学生の「とりあえずエントリー」が課題だったY&I Group ABABAを活用し採用変革

2026年1月9日10:30|インサイト谷川 耕一
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 IT領域を中心とした多角的なビジネスを展開するY&I Groupは、急速な事業拡大に伴い新卒採用を強化している。同社は、生成AIの普及など市場環境が変化する中で、技術力以上に「人間力」を重視した採用方針を掲げている。しかし、従来の大手ナビサイトを利用した採用活動では、母集団の質の担保や、面談に至る歩留まりの低さが課題だった。そこで同社は、他社の最終面接まで進んだ学生を対象とするスカウト型サービス「ABABA」を導入。その結果、採用単価の削減と、マッチ度の高い人材の獲得に成功した。

「人間力」とは「ファン作り」である

 Y&I Groupは2016年設立のITベンチャー。SES事業、受託開発・Web制作、プログラミングスクール「Freeks」の運営、人材派遣・紹介、フリーランス支援の「Chip Career」、オフィス支援の「Connect Three」など、多角的な事業を展開している。同社は2024年に新たなミッション・ビジョン・バリューを策定。組織ビジョンでは、AI技術が進化し人間とAIが共存する未来を見据えて、ヒューマンスキルの高い人材の育成と輩出を掲げている。

 IT業界では、人材採用で技術力が重視される傾向にある。しかし、Y&I Group 組織開発本部部長の三島拓也氏は、これからの時代に求められるのは「技術力」以上に「人間力」だと強調する。生成AIやAIエージェントなどの普及により、労働市場や経済環境は大きく変化しつつある。技術的な業務の一部がAIによって代替可能となり、仕事では「その人であること」の価値が問われている。

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Y&I Group 組織開発本部部長 三島拓也氏

 三島氏は、採用において重視する「人間力」と、個人の資質である「人間性」を明確に区別している。人間性は大学の卒業年代の人材であれば、20年以上の人生経験によって形成されるもの。これは、一朝一夕に変えることは難しい。一方で、人間力は後天的に育める能力と定義する。

 Y&I Groupにおける人間力とは、「ファン作り」の能力だという。具体的には、人を管理する力、人を引きつける力、あるいは仕事を依頼した際に相手に気持ちよく動いてもらう力などがこれに含まれる。AIにより業務効率化が進む中、円滑に仕事を回し、周囲を巻き込んで成果を出す。そのための「ファンを作る力」こそが、同社が求める人材の核となる。

「最終選考」というフィルタリング機能の価値

 Y&I Groupは、2029年までに売上100億円、20事業への拡大を目指す「メガベンチャー構想」を掲げている。この目標の達成には、将来の事業責任者を担えるような主体性のある若手人材の、十分な確保が不可欠だ。しかし、2025年卒業の学生を対象とした採用では、課題が残った。当初の採用目標人数を達成できなかったのだ。

 従来の採用活動では主に大手ナビサイトなどを利用しており、そこを経由して応募する母集団には、質の面で問題があった。大手ナビサイトでは、学生が一括エントリーを行うケースが多い。企業理解が浅いまま応募する「とりあえずエントリー」が散見され、結果として説明会の予約から実施までの間に約40%の学生が離脱してしまう。実際に接触できる割合(歩留まり)が低い状態が続いていたのだ。

 同社は、2026年卒の採用で採用目標数を75%ほど引き上げる計画を立てていた。従来のナビサイトだけでは、この目標の達成は困難であると判断。そこで新たな採用チャネルとして、新卒向けダイレクトリクルーティングサービスの「ABABA」の導入を決めた。

 ABABAを評価したポイントは、独自のマッチングロジックだ。「他社の最終面接まで進んだ実績」というフィルタリング機能のあるABABAは、就職活動において企業の最終選考まで進んだ学生のみが登録できる仕組みを持つ。最終選考まで進んだということは、他社において一定の評価を受け基礎的な能力や就業意欲が担保されていることを意味する。Y&I Groupは、このABABAのプラットフォームが持つ「質の担保」機能に着目し、自社でゼロからスクリーニングを行う工数を削減しながら、確度の高い層へ直接アプローチする戦略をとることにした。

