現場が直面した「情報のサイロ化」を統合プラットフォームで解決 スカイ365が挑む自社のDX

2026年2月20日10:00|インサイト谷川 耕一
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 専業のクラウドMSP(マネージド・サービス・プロバイダ)として、24時間365日のシステム監視・運用を行うスカイ365。同社では、創業以来積み上げてきたクラウド運用の現場のノウハウを「SkyCoodle」としてプラットフォーム化した。これを活用することで、現場オペレーターが直面していた「情報のサイロ化」を解決するとともに、顧客に「セルフサービス化」という選択肢も提供している。その過程と、AI活用を見据えたデータの構造化への取り組みについて、同社代表取締役社長 藤岡真悟氏に聞いた。

現場を疲弊させたツールの分断 運用情報の整理が開発の起点

 スカイ365は2014年の創業以来、AWSやAzure、Google Cloudといった主要クラウドサービスの監視・運用を代行するMSP(Managed Service Provider)サービスを展開している。同社はもともと、テラスカイとサーバーワークスの共同出資で設立されたテラスカイの連結子会社だった。2025年、同じくテラスカイの連結子会社でSAPなどの基幹システムクラウド化に強みを持つBeeXに、テラスカイやサーバーワークスの保有株式が譲渡され、BeeXの子会社となった。

 テラスカイグループは、グループ内の連携を強化している。BeeXやテラスカイが上流のクラウド導入・移行支援を展開し、スカイ365はその後の「運用機能」を担い、夜間・休日の対応を含む「守りの要」としてグループの提供価値を支えている。さらに2025年11月にはベトナムのニャチャンに新拠点を開設。これを活用して、クラウドMSPに加えてBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)領域への事業拡大とグローバル対応を加速させている。

 創業当初、スカイ365ではチケット管理システムや監視システム(Zabbixなど)を個別に運用する形で業務を回していた。しかし、クラウド市場の拡大とともに顧客数が増加し、商流や要件が複雑化するにつれ、課題が目立つようになった。

 当時の状況について藤岡氏は、顧客ごとの要望に対応するために「システムがつぎはぎで増えていきました」と振り返る。クラウドMSPというサービスを提供する立場でもあり、同社には「資産を持たず、SaaSを活用する」方針がある。しかしそれが災いし、複数のSaaSを利用することで情報とシステムがバラバラに散在する状況を招いていたのだ。

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スカイ365 代表取締役社長 藤岡真悟氏

「どの顧客情報がどこにあるのかが分かりにくくなり、現場のオペレーターにとって負担となっていました。特に新しいスタッフが入社した際の教育コストが高騰し、属人化のリスクも高まっていました」(藤岡氏)

 顧客や目的ごとに異なるインターフェイスやツールを使い分ける必要もあり、運用現場が疲弊し始めていた。この状況を打破するために構想されたのが、統合的な運用プラットフォームの「SkyCoodle」だった。

ITIL準拠で「情報の器」を定義 SaaSを統合したSkyCoodle誕生

 SkyCoodle構築の第一の目的は、散在する情報とシステムをITIL(Information Technology Infrastructure Library)などのITサービスマネジメント(ITSMS)の概念に従い整理することだった。

 具体的には、チケット管理、監視データ、顧客情報、ナレッジといった要素を明確に定義し、それぞれの役割に適したツールを割り当てた上で、それらを統合的に扱う枠組みを作ることだ。

「全員が『ここはチケット管理』『ここは監視情報』『ここは顧客とのやり取り』と認識を統一するために、あえて『SkyCoodle』という名前を付け、情報の器を定義しました」(藤岡氏)

 この構想の下、主要な機能には実績のあるSaaSやツールが選定された。具体的には、チケット管理に「Zendesk」、顧客管理や案件管理には「Salesforce」、監視には「Zabbix」や「New Relic」、顧客とのコミュニケーションには「Backlog」、ナレッジ蓄積には「Confluence」といった具合だ。

 従来はこれらのツールの画面を個別に開き、オペレーターが複数の画面を行き来していた。それに対し各ツールを独自の連携基盤でつなぎ合わせて、オペレーターは複数のツールを意識することなく、SkyCoodleという一つのプラットフォーム上で業務を完結できる形を目指した。

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SkyCoodleの構成イメージ

社内効率化の先にある「顧客への開放」 運用の透明化がもたらす安心感

 SkyCoodleは当初、社内オペレーターの業務効率化と教育コスト削減を主眼に開発された。しかし、その先にある「顧客への価値提供」も見据えていた。それは、運用の透明化とセルフサービス化だ。

 従来のMSPサービスでは、顧客が設定変更を依頼してから反映されるまでにタイムラグが発生するのが普通だった。しかし、「設定変更を依頼して3営業日待つ」といったリードタイムは、スピードを求めるクラウド利用企業にとってボトルネックとなり得る。

 そこでスカイ365は、社内で利用して効果が確認された機能を順次、顧客向けのインターフェイスとして開放する方針をとった。これにより、顧客はメンテナンス設定や連絡先の変更などを、チケット起票や電話連絡をすることなく、Web画面から即座に実施できるようになった。

