住友重機械工業は、自動フォークリフトなど物流・建設機械向けソフトウェアの開発を高速化するため、Google Cloud上にSDV(Software Defined Vehicle)向けの開発基盤を構築した。9月29日、Google Cloudが事例として公開した。生成AIによるコーディングやデジタルツインでの事前検証を組み合わせ、自動化機能の開発では初回の実機実験で動作テストをクリアした。開発環境の標準化で、新規メンバーが配属初日から作業に着手できる環境も整った。
住友重機械工業は、減速機や放射線治療装置など幅広い製品を手がける重機械メーカー。物流・建設機械を担当する技術研究所AIロボティクスセンターが、自動フォークリフト(AGF:Automated Guided Forklift)を開発している。製造業は、ハードウェアの性能で製品の価値が決まる時代から、ソフトウェアの更新で機能が加わるSDVの時代へ移りつつある。この流れは物流・建設機械にも広がっており、大型機械の中で動くソフトウェアの開発を速めることが求められていた。同センターはAGFの開発を通じてSDV向けのクラウド開発環境を検証し、成果を油圧ショベルやクレーンなど他の機種にも展開する予定だ。
基盤にGoogle Cloudを選んだ決め手は、開発に必要な機能に加え、内製化に向けた支援プログラムなどが包括的に提供されることだった。開発基盤は、生成AIの開発環境、CI/CD、デジタルツイン、データ分析の4つの役割を担う。検証を終えた機能はDockerイメージで実機に配備する。利用するサービスは「Gemini Enterprise」「Gemini CLI」「Cloud Workstations」「BigQuery」「Cloud Build」「Cloud Run」などだ。
効果は開発の速さに表れた。AGFがパレットを検出して持ち上げる自動化機能の開発では、Cloud Workstations上のデジタルツインで事前に検証した結果、初回の実機実験で、想定どおりの動作を確認できた。シミュレーターは実機と同じプロトコルで通信できるため、動作を確認したプログラムがそのまま実機で動く。
従来は開発環境や使用ツール、ソースコードの管理が個人ごとにばらばらだった。Cloud Workstationsで環境を標準化し、ソースコード管理やCI/CDも整えたことで、チームでの開発に移行できた。全員が同じ環境で開発できるため、新規メンバーの立ち上がりも早まり、配属初日から作業に着手した例もある。
コーディングやデバッグ、ドキュメント作成には、Gemini CLIやGemini Enterpriseなどの生成AIを使う。AIコーディングエージェントが同じエラーの解決策を毎回一から探す問題には、エラーログをキーに解決策を自動で蓄積・検索する仕組み「KAI(Knowledge & AI)」で対応した。社内の内製ライブラリの仕様をAIに理解させるため、ソースコードとドキュメントを関連付けて検索できる「GraphRAG」も実装した。
人材育成の環境も整えた。ガバナンスとセキュリティ面では、Google Workspaceの組織管理アカウントとIAMを連携させ、Security Command Centerも導入し、脅威の検知から修復までをカバーする運用環境を整えた。Cloud Workstationsはコンテナのため、壊れても元に戻せる。Identity-Aware Proxyで防護し、生成AIの利用状況はGemini Enterpriseで把握する。メンバーはGoogle Cloud Skills Boostで基礎を学んでから実装に取り組み、Google Cloudのアジャイル型内製化支援ワークショップ「TAP(Tech Acceleration Program)」で3日間の合宿も実施した。
今後は、SDVのサービス化に向けた企画やビジネスモデルの構築、マイクロサービス開発、デジタルツイン環境の拡張へ取り組みを広げる。ロボティクスプラットフォームグループの藤井北斗グループリーダ・主任研究員は「デジタルツインは、開発やデバッグだけでなく、顧客に新しいサービスを早く検証してもらう環境の提供にも使える。すべての住友製品とクラウドでつくったサービスが、仮想空間でつながる世界を実現したい」と話している。