ツール連携によるスピード向上と採用単価の削減

 ABABAの導入効果は顕著に表れた。まず、採用コストが削減された。2025年卒の採用における1人あたりの採用単価は約30万円であったが、2026年卒の採用では約21万円まで低下している。採用人数を増やせば全体のコストは増大する傾向にあるが、前年よりも予算を圧縮しつつ採用数を伸ばすことに成功したのだ。

 また、選考プロセスのスピードと効率も改善された。大手ナビサイト経由では説明会への参加率が60%程度であったのに対し、ABABA経由でスカウトを送った学生は、約80%と高い確率で面談や選考に進んだ。

 これらの成果の裏側には、デジタルツールを活用した徹底的なスピード対応がある。導入当初、オペレーションが追いついていなかった同社に対し、ABABAの担当者は日程調整ツール「TimeRex」の導入を提案した。これにより、学生との日程調整にかかるタイムラグを解消し、即座に面談を設定できる体制を構築。現状では、学生からのエントリーや返信に対し、3時間以内を目標として、遅くとも6時間から7時間以内にはレスポンスを返す運用が可能となっている。

 三島氏は、学生にとって企業からの反応速度は志望度や信頼感に直結する重要な要素だと指摘する。他社が1日かけて返信するところを、ツールを活用し数時間で対応すれば、学生の意欲を維持したまま選考に進める。ABABAという「質の高いデータベース」と、日程調整ツールによる「スピード」の掛け合わせが、採用成功の一つの要因となっている。

面談で「思考をアップデート」する採用手法

 Y&I Groupの採用プロセスの特徴は、選考自体を「学生の思考をアップデートする場」と位置づけている点にある。三島氏は、日本の若者の多くが「主体性がない」「保守的である」と評される現状に対し、それは教育環境によって形成されたものに過ぎないと捉えている。そのため、採用面談では単なる合否の判定を行うのではなく、学生自身のキャリア観や人生設計に対する「思い込み」を解きほぐすコーチングのような対話を行っている。

 具体的には、学歴やこれまでの経験から「自分はこの程度だ」と可能性を制限している学生に対し、「なぜ自分で勝手に制限を設けるのか」と問いかけることから始める。その上で、本人が真に望む理想の状態や、得たい年収、送りたい生活水準などを具体的に言語化させる。

 たとえば「年収500万円稼ぎたい」という学生がいれば、その金額が社会全体の上位何%に位置し、その層に到達するにはどのようなスキルや行動変革が必要かを、客観的なデータや市場感を交えてフィードバックする。理想と現実のギャップを認識させ、そのギャップを埋めるための行動指針を共に設計していくプロセス自体が、同社の選考過程となっている。

 このアプローチにより、当初は受動的であった学生が選考過程を経て入社するまでに主体的な人材へと変貌を遂げるケースも多い。内定承諾後には、まだ入社前であるにもかかわらず、自ら大学の友人に声をかけ、同社を紹介する「リファラル採用」のような動きをする内定者も現れている。実際、ABABA経由で採用されたある内定者は、入社前でありながら2人の友人をイベントに動員するなど、すでに社員同様の当事者意識を持ち活動している。これは、選考プロセスを通じて学生がY&I Groupの理念に共感し、同社の「ファン」になっていることの表れとも言えるだろう。

今後の展望と組織の多様性

 Y&I Groupは、2027年卒の採用ではさらに規模を拡大した採用を計画している。急激な組織拡大に伴い、採用手法も進化させていく必要がある。現在は三島氏自身がカジュアル面談の多くを担当し、学生一人ひとりの「思考のアップデート」を行っているが、今後はその役割を担える社員を増やしていくことが必要だ。

 また、組織が拡大するにつれ「多様性」の確保も重要なテーマとなる。現在は「主体性があり、ファン作りができる」という同質性の高い人材が集まっているが、組織の持続的な成長のためには、異なる強みやバックグラウンドを持つ人材も受け入れなければならないと三島氏は指摘する。

 そのための採用チャネルとしても、ABABAの活用を継続・拡大する。その上でSNSやnoteを活用した情報発信も強化し、ブランディングにも力を入れていく。企業のカルチャーや社員のリアルな姿を積極的に発信することで、ミスマッチを防ぎ、同社のビジョンに共感する層へのリーチを広げる。AI時代だからこそ「人間力」に回帰し、デジタルツールを活用して効率的に「人」と向き合う時間を創出する同社の戦略は、人材採用に課題を抱える企業にとって参考になる部分がありそうだ。