人的資本最大化へ、イトーキが面積35%削減に挑むデータドリブンなオフィス刷新

2026年6月14日14:54|ニュース谷川 耕一
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 イトーキは6月11日、同社の本社ワーキングショールーム「ITOKI DESIGN HOUSE TOKYO」の12階リニューアルに伴い、報道関係者向けの先行内覧会および説明会を開催した。今回の刷新は、従業員数が約1.5倍に増加する一方で、1人あたりの床面積を35%削減するという厳しい制約のもとで行われた。同社はこの課題に対し、従業員の要望を起点とした従来のアプローチから脱却し、蓄積された行動データとAI、デザインを融合させることで、限られた面積でも成果の最大化を図る空間へと再設計した。データをもとに生産性とエンゲージメントの向上を図る、次世代オフィスの取り組みが紹介された。

要望起点から「成果を生む空間」への発想転換

 今回のリニューアルの背景には、オフィスの役割に対する認識の変化がある。説明会でモデレーターを務めた執行役員中央研究所所長で大阪公立大学客員教授の清水俊也氏は、従来のオフィス設計の課題と、人的資本経営の時代における新たな視点を提示した。

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執行役員 中央研究所 所長 大阪公立大学 客員教授 清水俊也氏

 従来の一般的なオフィス構築は、従業員に対してアンケートや聞き取り調査を行い、そこで上がった要望をいかに網羅し、満足度を高めるかというアプローチが主流であった。しかし、清水氏は「単に従業員の『こうしてほしい』という要望を形にするだけでは、必ずしも企業の業績や従業員の本質的な能力発揮には結びつかない」と指摘する。

 特にコロナ禍直後の2021年頃は、リモートワークの普及に伴い、出社時のオフィスには「個人の高集中ソロワーク環境」を整えることが強く求められていた。しかし昨今では、組織としての創造性やイノベーションを創出するため、チームでより良い結果を得る「チームコワーク」に向けて、時間と場をいかに共有するかという点に、経営の関心が大きく移り変わっている。イトーキは今回の刷新において、従業員の主観的な要望ではなく客観的なデータに基づき、高いパフォーマンスを発揮する人材が活躍しやすい空間のあり方を検討した。

「能力発揮度」と「位置情報」の分析から見えてきた課題

 実際に行ったデータ分析について、常務執行役員ソリューション事業開発本部本部長の八木佳子氏は、自社のオフィスデータ分析サービス「Data Trekking」などを活用した、データドリブンなオフィス「Tune Up」の考え方を解説した。イトーキではオフィスを、構築して終わりの空間ではなく、継続的に見直しを重ねる経営基盤と位置付けている。Tune Upには、モニタリングとデータ分析に基づき、小さな改善を積み重ねていくという意味が込められている。

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常務執行役員 ソリューション事業開発本部 本部長 八木佳子氏

 同社が実施したのは、従業員の「能力発揮度」に関するアンケートデータと、ビーコンなどのセンサーから取得した約1年分の行動ログ(位置情報)を組み合わせた相関分析だ。データは個人を特定しない形で処理し、どのような行動パターンが高いパフォーマンスと関係するかを可視化した。

 分析の結果、いくつかの傾向が確認された。たとえば2021年時点では、高集中席などのソロワーク環境が能力発揮に寄与する傾向が見られた。一方、最新の分析では、オープンエリアやコラボレーションスペースといった周囲と関わりながら働く空間に身を置く従業員ほど、個人の能力発揮度が高いという相関関係が示された。八木氏は、行動データとパフォーマンスの関係を客観的に把握することで、オフィス環境への投資の優先順位を明確にできるとし、データに基づく空間評価の重要性を指摘した。

ソロワーク環境を効率化し、協働空間へ投資を集中させる設計

 このデータ検証に基づき、限られた床面積のなかで「投資の優先順位」を実際の空間設計へと落とし込んだプロセスについて、執行役員ワークスタイルデザイン本部本部長の香山幸子氏が説明した。

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執行役員 ワークスタイルデザイン本部 本部長 香山幸子氏

 イトーキは投資の優先順位を明確に定めた。2021年当時に重視され、最新データでは相対的に能力発揮への寄与度が下がっていた「ソロワーク環境(固定的な個別席など)」の面積を効率化・縮小した。一方で同社は、現在のパフォーマンス向上に直結している「周囲と協働する空間」へとリソースを集中投資した。

 設計の核となったのは、この優先投資された協働空間の価値を最大化しつつ、ソロワークとチームコワークをストレスなく行き来できる動線設計である。従来のソロワークに偏重していたレイアウトを抜本的に改め、空間の中央部に緩やかにつながる「Open Work Area(オープンワークエリア)」を配置した。

 また、チームワークを促進するための具体的な工夫として、新たに設けられた「Team Co-work(チームコワーク)」エリアがある。ここは単に多人数用の大型テーブルを配置するだけでなく、窓側に向かったカウンター席やソファ席なども組み合わせて構成されている。チームで集まった際にも全員が同じテーブルに縛られることなく、ゆったりと互いの活動を感じながら、各々が適した作業場所を選択できる設計となっている。

 さらに、チームで集まる空間を固定的な壁や造作で作るのではなく、新たに開発した可動性の高いシェルフやソファで緩やかに空間を区切ることで、今後の組織変更やプロジェクトの増減に対応できるだけでなく、継続的なデータ分析の結果に応じてレイアウトを柔軟に見直すことを前提として設計されている。

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エリアは可動性の高いシェルフやソファで緩やかに区切られている

限られた面積を最大限に活かす、AIとセンサーによるオフィス運用

 今回のリニューアルは、完成形ではなく継続的な改善の起点と位置付けられている。従業員数が約1.5倍に増加する一方で、1人あたりの面積が8.5平方メートルから5.5平方メートルへと約35%削減されるという制約条件のもとで進められた。イトーキはこれに対し、データに基づくスペースの最適配分だけでなく、リアルタイムな利用状況の把握とAIを活用した効率的な運用で対処している。

 具体的には、家具や会議室に組み込んだ独自のセンサー群「ITOKI OFFICE DEVICES」を開発して導入した。これにより、予約されているが実際には使われていない「空予約」をセンサーが検知して即座に開放するなど、リアルな利用実態に基づいた無駄のない運用につなげている。

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会議室テーブルに置かれているセンサーで、予約状況の確認や着席状況のリアルタイムな把握が可能


キャプション:会議室テーブルに置かれているセンサーで、予約状況の確認や着席状況のリアルタイムな把握が可能

 さらに、これらの実利用データをAIエージェント「ITOKI OFFICE AI AGENTS」や予約システムと連携させることで、AIが利用者の人数や目的に応じて最適な空きスペースを提案し、効率的な割り当てを行う仕組みを整備している。こうしたハードとソフト両面からのアプローチにより、限られた空間の稼働率の向上を図りつつ、従業員のエンゲージメントや生産性実感の維持・改善への効果が示されている。

 イトーキは今後もデータの取得と評価を重ね、空間の利用率や従業員満足度に加え、人事評価や財務指標、業績との関係性も視野に入れた評価プロセスを整備していく。人的資本経営の開示や投資対効果(ROI)の可視化への活用も検討している。自社オフィスでの実践を通じて得た知見と技術は、顧客向けコンサルティングへも展開していく考えだ。データとAIがオフィス設計や運用のあり方をどう変えていくのか、今後の動向が注目される。

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