独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター(名古屋医療センター)は、富士通 Japanの生成AIを活用した医療文章作成支援サービスを導入し、全診療科で退院サマリの作成における本格運用を2025年10月31日より開始した。11月19日、富士通Japanが発表した。医師の業務負担となっていた退院サマリ作成時間を患者一人あたり7割以上効率化できることを確認しており、医療の質向上と医師の働き方改革につなげたい考えだ。
医療現場では、診療の傍らで膨大な医療文書の作成に追われており、特に退院サマリの作成は医師の大きな業務負担となっていた。退院サマリは、入院患者の退院後にケアを担当する他の医療機関や施設と共有する重要な文書であり、患者の病状や入院時の治療経過などを詳細に記述し、退院後2週間以内に作成する必要がある。名古屋医療センターでは、年間約1万6000件に及ぶ退院サマリの作成において、電子カルテデータからの情報選定や転記作業が発生し、業務負担が課題だった。
今回導入したサービスは、電子カルテに入力された診療情報をもとに、生成AIが目的や要件に即した医療文章のドラフト作成を支援するものだ。名古屋医療センターは2024年12月から整形外科などの複数診療科で本サービスを試験導入。その結果、一患者あたり平均28分かかっていた退院サマリの作成時間が8分に短縮され、7割以上の効率化が実現した。
この効率化により、医師の情報収集や整理にかかる負担が軽減し、患者への専門的なケアに注力できるようになった。また、一般的な医師の時給を1万円と想定した試算では、年間約5000万円以上のコスト削減効果が期待できる。
サービスの特長として、クラウド型でありながら専用回線を介した閉域ネットワークを活用しており、診療データを生成AIの学習に利用したりクラウド上に保存したりしないため、個人情報に配慮した安全な利用が可能だ。富士通 Japanは、生成AIが誤った情報をもっともらしい形で出力するリスクの低減に向け、医療業界のノウハウと実証実験を重ねて生成AIの精緻なチューニングを実施。医療文書として求められる正確性や信頼性の向上に取り組んでいる。
加えて、生成AIに適用する診療情報の範囲を個別に選択できるため、患者が他の診療科で治療した経過も把握でき、医療安全における有用性も確認できた。富士通 Japanは今後、生成AIの適用範囲を医療文章作成から診療業務の効率化、診療情報の利活用などに拡大し、持続可能な医療体制の構築とデジタルホスピタルの実現に貢献していく。