三井不動産は、生成AIのさらなる活用による生産性向上と付加価値向上の両立を目的に、OpenAIの「ChatGPT Enterprise」を採用した。12月23日、三井不動産が発表した。2025年10月から全社員約2000人を対象に展開しており、利用開始から約3カ月で500件の独自AIツールが運用されている。今後、全社で業務削減時間10%以上の達成を目指す。
三井不動産は、オフィスや住宅、商業施設、物流施設など多岐にわたるアセットを展開している。近年はライフサイエンスや宇宙、半導体分野での産業創造にも取り組んでおり、多様化・高度化する顧客ニーズに対応するためには、社員の企画力の向上が不可欠であると判断。個々のニーズに応じたAI活用を推進するため、全社的な導入を決めた。
採用したChatGPT Enterpriseは、業務利用に必要なセキュリティとプライバシーを備えた企業向け生成AIサービスだ。要約や翻訳、資料の下書き作成、データ整理など日々の業務を幅広く支援する。同社では、プログラミングの知識がなくても特定の業務に特化したアシスタントを作成できる「カスタムGPT」機能を活用。各部門のルールやマニュアルを組み込んだ社内専用のアシスタントを整備し、問い合わせ対応や事務作業の効率化、データ分析支援などに役立てている。
活用の推進にあたっては、全社85部門から選出された約150人の「AI推進リーダー」がハブとして機能している。11月に実施した対面研修やチャットツールでの情報発信を通じて、現場のノウハウを全社へ迅速に共有。物件情報の参照や経理処理、プレスリリースの下書き支援など、実際の業務に即したユースケースが次々と生まれている。全社員を対象とした研修には延べ1300人が参加するなど、組織全体でのリテラシー向上にも注力している。
また、独自のAIプロダクトを開発できる内製環境を「Microsoft Azure」上に構築した。三井不動産の業務文化に合わせた複数のAIエージェントを開発しており、植田俊社長の視点を再現した「社長AIエージェント」などを全社に公開。経営層の考え方を身近に感じながら日々の判断に活かせる環境を整えた。また、DX本部長の思考を反映したエージェントは、資料レビューなどの相談業務をサポートし、DX本部内での資料作成時間を平均で約30%削減する効果を上げている。
12月からは、スライド資料を自動生成するAIの全社利用も開始した。構成案をテキストで入力するだけで、編集可能なPowerPoint形式の資料を自動作成できる。レイアウト変更や文言のリライトも対話形式で行えるため、資料作成にかかる時間を大幅に短縮し、より付加価値の高い業務に集中できる体制を目指
今後はChatGPT Enterpriseと内製プロダクトの両輪で、生成AIの適用範囲を段階的に拡大していく考えだ。現場の人手不足解消や社内データの整備・活用、経営の意思決定支援といった高度な領域への活用も進め、グループの産業競争力の強化と社会的価値の創出につなげていく。