日本郵船は、AI(人工知能)活用によるデータドリブン経営の推進を目的に、会計基幹システムをSAPのクラウドERP(統合基幹業務システム)「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」に刷新した。11月27日、導入を支援したシグマクシスとSAPジャパンが発表した。国内外のグループ約350社のシステム基盤を一元化し、業務プロセスの徹底した標準化を図っている。独自開発機能を大幅に削減してシステムの更新性を高め、生成AIなどの最新技術を活用しやすい環境を整備した。
日本郵船は世界最大規模の総合物流企業だが、グローバル競争の激化など経営環境の変化に対応するため、データに基づく迅速な意思決定を重視している。その一環として経営基盤刷新プロジェクトを立ち上げ、システムのクラウド移行を進めていた。
新たな基盤には、常に最新機能が利用できるパブリッククラウド版のERPを採用した。対象は本社および船舶保有目的の特別目的会社を含む国内外の子会社約350社に及ぶ。会計・財務領域において、制度会計や管理会計に加え、財務取引管理やインハウスバンキングなど高度な金融機能を含む主要5モジュールを導入した。パブリック版の同製品としては国内最大規模の導入事例であり、金融機能の標準化は国内初だ。
導入にあたっては、システムの標準機能に合わせて業務プロセスを変更する「Fit to Standard」の手法を徹底した。これにより、従来のシステムでは約450件あったアドオン(追加開発)機能を約1割まで縮小させることに成功した。システム本体を標準機能のまま維持する「クリーンコア」な環境を実現したことで、定期的なバージョンアップにも最小限の工数で対応できるようになった。実際に、2025年7月の稼働直後に行われた8月のグローバルバージョンアップも円滑に完了している。
プロジェクトは日本郵船が主導し、複数のパートナー企業が連携して推進した。シグマクシスはプロジェクト全体の推進と業務変革を支援し、SAPジャパンは標準機能の拡張ニーズへの対応などを担った。また、システムの改修やデータ移行はNYK Business Systemsが、拡張開発は伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)が担当した。
今後は、整備されたシステム環境上で生成AIの活用を本格化させる方針だ。定型業務を自動化して効率を高めるとともに、従業員がより高度な分析や提案業務に注力できる体制を整える。最新技術を継続的に取り込みながら業務標準化を進め、働き方の変革と迅速な意思決定が可能な組織への転換を目指す。