京浜急行電鉄(京急電鉄)は、グループ共通の経理システム「SAP S/4HANA」への取引先マスタの申請と登録の業務を、サイボウズの業務改善プラットフォーム「kintone」で、一元管理している。IT部門の支援のもと、経営戦略室の2人ほどが中心となり、実作業3〜4カ月で開発した。2026年2月から本格稼働している。出納担当者の処理時間は、年間約600時間、約75%の削減が見込まれる。10月19日、サイボウズが事例を公開した。
京急電鉄は、鉄道とバスを中心に、不動産、ホテル・レジャー、流通などを展開する。人口減少で、旅客収入だけには頼りにくくなり、沿線の開発や新規事業といった攻めの展開が求められている。業務基盤の共通化と効率化のため、SAP S/4HANAを、2022年からグループ各社に順次使い始め、グループ共通の経理システムとして運用を開始した。
グループ共通の基盤になったことで、新たな課題が出た。取引先マスタの登録と更新を、Excelの申請書に記入し、グループウェアやメールで、グループ各社から受け付ける。出納担当者が確認し、Excelマクロで、SAP用のファイルを生成していた。SAP特有の入力項目が複雑で、記入漏れや、半角カナの混入、略称のルール違反が多発した。メールでの授受で、最新版や対応状況を把握しにくく、確認や差し戻しにも時間がかかった。申請する側はミスを恐れ、出納側は不備を指摘せざるを得ず、やり取りがぎすぎすした。Excelマクロの保守も、特定の担当者に依存し、チェックの結果や承認の履歴が残らず、ガバナンス上の懸念もあった。グループ約40社から、1日約10件の申請があり、取引先マスタの更新は頻繁に発生する。
三つのノーコード・ローコードツールを比べ、kintoneを選んだ。決め手は、画面、項目、プロセスを柔軟に設定でき、豊富なプラグインで、複雑な処理にも対応できる点だ。2024年8月に始まったプロジェクトは、IT部門の伴走のもと、プロトタイプを作り一部の利用者に公開し、フィードバックを反映するアジャイル型で進めた。その後、経営戦略室で開発し、実作業は3〜4カ月で本番稼働した。
連携は、SAP S/4HANAとkintoneを直接つなぐのではなく、マスタの申請、承認、データ整形を担うフロントのアプリをkintoneで開発し、SAP所定の形式のファイルを介する形にした。大規模なシステム開発をせずにコストを抑え、既存のSAPの運用を生かして、申請業務を改善できた。申請者は、アプリで登録と更新の内容を申請し、必須項目、選択肢、デフォルト値が表示され、自動チェックで、記入漏れや表記のばらつきを抑える。内容の確認、差し戻し、承認は、プロセス管理機能で管理し、出納担当者の承認後、SAPの登録形式のファイルを生成して、アップロードする。
2026年2月の本格稼働で、申請の内容、対応状況、過去の変更履歴が、kintone上で一元管理された。メールやExcelファイルを探す手間がなくなり、記入漏れと入力形式の不備が抑えられ、申請者と出納担当者の双方の負担が軽くなった。SAPアップロード用ファイルの生成も標準化され、担当者ごとのばらつきや属人化の抑制につながっている。定量的な効果は、測定中だ。従来は、出納担当者の処理に1件あたり10〜30分かかり、年間2400件として、年間400〜1200時間に相当した。平均処理時間が、1件あたり20分から5分に短縮されたと仮定すると、年間約600時間、約75%の削減が見込まれる。
経営戦略室 業務デザイン担当 課長の田中晋平氏は、シンプルな改善であれば、非エンジニアの担当者でも、自らkintoneで形にできる可能性があり、「どの業務を、どのような目標で、どれだけ改善するのかを明確にすることが重要」と話す。次のステップは、現場や管理部門の担当者が、自らkintoneで改善に取り組む市民開発だ。さらに、「kintone AI」の活用を見据え、まずはクローズドな環境で、安全に試す段階だ。