GPU可視化を「判断」に変える ゲットワークスがInstanaで実現した電力8割削減の衝撃

2026年4月7日16:09|ニュース谷川 耕一
x
hatebu

 生成AIの普及で、データセンターは「IT基盤」から「AIを動かす中核インフラ」へと役割を広げつつある。しかし、それを支える現場では、GPUの急速な普及に伴う消費電力の増大や冷却効率の限界、そして高度なスキルを持つエンジニアの不足という深刻な課題に直面している。国内最大級のコンテナ型データセンター構築実績を持つゲットワークスは、この難局を打開するため、IBMの観測性プラットフォーム「Instana」を導入した。3月19日、日本IBMが発表した。

 この取り組みで特筆すべきは、Instanaを活用した実証実験においてGPUの消費電力を約80%削減するという成果を収めた点だ。同日に開催された記者説明会では、ゲットワークス システムマネージャの境川章一郎氏が、単なる見える化に留まらない、次世代データセンター運用の指針となる取り組みについて説明した。

「点」の監視から「面」の判断へ、運用現場を阻む物理的限界の正体

 データセンター業界は今、クラウドやAI、5Gといったテクノロジーの加速により、かつてないほどの需要拡大に沸いている。日本IBMの上野亜紀子氏は、データセンターの需要がかつてなく高まっている現在の状況がある一方で、成長の裏でインフラの老朽化やエネルギーコストの高騰といった深刻な課題が顕在化していると指摘する。特にAI処理能力の向上は指数関数的なデータ処理量の増加を招き、もはや規模を拡大するだけでは対応できないレベルに達しているのが実情だ。

20260319_getworks2.png
日本IBM テクノロジー事業本部 オートメーション・プラットフォーム事業部長 理事 上野亜紀子氏

 国内で300台以上のデータセンター構築実績を誇るゲットワークスも、この大きな時代の変化の中にいた。同社は2014年の1号棟建設以来、地域特性を活かしたフリークーリングや太陽光パネルの活用など、サステナブルな運用を追求してきた。しかし、昨今のGPU需要への対応においては、既存のビル型施設では電力や冷却設備の制約から受け入れが困難なケースが増えていた。

 こうした背景から同社が注力しているのが、コンテナ型データセンターを活用したGX(グリーン・トランスフォーメーション)の推進だ。しかし、先進的な冷却技術を導入する一方で、監視基盤そのものに課題が生じていた。境川氏は、従来の運用を振り返り、見たい対象が非常に多く、変化が激しい中で、継続的な追跡が困難であったと明かす。これまではオープンソースのツールを複数組み合わせてピンポイントでのデータ取得はできていたが、それらは点と点の情報に過ぎず、一元的に管理し、迅速な運用判断に繋げる仕組みが欠落していたのだ。

20260319_getworks3.png
ゲットワークス システムマネージャ/AIエキスパート 境川章一郎氏

選択の決め手は「ESGへの拡張性」、なぜInstanaだったのか

 数あるオブザーバビリティツールの中から、ゲットワークスがInstanaを選択した理由は、単なる現状の可視化機能だけではなかった。境川氏によれば、最大の理由は、冷却設備などのアセットマネジメントや、将来的なESG(環境・社会・ガバナンス)管理までを一括して行える拡張性にあったという。

20260319_getworks1.png
Instanaのダッシュボード画面イメージ

「観測性を実現するプラットフォームとして他社製品の選択肢もあったが、ステップ2として冷却設備の情報を取り込み、ステップ3としてESGレポートへの反映までを包括的に、かつ継続的に同じデータで行える点に魅力を感じた」と境川氏は選定の背景を語る。これは、単にサーバーの稼働を見るだけでなく、データセンター全体のライフサイクルを最適化しようとする同社の戦略に合致するものだった。

