやり取りのための顧客マスターがあった。これは、経理的な観点から請求コードで分類するようなものだった。

 そのため、請求用途に応じて複数のコードを使い分けており、一つの会社で複数のコードに分かれているケースがあった。また、同じ会社でも部署ごとに別々の請求コードを発行している場合もある。これらをそのままSalesforceの取引先に初期移行すると、同じ会社に取引先情報が複数存在してしまう。「これでは、取引先に対する営業の活動量をきちんとデータ化し、それを元にした次の戦略につなげられません」と新實氏は言う。

 たとえば、代理店の営業所という単位で取引先を管理し、取引先と営業担当者の活動を結びつけられるようにしたい。これには、複数ある請求書コードのデータから重複を排除する必要があった。

 そのために、タカラスタンダードでは法人の名寄せツールを探す。「法人の名寄せ」をキーワードに検索すると、法人情報を提供するサービスがいくつか見つかる。それらのベンダーに話を聞き比較した結果、法人の営業所単位までしっかりデータ化されていたのが、ユーソナーの「企業データベースLBC」だった。

 タカラスタンダードには国内に支店、営業所を含め拠点が159カ所(2024年4月1日現在)ある。「全国津々浦々まで営業所などがあり、そこでは年間数件ほどの取引の、地場の小規模企業とも取引します。一方大手代理店となれば、全国に数百カ所の拠点を持ち、数多くの取引があります」と新實氏。大きな代理店の場合は、一つの顧客取引先と捉えずに代理店の営業所単位で担当者が対応する。「この粒度で取引先を管理できるようにする必要がありました」と言う。

 企業データベースLBCのデータが、タカラスタンダードが求める粒度と一致するのか。それを確認するために、ユーソナーのテストマッチングサービスを利用し評価した。検証の結果、既存の取引先のデータを変換できることが確認される。「100%完全に望んだ形ではありませんでしたが、8割以上をカバーしており、十分に運用が回ると判断できました」と新實氏は言う。

 タカラスタンダードでは、企業データベースLBCの利用を決め、既存の顧客マスターデータの変換をユーソナーに依頼する。一部の大規模な代理店などは、タカラスタンダードの考え方に合わせデータの調整が必要だった。得られた取引先情報を取り込み、Salesforceの利用がスタートする。営業担当がSalesforceで日報を書く際には、活動は必ず取引先情報と結びつくようになっており、これにより日報から案件ごとの営業活動量のサマリー情報が得られるようになった。

 既存の顧客マスターをもとにSalesforceにあらかじめ取引先を一括作成したので、「営業担当者は、Salesforceの中で取引先を簡単に紐づけられます。日報を入力するために、いちいち取引先レコードを新たに作る手間はありません」と新實氏。営業担当者に入力の手間をかけさせないことも、Salesforceの定着化に貢献している。

営業担当者の負担軽減でSalesforceの定着化を促進

 タカラスタンダードでは、Salesforceの利用開始時に従来の基幹系システムでは見積もりを作れなくした。「Salesforceに商談情報を入力しないと、見積もり作成のボタンが押せないようにしました。これにより、営業担当者が案件情報をSalesforceになかなか入れてくれない、昔の基幹システムだけに情報を入れてしまうなどは発生しませんでした」と説明する。

 Salesforceに確実に案件情報が入れば、営業活動状況は全てSalesforce上で把握できる。とはいえ、営業所によってはExcelで作った営業レポートを、週次で支店長に提出する「昔の名残」もまだまだあった。これが残ると、営業担当者はSalesforceにデータを入れ、さらにExcelのレポートも毎週作らなければならない。タカラスタンダードでは、 売り上げをどう伸ばすかは、支店長の采配による部分が大きい。そのため、支店ごとに見たい視点を取り込んだレポートやダッシュボードが欲しい。それを全て本部で把握し対応するのは現実的ではなかった。

 この課題の解決には、支店長などに報告を行うリーダー的立場の人が、見たい視点でレポートやダッシュボードを作れるようにしている。それができれば、営業担当者が二重入力する必要もなくなり、Salesforceの商談情報だけをしっかり入力すれば良くなる。

 そこで各拠点のリーダー的な立場の人に、レポートやダッシュボードの作り方を教えるようにしている。それを実現するために、営業本部では二週間に一度のペースでSalesforceに関する質問会も開催している。また、それでも対応しきれない場合は、営業本部で要望をヒアリングしレポートとダッシュボードを構築、Excelレポートからの置き換えを促している。

「情報を入れなさいが先ではなく、Salesforceに情報を入れたらいかに楽になるか、そのための環境を作ることが重要です。」(新實氏)

Salesforceデータを活用し製造業としての業務全体最適を目指す

 現状、タカラスタンダードでは、企業データベースのデータはAPIを通じてSalesforce上で適宜更新される。ユーソナーの企業データベースLBCのデータは、Salesforceを活用する上での基礎情報と捉えられる。

 その上で、実験的に企業データベースのデータのさらなる活用にも取り組む。たとえば営業拠点で休眠化している取引先のデータと、最新のユーソナーから得られる売り上げや従業員規模などの法人基礎データを照らし合わせ、営業担当が回るべき対象を絞り込んでリスト化している。

「たんなる休眠店リストが、ユーソナーのデータで訪問すべき顧客リストになります」と新實氏。これは、法人企業データが常に更新されるからこその価値だ。こういった活用のアイデアが営業本部からではなく、営業現場から出てくるようになったのは、Salesforce導入の効果だと言う。

 タカラスタンダードでは、生産、在庫、購買の効率性や需要予測の精度の向上にもSalesforceのデータを活用したいと考えている。「Salesforceに宝となるデータがしっかり蓄積されることがファーストステップで、それがある程度できるようになりました。セカンドステップでは製造業として、その宝のデータをどう生かすかです。そのためにもSalesforceやユーソナーなどのベンダーと一緒に、業務全体の最適化を図っていきたいです」と、新實氏は言うのだった。