ホームセンターチェーンのカインズは、AIが自律的にアルゴリズムを進化させるGoogleの「AlphaEvolve」(プレビュー版)を需要予測に導入した。プライベートブランド(PB)商品の長期需要予測モデルで、3年間にわたり人手でチューニングしてきたモデルから予測誤差をさらに19%改善した。複数に分かれていたモデルを一つに統合し、運用負荷とランニングコストも減らした。10月30日、Google Cloudが同社ブログで導入事例として公開した。
カインズは全国にホームセンターを展開し、PB商品の開発やデジタル戦略に力を入れている。膨大な商品の発注・在庫管理を最適化するため、Google Cloudを基盤とする需要予測プロジェクトを2021年11月に立ち上げた。約半年のプロトタイプ検証を経て2022年6月に小規模で本番運用を始め、2024年9月に約200店舗、2025年10月に全店舗へ広げた。
需要予測は二つの軸で動いている。海外生産が多いPB商品向けの長期予測では、食品から雑貨まで約1万SKUを対象に39週先までを予測する。店舗の自動発注に使う短期予測では、店舗別・SKU別に6週先までを予測し、繁忙期には最大500万SKU、約3,000万行の規模になる。以前は担当者の経験や表計算ソフトでの実績管理に頼っており、発注精度のばらつきや季節商品の欠品が課題だった。Vertex AI Forecastingを使った需要予測モデルの導入で、新任の担当者でも一定の精度で発注できるようになり、欠品の削減などの成果を上げてきた。
一方で、精度をさらに高めるには壁があった。業務部門と毎週打ち合わせて要望を聞き、特徴量の出し入れやハイパーパラメーターの調整を重ねてきたが、人手で検証できる回数には限りがあった。新商品の投入で既存商品の売り上げが分散するカニバリゼーションの予測も難しく、3年間改善を続けた結果、手作業によるチューニングでは限界に達していた。
2026年4月ごろ、同社はGoogleのブログで紹介されたAlphaEvolveに注目した。同社の矢口氏によると、一般的なLLMやコーディングエージェントから特徴量やパラメーターの提案を受けても、実行と検証は人が1回ずつ進める必要があったという。これに対し、AlphaEvolveは、目標に向けて多数の候補を自動で試し、実行結果を踏まえた検証と改善を繰り返す。同社は、この**アルゴリズム探索**をAlphaEvolveに担わせる一方、初期プログラムの作成や評価ロジックの設計、本番パイプラインへの組み込みといった周辺の実装では、コーディングエージェントの支援を受けることで、導入のハードルを下げた。
長期予測モデルの本番環境に適用した結果、予測誤差を19%改善した。AlphaEvolveが生成したアルゴリズムは汎用性が高く、従来は販売数量などの条件に応じて複数に分けていたモデルを1つに統合したうえでこの精度を達成した。Vertex AI Forecastingで複数のモデルを動かしていた環境を単一のモデルに置き換えたことで、管理・運用の手間とランニングコストも減った。
新しい長期予測モデルは稼働から約4~5週間が経過した。AIがカテゴリー内の需要変化を捉える特徴量を自ら探索できるようになり、カニバリゼーションによる需要変動の予測も改善できる見通しが出てきた。今後は精度が上がったカテゴリーで、店舗やサプライチェーンの欠品削減や在庫水準の最適化にどれだけ効果が表れるかを測定する。同社は、専門のAI/MLエンジニアがいなくてもモデルの精度を高められるようになり、需要予測以外にも機械学習の適用が広がるとみている。