 実際のシステム構築では、NVIDIA GPUの各種メトリクスを収集しPrometheus形式で公開するための監視用エージェントであるNVIDIAのDCGMエクスポーターを活用し、GPU 8基の温度、電力、利用率、ECCエラーなどの詳細データを取得。これらをオープンな標準のOpenTelemetryを介してInstanaへ統合した。これにより、従来はバラバラのツールを確認して作成していたレポートが、Instanaのカスタムダッシュボード上で一気通貫に表示される環境が整った。

AIが準備時間を9割短縮、人間とテクノロジーが共創する次世代DCの形

 2025年11月から12月にかけて実施された実証実験の結果は、関係者を驚かせるものとなった。GPU 8基をピーク負荷で稼働させた際、当初は合計5520Wの電力を消費し、温度は75度に達していた。対してInstanaにより可視化されたリアルタイムデータを基に、エンジニアが負荷配置を最適化した結果、消費電力は1062Wへと大きく削減された。約80%の電力低減と、35度の温度低下を実現したのだ。

 境川氏はこの成果について、「Instanaを導入しただけで自動的に電力が下がったわけではない」と強調する。重要なのは、信頼できるデータが示されたことで、運用者が自信を持って負荷配置の変更というアクションを起こせたことだ。可視化の本当の価値は、見ることではなく、判断して行動できることにある。その考え方は、データドリブンな運用の方向性をよく言い表している。

 さらに、この取り組みを加速させたのがAIの活用だ。実証実験中、IBMの生成AIを活用した運用支援機能を試行した際、境川氏は大きな衝撃を受けたという。従来、インフラエンジニアが手動で行っていた監視環境の正常性確認やログの解析には、事前の準備だけで3時間から4時間を要していた。しかし、AIにシナリオを指示することで、これらの作業がわずか10分から15分程度で完了し、レポートまで自動生成されたのだ。「ここまで簡単にできるのかという驚きがあった」と境川氏は振り返る。

 同時に、今回の成果を特定の専門家による知見に留めるのではなく、AIの活用によって「誰がやっても同じ結果(80%削減)になる仕組み」へと昇華させ、運用の属人化を排除することを目指したいと語った。同社は現在、監視対象の拡大に向け、AIの積極的な活用を開始している。

設備・ESG・サステナビリティ。描かれる次世代DCのライフサイクル戦略

 ゲットワークスの取り組みは、GPUの可視化にとどまらない。同社は既に、次なるステップとして冷却設備(空調ユニットやCDU)のデータ統合に着手している。SNMPやOpenTelemetryを用いて設備側の情報をInstanaへ集約し、AIを活用した運用支援の可能性をさらに広げていく。

 最終的なステップ3では、PUE(電力使用効率)やWUE(水使用効率)といった環境指標の可視化、そして企業のESG(環境・社会・ガバナンス)データを一元管理し、開示・分析・脱炭素アクションまで支援するESGデータ管理プラットフォーム「IBM Envizi ESGスイート」との連携によるサステナビリティ情報の集約を目指している。これは、日本IBMの磯部博史氏が提言する、建物の設計・施工から運用保守、更新までのライフサイクル全体を「Green by IT」で支えるという考え方とも方向性が重なっている。

20260319_getworks4.png
日本IBM テクノロジー事業本部 ソフトウェア・エンジニアリング事業部
オートメーション・プラットフォームALM担当 磯部博史氏

 こうした構想の背景には、まず自社環境でテクノロジーを徹底的に試し、その知見を顧客に還元していくという日本IBMの「クライアント・ゼロ」という考え方がある。ゲットワークスもまた、自社の湯沢GXデータセンターを実験と検証の場と位置付け、そこで得られた成果を単なる自社運用の効率化に留めず、他の事業者との共同開発やコンサルティングといったビジネス展開へとつなげていく考えだ。

「見えることではなく、判断できる環境を作っていく」という境川氏の決意は、AI黄金時代におけるデータセンター運用の新たなスタンダードを予感させる。IT機器、設備、そしてエネルギー管理。これらが一つの仕組みとしてつながった先に見据えているのは、持続可能で高効率な"AIレディ"なデータセンターの姿だ。

ニュースリリース