社会福祉法人京都社会事業財団京都桂病院(京都桂病院)は、院内のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するため、グループウェア「Google Workspace」とノーコード開発プラットフォーム「AppSheet」を導入した。12月11日、Google Cloudが発表した。導入から約1年で年間160万枚の紙削減を達成したほか、現場職員主導で25個の業務アプリを開発するなど、業務効率化と働き方改革につなげている。
京都桂病院は1955年に設立された地域基幹病院で、545床の病床を持つ。がんゲノム医療連携病院に指定されるなど高度な医療を提供する一方で、院内の業務プロセスには紙やFAXなどのアナログな手法が多く残っており、業務効率化や情報共有のスピードアップが課題となっていた。
こうした課題を解決するため、同院はGoogle Workspaceの導入を決めた。老朽化したメールシステムの刷新を機に、外部ベンダーに依存せず、現場の医療従事者が自ら業務改革(DX)を推進できる環境の構築を目指した。
システム改修を外部委託する場合のコストや時間のロス、現場の細かなニーズへの対応力不足も懸念材料だった。そこで、IT専門職ではない薬剤師ら現場スタッフを中心とした情報企画室を設立。専門知識がなくても標準機能を直感的に扱え、多職種間でのスムーズな情報共有や同時編集が可能な点を評価し、Google Workspaceを採用した。
Google Workspaceの導入により、紙の使用量が大幅に削減された。導入から約1年で160万枚の削減を達成しており、これはシステム導入による直接的な成果となっている。また、会議資料を事前に「Google ドライブ」で共有し、チャットツール「Google Chat」で議論する文化が定着したことで、会議の開催回数が半減した委員会もあるなど、業務時間の短縮にも寄与している。手術室のマニュアル検索やメール検索の速度も向上し、必要な情報へ即座にアクセスできる環境が整った。
表計算ソフト「Google スプレッドシート」の同時編集機能も業務変革をもたらした。新人看護師の評価業務では、従来100名規模の指導者が紙で管理し、手作業で集計していた作業をデジタル化することで、転記ミスや膨大な集計の手間を解消した。また、病室の清掃依頼業務では、毎日約100枚発生していたFAX連絡を廃止し、スプレッドシート上でのリアルタイム共有に移行したことで、外部の委託業者との連携が円滑化された。
現場の課題解決に向けた独自の取り組みとして、AppSheetを活用したアプリの内製開発も進んでいる。医療マネジメント部情報企画室主任の塩飽英二氏が中心となり、エンジニア経験がない中で開発手法を習得。薬剤部の在庫管理や業者入退室管理など、約1年間で25個のアプリを開発した。特に職員の健康診断アプリでは、従来4人がかりで1週間要していた配布・回収・転記作業の人件費を大幅に削減した。塩飽氏は、単に業務が楽になるだけでなく、創出された時間で職員が本来の業務に注力できる意義は大きい。
今後は、災害時の安否確認などを行う「病院アプリ」の運用に加え、電子カルテなどの診療業務との連携も視野に入れている。同室長の加納和哉氏は、「ITの専門知識に自信がなくても標準機能を使いこなすことは可能だ。院内のDXを成功させるには、興味を持って取り組むメンバーと、そうした主体性のある人材が育つ環境づくりが不可欠だ」としている。