マザーハウスは、業務効率化と生産性向上を目的に、Googleの生成AI「Gemini」やノーコード開発ツール「AppSheet」などを全社的に採用した。12月2日、Google Cloudが事例を公開した。商品企画における海外工場とのコミュニケーション時間を約7割削減したほか、経理業務などでも省力化が進み、人員計画の見直しにもつながっている。
マザーハウスは「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念に掲げ、バングラデシュなど6カ国でバッグやジュエリーなどを生産・販売している。同社は2012年から情報共有基盤として「Google Workspace」を利用していたが、さらなる業務変革を目指し、近年GeminiやAppSheetなどのツールを導入した。
Geminiの採用にあたっては、GmailやGoogleドキュメントといった既存ツールとシームレスに連携できる点を評価した。また、同社には「Let me try first(まずはやってみる)」という文化が根付いており、これが新技術の早期導入を後押ししたという。全社展開に際してのルールは「AIは絶対ではないため意思決定は自分で行う」「重要情報は企業契約のGeminiのみで扱う」の2点のみに留め、各部門での自律的な活用を促した。
レザー製品の企画・商品開発部門では、Geminiを顧客レビューの分析や、バングラデシュにある自社工場への連絡業務に活用している。従来、時差や言語の壁がある中で翻訳やメール作成に多くの時間を要していたが、導入後はこれらの時間が体感で約70%削減された。創出された時間は長期的な商品計画などの付加価値の高い業務に充てられ、意思決定の迅速化にも寄与している。
財務経理部門では、税務や法制度のリサーチ、専門家へ相談する前の論点整理にGeminiを利用している。これにより外部専門家との相談時間が短縮されたほか、集計やリサーチ業務の代替が進んだことで、当初予定していた0.5人から1人分の追加人員の採用が不要になったと判断した。
また、エンジニアがいない環境下で現場の課題を解決するため、ICTチーム主導でAppSheetを活用した内製開発も進めている。店舗前の通行量調査を従来の紙による集計からアプリ入力に切り替え、データを可視化する仕組みを整えた。さらに、AIリサーチツールの「NotebookLM」を用いてマニュアルや過去の問い合わせ履歴を学習させ、社内FAQとして活用することで、社員の自己解決を促進している。
マザーハウス コミュニケーションデザイン部門ICTチームグループ統括マネージャーの増田康太郎氏は「仕様変更のリスクを恐れて塩漬けにするより、使いながら考えるスピード感が重要だと考えた。今後もGoogle Cloudの進化を最大限に活用し、共に成長していきたい」と話している。