米国で急成長するVytalize HealthをNetSuiteが支えた理由

2024年9月11日12:48|インサイト谷川 耕一
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 米国のヘルスケア企業Vytalize  Healthは、急成長に伴う経理業務の負荷増大に対応するためにクラウドERP「NetSuite」を導入した。さまざまな会計処理を自動化することで課題を乗り越えたという。9月9日から12日にかけて米国ラスベガスでOracle NetSuiteの年次イベントSuiteWorld 2024が開催され、Oracle NetSuiteのFounder 兼 EVPであるエバン・ゴールドバーグ(Evan Goldberg)氏の基調講演でVytalize  Healthの取り組みが紹介された。 

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プライマリケア医支援プラットフォームで医療の質向上とコスト削減を

 Vytalize Healthは、医療提供者支援プラットフォームを提供している。同社は2014年に創業し、設立当初は、リスクを抱える高齢者向けのプライマリケアに焦点を当てていた。プライマリケアとは、患者の健康問題に対し最初に接する医療サービスである。包括的、継続的、そして患者中心のケアを提供することを特徴とする。プライマリケアは、地域における医療の中核を担い、人々の健康維持、増進に大きく貢献する。特に、高齢化や慢性疾患の増加が進む現代社会において、その重要性が高まっている。

 プライマリケアを提供するのがプライマリケア医だ。日本の医療制度の「かかりつけ医」に近い存在だが、同じものではない。プライマリケア医もかかりつけ医も、患者の健康状態を総合的に把握し、初期診療から継続的なケアまでを提供する点は同様だ。身体的な不調だけでなく、精神的な悩みや生活習慣に関する相談にも応じる。必要に応じ、適切な専門医を紹介し、連携して治療を進める。

 一方、プライマリケア医は内科、小児科、家庭医療などの専門医が担うことが多いのに対して、かかりつけ医は必ずしも専門医である必要はない。プライマリケア医は、ゲートキーパーとしての役割を担い、専門医への受診が必要かを判断する。かかりつけ医は、必ずしもゲートキーパーとしての役割を担うわけではない。米国では、プライマリケア医を受診することが医療制度上推奨されているが、日本では、かかりつけ医を受診するかは個人の自由だ。

 日本でも、プライマリケア医の重要性が認識されつつあり、総合診療医や家庭医などの専門医が増えている。プライマリケア医を受診することで、健康状態を総合的に管理してもらい、適切な医療を受けられる。

 プライマリケア医は幅広い疾患に対応し、多くの患者を診療する。そのため、プライマリケア医が多忙になりがちで、患者一人ひとりに十分な時間を割くことが難しい場合がある。その結果、医療の質の低下につながる可能性も懸念される。また、医療技術の進歩に伴い、医療はますます複雑化しており、プライマリケア医は常に最新の知識を習得し、適切な判断を下す必要がある。さらにプライマリケア医の診療報酬は専門医に比べて低い傾向があり、医師がプライマリケアを選択しにくい状況を生み出し、医師不足の一因にもなっている。

 これら課題に対しVytalize Healthは、価値に基づくケア(バリューベースケア)モデルの導入で、医療の質向上とコスト削減を両立させ、プライマリケア医の診療報酬向上を目指している。さらにAIやデータ分析などを活用し、プライマリケア医の業務効率化を支援して、患者一人ひとりに十分な時間を割けるようにしている。医師、看護師、薬剤師などが連携して患者をサポートすることで、プライマリケア医の負担軽減を図れるようにもしている。

 2016年にはプライマリケア医と専門医を連携させるネットワーク構築を始め、2018年にはバリューベースケアへの移行を支援するプラットフォームを提供する。2020年には、新型コロナウイルスのパンデミックの中、バーチャルケアや在宅診療などのサービスを強化した。2022年には1億ドル以上の資金を調達し、現在は米国36州で26万人を超えるメディケア受給者のヘルスケアに貢献している。2023年には、3年間で7000%を超える驚異的な収益成長が評価され、北米で最も急成長している企業のリスト「デロイト 2023 Technology Fast 500」に初登場し、26位にランクインした。

