産業用冷凍機で国内トップシェアを誇る前川製作所は、グローバルでの事業拡大に伴い、経費精算業務の煩雑さが課題として顕在化していた。特に、海外出張時の多通貨対応や、拠点ごとの監査業務における人的負担が大きく、業務効率化とコスト削減が急務だった。同社は「SAP Concur」の導入によりこれらの課題を解決し、従業員が付加価値を生むための時間を創出することを目指した。
1924年創業の前川製作所は、産業用冷凍機やガスコンプレッサーの製造販売を主軸に、食品関連の冷却設備や冷凍・冷蔵倉庫の設計施工、ヒートポンプや空調設備、省エネルギーシステムのプラントエンジニアリングも手がけている。特に産業用冷凍機分野では国内トップシェアを誇る。環境に配慮した製品づくりに注力しており、特に温室効果ガスを排出しない冷熱技術に強みを持つ。
近年は、センサーから得られるデータを活用し、顧客の設備稼働状況をリアルタイムで把握する遠隔監視システムや、設備異常を早期に検知しダウンタイムを最小限に抑える取り組みなど、デジタル技術を活用したビジネスのサービス化を進めている。また、製品のモデルベース開発にも力を入れており、スーパーコンピュータを用いたシミュレーションでプロトタイプをつくらずに製品を開発し、迅速に市場投入している。さらにはベテラン開発者の知見、ノウハウの継承にもデジタル技術を活用している。
同社はバックオフィス業務でもデジタル技術を積極的に活用している。「デジタル技術で効率化し、業務にかかっていた時間を減らし、付加価値を生む時間を増やします」と話すのは、前川製作所 取締役 専務執行役員の鳥井原 俊治氏だ。社員一人ひとりの成長が企業の成長に結びつくと捉え、そのために資源や時間など、さまざまな「チャンス」を社員に配り、企業が成長するプラスのスパイラルをつくる。これを人事ポリシーの一つとしており、個人の時間の使い方を見直すのにデジタル技術を活用している。
業務を効率化して従業員が付加価値づくりに取り組む時間を創出するために、会計などの基幹系業務システムを含め、あらゆるシステムの見直しに取り組んでいる。その一環で、経費精算システムも見直した。
具体的には、申請された経費がルールに沿った正しいものかをチェックする監査業務の効率化を図りたかったという。以前は経費精算申請のデータをExcelなどで一覧にまとめ、それを人の目でチェックしていた。コーポレート本部 経理部門リーダー 次長の大石 貴世子氏は、「これをシステムでチェックして、なるべく人のチェックをなくしたいと考えました」という。
経費精算のもう一つの課題が、海外出張時の精算処理の煩雑さだった。同社はグローバルでビジネス展開しており、海外出張の数も多い。その際の経費精算処理では、外貨の為替対応などにかなりの手間がかかっていた。出張が複数の国にまたがれば、複数の通貨を横断した精算が必要だったのだ。
これらの課題解決のために、新たな経費精算システムとして採用したのがSAP Concurだった。大石氏は「(監査の課題に対して)SAP Concurの『承認レス』という謳い文句の提案が、ものすごくよかった」と振り返る。また、SAP Concurのように多通貨に対応し「内部で為替レートを持っているような製品はほかにありませんでした」と選定理由を説明する。
単純なコストで比較すれば、より安価な国産サービスもあった。しかし、SAP Concurなら経費精算業務を変革できると判断した。同製品には経費の監査サービス(Intelligent Audit)があり、経理担当者が監査作業をする必要はなくなる。作業時間を大幅に削減できるメリットを考慮すれば、コストメリットは高い。それを経営層にしっかり説明し、導入の承認を得たという。
前川製作所は、国内に拠点が60以上ある。各拠点に経理担当がおり、以前は彼らがそれぞれ一覧にした経費申請データの監査を行っていた。人的な業務負担はかなり大きなものがあり、チェック漏れなどのミスが発生する可能性もゼロではなかった。
SAP Concurの承認レスの提案は、申請に対するチェックの考え方を根本から変えるものだった。社員がシステムで経費申請を行えば、明らかな間違いなどがなければプロセスが進み、事前チェックなしで支払いがなされる。BIの仕組みを使い、支払い後にイレギュラーなものが見つかれば担当者が確認し、改めて対処する。この新たな経費申請処理のプロセスを取り入れることは、前川製作所の規定にシステムを合わせるのではなく、システムに規定を合わせるようなものだった。