「我々にとっても作業の効率化になりますし、顧客にとっても『使いたい時にすぐに使える』というメリットがあります。実際にメンテナンス設定機能などを頻繁に使っている顧客からは、かなり便利になったと評価されています」と藤岡氏は述べる。

 また、SkyCoodleを通じてシステム構成やリソース状況を可視化することで、これまで「ブラックボックス」になりがちだった運用業務の透明性も向上した。顧客は自社のシステムがどのように守られているかを確認でき、それが安心感と信頼につながっている。

現場の声を反映したUI/UX設計とPaaS×スクラッチを組み合わせた開発体制

 エンジニア向けツールではなく、非技術者も含む幅広いユーザーが利用することを前提とした場合、UI(ユーザーインターフェース)の使いやすさは極めて重要だ。特にSkyCoodleは、社内のオペレーターだけでなく、顧客企業の担当者も利用する。そのため、直感的な操作性が求められた。

 スカイ365では、開発にあたり社内にプロジェクトチームを立ち上げた。普段は顧客対応を行うシフト勤務のオペレーターや現場のメンバーも巻き込み、「どのような画面が見やすいか」「どのような機能が必要か」といった意見を吸い上げながら開発を進めた。

 藤岡氏は、「開発本部を中心に据えつつ、現場の声を反映させる体制を作りました。基本的にはSalesforceなどをPaaSとして利用しつつ、アラート連携や独自のデータベースが必要な部分はAWSのマネージドサービス(Lambdaなど)を活用し、スクラッチで開発しています」と説明する。

 セキュリティ面でも、SaaSの権限管理機能などを活用しつつ、顧客ごとに見えるべき情報の範囲を厳密に制御する仕組みを構築している。

30〜40%の業務効率化を達成 次はベトナム拠点を活用する次世代BPO戦略へ

 SkyCoodleの導入効果は、定量的な数値としても表れている。藤岡氏によると、これまで手作業で行っていた設定変更などの定型作業が、従来比で30%~40%程度の効率化ができているという。

 また、定性的な面では、顧客視点での運用の透明化(見える化)による安心感と理解の向上が挙げられる。オペレーターの業務理解度も向上しており、新人教育のスピードアップに寄与している。たとえば、ベトナムセンターの立ち上げ時にも、SkyCoodleが業務プロセスの標準化に役立った。「うちはこういうシステムで仕事をしている」という共通言語ができたことで、外国人スタッフへの業務移管もスムーズに進んだという。

 ベトナム ニャチャンの拠点は、単なるコスト削減や人材確保を目的としたものではなく、次世代戦略「SkyCoodle for BPO」の核となる。藤岡氏は、今後の市場環境について、純粋なインフラ監視・運用への予算は縮小し、よりビジネスに近い領域への投資が優先されると予測する。

 そこでスカイ365が目指すのは、単なるシステム起因のアラート対応にとどまらないBPOへの進化だ。具体的には、ユーザー追加や権限変更といった個別依頼、さらにはビジネスプロセスに深く踏み込んだ業務代行までを、SkyCoodleを介して提供することを見据えている。

「システムの状態を見るだけでなく、顧客の『やりたいこと』を直接支援する。AIによる効率化(AIOps)を土台にしつつ、人が介在してビジネスを回す付加価値を提供することが、私たちの生き残る道です」と藤岡氏は強調する。

 ベトナムセンターでは、こうしたBPO業務や、夜間・休日の対応なども担う計画だ。そして、今後SkyCoodleには、問い合わせ内容をデータ化し、AIによる自動判断や自動回答を支援する機能の強化が予定されている。

AI活用の成否は「データ構造」にあり 現場の知見をデジタル化する

 SkyCoodleは、単なる管理ツールではなく、運用ノウハウの集約地であり、顧客とMSPをつなぐコミュニケーションハブへと進化している。今後は、蓄積されたデータを活用した予兆検知や、生成AIによるチケット要約・回答作成支援など、さらなる高度化を進める。

 スカイ365は、ベトナムセンターという新たなリソースと、SkyCoodleというデジタル基盤を武器に、労働集約的な運用業務を知識集約的なサービスへと転換させようとしている。企業のDXが進む中、運用のラストワンマイルを支える同社の取り組みは、システムやサービスの安定稼働を求める企業にとって、注視すべき動きだろう。

 スカイ365の今後の展望として欠かせないのが、AIの活用だ。藤岡氏は、「生成AIを使えば何でもできると思われがちですが、実際にはAIが解釈できる『きれいなデータ』がまだそろっていません」と現状の課題を冷静に分析している。

 現在、運用現場に残されているナレッジや対応履歴の多くは、非定型のテキストデータのままだ。これをAIが学習・判断に利用できる形に整理し、構造化(デジタライズ)することこそが、次世代のSkyCoodle、そしてAIOpsの実現に向けた最優先課題だという。

「単にAIを導入するのではなく、まずは現場の情報をデジタルデータとして正しく定義し直す。この地道な準備こそが、将来的に自動化の精度を高め、顧客に真の価値を還元する近道になると確信しています」と藤岡氏は締めくくった。