NetSuite導入でVytalize Healthの急成長に伴う経理業務の課題を克服

 基調講演にゲストとして登場したVytalize Health SVP Global Accountingのジェシー・ウィジェスケラ(Jess Wijesekera)氏は、同社が提供しているバリューベースケアはプライマリケア医と患者との関係を強めるものであり、これは現在のヘルスケアシステムにおいて極めて重要であると説明した。このバリューベースケアにより、医師が患者との時間を増やせるようにしている。例えば、解析機能を使い、医師が今後の治療プランを立てるための支援を行っている。

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Vytalize Health SVP Global Accounting ジェシー・ウィジェスケラ(Jess Wijesekera)氏

 テクノロジーを組み合わせた様々なサービス提供が評価され、同社は大きな成長を遂げている。「当初はプライマリケア医にのみサービスを提供していました。それで2600人の医師と契約したのですが、それが今では26万人まで増えています」とウィジェスケラ氏は語る。

 このような急激な成長に伴い、経理スタッフは大きな苦労を強いられることとなった。ワークロードが増加し、それを処理するのに多大な労力を要するようになったのだ。経理スタッフの多くの作業はExcelで行われており、膨大な数の売掛金の入金消込処理もExcelを使って計算処理していた。

 そのような課題を抱える中で、SuiteWorldに参加しNetSuiteと出会う。NetSuiteを使えばさまざまな会計処理が自動化できることが分かり、ウィジェスケラ氏は経理チームにNetSuiteの利用に挑戦するよう指示した。

 その結果、47の銀行口座と何1000ものトランザクションを抱えていたが、「NetSuiteを使って毎日消し込み処理が自動で計算できるようになりました」というスタッフからのフィードバックがあった。また、Payrollモジュールを使えば、全ての給与支払いを銀行サイトにログインせずにNetSuiteから自動で行えることも分かった。「処理でエラーが出た場合も、NetSuite上で簡単に確認できます」という声もスタッフから上がった。

 現状では、ワークフローによる承認もNetSuiteで実現している。CFOはNetSuiteにログインして、各種の承認を行っており「日々の仕事が本当に楽になっています」とウィジェスケラ氏は言う。NetSuiteを活用して売掛金の処理の自動化を実現したスタッフは、売掛金担当の部署の部長に昇格している。「NetSuiteがスタッフの誰かの昇格に貢献したのは、本当に嬉しいことです」とゴールドバーグ氏は言う。

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Oracle NetSuiteのFounder 兼 EVP エバン・ゴールドバーグ(Evan Goldberg)氏

 NetSuiteの機能を活用することで、普段会計スタッフレベルが処理しているような業務の自動化は大きく進む。一方で、管理職以上の判断を必要とする業務は簡単に自動化できるとは限らない。しかし、予算や解析機能を使えば、かなりの会計業務の自動化やサポートがNetSuiteで実現できるとウィジェスケラ氏は説明する。

 AI関連機能については、Vytalize Healthでは昨年発表されたBill Captureの利用を開始している。「インボイスが届いたらBill Captureに取り込むと、内容が自動でコード化され、メールで送信されます。複雑なインボイスでも、簡単にバックグラウンドでコード化され、すべて自動で処理されます」とウィジェスケラ氏はAI機能の便利さを語る。売掛金管理チームでもこのような機能が簡単に使え、たとえば財務諸表なども簡単に出力できる。もちろん、その内容は正確だ。

NetSuite活用の成功の秘訣は好奇心とチームワーク

 NetSuiteのようなものを活用して成功するポイントは、好奇心が旺盛であることだとウィジェスケラ氏は言う。好奇心をたくさん持つことで、新しい視点でものを見ることができる。何かを処理するのに、もっと良い方法があるはずだと考える。より適切なツールを見つければ、簡単に処理できるのだ。

 NetSuiteの全ての機能を知っているわけではないので、チームメンバーが正しいものを見つけられるようにする必要がある。そのためには学習できる環境を整え、結果を話し合う場を持つようにしている。

 その上で、「毎週月曜日にミーティングを行い、何がうまく機能し何が機能しないか、何に関心があるか、新しいアイデアはあるかなどを話し合います」とウィジェスケラ氏は語る。成功事例があれば、その場で称賛することも忘れない。特定の人だけがNetSuiteの担当になるのではなく、チーム全体で使いこなそうとする姿勢が重要だと強調する。

 Vytalize Healthでは、今後もより多くの医師とつながり、メディケアに関わる人々をサポートしていきたいと考えている。それはNetSuiteを活用することでうまくいくはずだと、ウィジェスケラ氏は確信している。