このあらかじめチェックしない方法を最初に経営会議で説明した際には、監査役からは懸念の声が上がった。それでも、「不正は見逃したくないのですが、100点満点を目指すことに何十時間も費やすのは合理的ではない。その時間を別の価値ある仕事に振り分けるほうがいいはずです」と鳥井氏はいう。SAP Concurの仕組みを取り入れ規定をシンプルにすれば、監査の作業もシンプルになり、人のケアアレスミスを減らせるとも考えた。
この取り組みを進めるには、これまで拠点でチェックを行っていた担当者にも変革を納得してもらい、業務のやり方を大きく変えてもらう必要があった。そのために大石氏は、各担当者に新しいやり方のメリットを丁寧に説明し、理解を得ていった。
前川製作所がSAP Concurを評価しているもう一つのポイントが、「ユーザーサポートデスク」だ。Concurの操作が分からない社員などへの問い合わせ対応サービスだ。新たなシステムの導入当初にはユーザーからの問い合わせが増える。これに通常業務と並行して対応するのは、経理担当には大きな負担だ。そこをサポートしてくれるユーザーサポートデスクがあったことで、Concurの展開は「想定よりもかなり楽でした」と、前川製作所 コーポレート本部 経理部門 主任の松本修平氏は言う。
前川製作所では、経費精算・管理クラウドの「Concur Expense」から利用を始め、請求書管理クラウドの「Concur Invoice」、領収書OCRアプリの「ExpenseIt」、出張管理クラウド「Concur Request」を順次導入している。クラウドサービスのSAP Concurは、継続的に機能が追加され、サービスは進化する。機能が追加されれば使い勝手が変わることもある。それを全て経理担当が把握して、問い合わせに答えるのは容易ではない。
また、経費精算に関わる法制度などが変われば、SAP Concurの設定を変更する必要が出てくるかもしれない。そうした場合でも、専任担当者が経理担当からの相談に迅速に対応する。松本氏もこの点に心強さを感じているという。
SAP Concurの導入で、各拠点にいた経理業務担当者の働き方も変わった。試算した結果、「年間で1万1520時間の残業時間削減効果がありました」と松本氏は説明する。
従業員による精算作業も効率化できている。以前は海外出張の食事などは実費精算だった。そのため、帰国すると多数の領収書を外貨レートと照らし合わせて申請しなければならず、大きな手間だった。当然、申請された外貨建ての領収書は、経理担当が逐一チェックしていた。現在は海外出張時の食費支給のルールを改め、支給に該当するかどうかをチェックして簡単に申請できる仕組みを構築し、支給を簡素化したプロセスに変更されている。社員からは「為替のチェックの必要もなくなり、楽になった」との声が。こうした新たなプロセスのアイデアは、外貨レートを内包しているSAP Concurがあったからこそ思いついたものだと大石氏は話す。
以前は経理担当が申請内容をチェックし、不備などがあれば申請者に差し戻していた。忙しい業務の合間に申請しているため、差し戻しに不満を持つ人もいた。そのイライラが、経理担当に向けられることもあった。SAP Concur導入と合わせて監査サービスを採用したことで、チェックは外部で実施されるようになった。差し戻しの際にも、「第三者が不備を説明すると、納得しやすいようです」と大石氏。監査サービスが経理担当者の心理的な負担の軽減にも貢献している。
さらに松本氏は、交通系ICカードとの自動連携サービスも便利だと評価する。「近隣の交通費の精算がすぐにできます。精算の手間が省けるだけでなく間違いもなくなります」と語る。
前川製作所では今後、タイ、ブラジル、メキシコなど海外拠点へのSAP Concurの展開も視野に入れている。現状、同社の売り上げ、利益は国内よりも海外の比率が多い。そのため、SAP Concurの採用時から海外展開は想定していた。「海外展開は国産のサービスでは無理だったと考えています」と鳥井氏。今後さらに海外ビジネスは拡大することが見込まれており、「その際に同じプラットフォームで海外展開できることは重要です」と話す。グローバルでいかに経費精算業務を効率化し、社員が価値ある仕事をするための時間を生み出すかについては、SAP Concurの知見、ノウハウに期待する部分も大きいという。
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