ブライダル業界を取り巻く市場環境は厳しさを増している。日本全体の人口が減少局面に入り、15〜64歳の生産年齢人口や20〜30代の若年人口が長期的に減少している。特に将来の婚姻主体となる20〜34歳の人口は、急速に減ると推計されており「結婚する可能性のある人の母数」自体が縮小している。さらにコロナ禍以降の「ナシ婚」層の増加など、結婚式のあり方は多様化している。そんな中、名古屋ドームや水族館、キャンプ場といったユニークな場所での結婚式プロデュースを手掛け、顧客の支持を集めている企業がある。名古屋市に拠点を置くBridal Plusだ。
Bridal Plusは、固定の会場を持たない柔軟な事業モデルを展開して顧客のニーズに応えている。しかし、その裏側では案件ごとに提携パートナーが異なり、契約形態や支払い条件などが変動するため、バックオフィス業務の煩雑さが課題となっていた。そこで同社が導入したのが「弥生会計 Next」だ。クラウド化とペーパーレス化を推進し、事務処理の負担を大幅に削減することで、本業である「ウェディングの価値創造」に注力できる環境づくりに取り組んでいる。
日本における結婚式ビジネスは、式場やホテルといった「箱(会場)」を持ち、そこに集客するのが一般的だ。しかし、Bridal Plus代表取締役の福手勇貴氏は「われわれは箱を持たず、場所の提案から当日の挙式までをトータルプロデュースしています」と語る。
背景には、市場の縮小と「結婚式離れ」がある。挙式をしない「ナシ婚」や、親族のみの「地味婚」、写真だけの「フォトウェディング」など結婚式のスタイルは多様化しており、市場単価は下落傾向にある。
Bridal Plusは、この厳しい市場環境の中、あえて「箱を持たない」ビジネスモデルを貫いている。箱を持ってしまうと、その箱ありきの提案となってしまうからだ。同社は、顧客の真のニーズを聞き出し、柔軟性の高い「ゼロからのプロデュース」を行うことで、現代のニーズに合った結婚式スタイルを模索し提供している。
その結果、同社のプロデュース事例は、名古屋ドームや名古屋水族館、キャンプ場やプライベートビーチなどで挙式を行うなど多岐にわたる。福手氏は、「私たちだからこそできる価値は、顧客の本当のニーズを引き出し、そこに最適な提案を行うことです」と強調する。
オーダーメード型のプロデュースは、高い顧客価値を生み出せる。一方で、社内オペレーションは複雑化することになる。一般的な式場であれば、スタッフやパートナー企業、料金体系は固定できるが、Bridal Plusでは、プロデュースする場所により提携先が毎回変わる。福手氏は「場所や内容が変われば、協業するパートナーも、支払い条件や振込先も全てが変わります」と説明する。
結婚式のプロデュースでは、人との接点の「質」と「数」が極めて重要だ。結婚式の当日はライブイベントであり、スタッフのリソースはできるだけ現場に集中させる必要がある。IT活用によりバックオフィス業務の生産性を高め、生まれた時間を顧客満足度の向上に充てることが急務であった。
2024年5月、Bridal Plusは新たな経営体制となり、こうした課題の解決に本腰を入れ始めた。当初、バックオフィス業務は紙とExcel中心の管理で、請求書などは郵送やFAXで届いていた。「現場第一主義で、家庭との両立が難しい」と言われるブライダル業界の常識を変えたいとの福手氏の考えから、同社では子育て中の従業員も採用し働いている。彼らが働きやすいようにリモートワークを推奨しているが、そのための環境づくりには、物理的な「紙」の管理から脱却し、クラウドへ移行することが必須だった。
そこで導入したのが、法人向けクラウド会計サービス「弥生会計 Next」だった。福手氏は当初、前職の会社員時代に使い慣れていた他社のSaaSツールの導入を検討していた。しかし、顧問税理士からの勧めもあり、新たな選択肢に目を向けた。折しも弥生会計 Nextのベータ版が無償提供されていたタイミング。「コストを抑えたい」との経営的な判断もあり、試用から始めることにした。
ベータ版の試用から本番利用への決め手となったのが、会計実務の経験が浅くても直感的に扱える、使いやすいUI(ユーザーインターフェース)だった。「画面がシンプルで、専門知識がなくても迷わずに操作できました」と福手氏。銀行口座連携などの初期設定もガイドに従うだけで完了し、サポートサービスなども必要よせず、スムーズに運用を開始できたという。
さらに、ベータ版の完成度の高さにも驚いた。「ベータ版なので期待値はそれほど高くないところから使い始めました。場合によってはバグが出たり、立ち上げに時間がかかったりと、ベータ版はそういうものだと思っていました。しかし、弥生会計 Nextは最初からかなり完成されたサービスでした」と福手氏は振り返る。そして会計だけでなく、「弥生請求 Next」「弥生経費 Next」も合わせて利用をすることにした。
これらの導入効果は大きかった。以前はExcelで作成していた見積書や請求書を弥生請求 Nextに移行したことで、作成時間は大きく短縮された。作成した請求書データは自動的にシステムへ反映されるため、仕訳登録の手間も不要になった。帳簿付けを含めたバックオフィス業務の時間は、従来の1/3程度に削減された。
経費精算でも、弥生経費 Nextを活用してスマートフォンで領収書を撮影・アップロードするだけのフローを確立。以前は月末にため込んでいた経費処理が、今では週次の短時間作業で完了するようになった。
また、東京と名古屋の2拠点で活動する福手氏にとっては、場所を選ばないクラウド管理は不可欠だった。さらに、Excelで管理していた頃はたびたび発生していた数式エラーやファイル共有の煩わしさからも解放され、請求書の受け取りもPDFへ移行するなど、徹底したペーパーレス化を実現している。
税理士との連携も円滑だ。同じクラウド画面を遠隔共有できるため、タイムラグなく正確なコミュニケーションが可能となっている。Bridal Plusでは、SlackやGoogle Workspace、クラウドサインなど、他の業務ツールもクラウドベースで統一しており、現場(結婚式当日)以外は完全リモートで事業が回る仕組みを構築している。
弥生会計 Nextを初めとした一連のサービスの機能については、アップデートが続いていることから不満はないものの、さらなる機能拡張として、Slackなどの外部ツールとの連携強化を期待しているという。通知やインターフェースが集約されれば、業務効率はさらに高まる。
福手氏は、今後も多様化するニーズに合わせ、結婚式のスタイルをアップデートしていく意向だ。その上で今後の事業拡大に向け、顧客管理(CRM)システムの導入も検討している。Bridal Plusは、クラウドでバックオフィスを徹底的に効率化し、リソースを顧客への価値提供に集中させることで、「箱を持たない」という独自の価値をさらに磨き上げようとしている。