九州旅客鉄道(JR九州)は、「Google Workspace with Gemini」を、鉄道をはじめとする複数の事業領域に導入した。運用開始時に導入したアカウントは約400人分。プログラミングの知識がない社員が業務改善アプリケーションを開発したほか、ウェブマーケティング業務の内製化などのユースケースが現場主導で生まれている。10月30日、Google CloudがGoogle Workspaceのブログで導入事例を公開した。
JR九州は九州で2,342.6km、596駅の鉄道網を運営し、駅ビル商業施設や不動産、ホテル、流通・外食などの事業も展開する。人口減少や少子高齢化、人手不足が進むなか、中期経営計画で持続可能な事業運営を掲げ、DXを推進している。生成AIは資料作成や議事録作成などの定型業務を効率化して創造的な業務の時間を確保する手段であると同時に、企画の立案や壁打ちに使える「思考のパートナー」と位置づけている。
同社のデジタル変革推進部は2023年5月に生成AIのガイドラインを策定し、活用を促してきた。各部署がそれぞれ生成AIサービスを使い始めると、セキュリティやガバナンスの観点から導入窓口を一本化した。2025年9月から運輸部、新幹線部、営業部、工務部など各部署の約30人を中心にGeminiの概念実証(PoC)を実施したところ、出力の精度の高さや業務ですぐ使える実用性に大きな反響があった。図やコードを作成できるCanvasや資料を整理できるGemini Notebookなどの機能、エンタープライズ向けのセキュリティ、Google Cloudのサポートを評価し、同年11月に既存の生成AIサービスと並行して使う方針を決めた。
普及にあたっては、同じ部署内でも積極的に使う人とそうでない人の差があることが課題になった。希望者がすぐ試せる環境を整えたうえで、各部署のAI・データ活用チームと連携し、部署単位の全員参加型勉強会で同僚のユースケースを紹介するなどして利用を広げている。
運輸部では、エンジニア経験のない担当者が業務改善アプリを開発した。営業運転中の車両のデータをリアルタイムで分析・可視化するWebアプリケーションでは、データを常時監視できるようになり、検査の代替に向けた検証を進めている。夜勤や休日当番、個人のスキルなど多くの条件を考慮して社員の勤務シフトを自動作成するアプリケーションも作った。いずれもPythonのStreamlitで構築し、コードの9割以上をGeminiが書いた。自然言語で要件を伝え、出力されたコードの検証と改良を繰り返して2~3カ月で完成させた。担当者は、外部ベンダーに開発を依頼すれば半年から1年かかる作業だったと説明している。
営業部では、専任のエンジニアがいないなかでWebマーケティング業務を内製化した。ランディングページのたたき台をGeminiで作成し、区間別の紹介ページに検索窓を設けて予約手続きまで一気に進める仕組みも作った。観光列車のページのSEO対策も自前で手がけた。担当者によると、SEOのスコアは約40点から約70点に上がったという。
安全管理や保守点検に関する手書き報告書のスキャンデータや記録ファイルをGemini Notebookに集約し、メンバーが参照できるようにする部署も出てきた。現場の技術やノウハウを体系化して継承する取り組みや、人材育成にもつなげる。同社は社員のデジタルツールによる業務改善を表彰する制度の対象に生成AIの活用も加える予定だ。今後は生成AIを全社的に業務フローに組み込み、生まれた時間を安全の追求や新たな価値創造に振り向ける。既存のレガシーシステムとの連携などの技術的な課題にも取り組んでいく。