福島芝浦電子、サーミスタ外観検査をAIで自動化 83%省力化し24時間稼働

2025年11月19日19:34|ニュースCaseHUB.News編集部
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 福島芝浦電子は、サーミスタ素子の製造工程において、AIを活用した自動外観検査システムの本格稼働を開始した。11月19日、システム構築を支援した日本アイ・ビー・エム(日本IBM)とともに発表した。従来の画像処理技術では困難だった目視検査の代替を実現し、検査工程で83%以上の省力化と24時間の安定稼働を達成した。今後は適用ラインを拡大し、生産体制のさらなる強化につなげる。

 福島芝浦電子は、世界トップシェアを誇るサーミスタメーカーである芝浦電子のグループ企業。自動車や家電、OA機器などに使用される温度センサー「サーミスタ素子」を月間約4000万個生産している。同社の製品は良品率99%以上という高い品質を維持しているが、その裏側では顕微鏡を用いた全数の目視検査に大きく依存していた。

 従来、検査工程では1個あたり1秒未満での判定が求められ、20名以上の検査員を常時配置して対応していた。しかし、人材の確保や育成に多大な負荷がかかる上、欠員が出ると生産計画に影響を及ぼすといった課題を抱えていた。過去には一般的な画像処理技術による自動化も試みたが、ガラスコーティングによる光の反射や形状の個体差を不良品と誤認してしまうケースが多発。安全を見込んで判定基準を厳しくすると約30%が再検査対象となってしまい、完全な自動化には至っていなかった。

 同社は、熟練検査員と同等の判断精度を実現するため、ディープラーニング技術を持つ日本IBMとの協業を開始した。日本IBMのAIサーバー「IBM Power」などを活用して開発された認識モデルは、大量の画像データから複雑なパターンや微細な違いを自動で学習。従来のルールベースの手法では設定が難しかったガラスの反射や形状の歪みがあっても、画像から特徴量を抽出することで高精度な判定が可能になった。

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商用画像処理ライブラリを活用した外観検査システムの判定画面サンプル

 システムの構築にあたっては、日本IBMが実証実験から本番実装まで支援した。AIモデルの開発手法に関するスキル引き継ぎが行われたことにより、福島芝浦電子の担当者が自らAIモデルの改善や運用を行える内製化体制が整った。プロトタイプ開発を経て、2024年10月に1号機、11月に2号機が本番稼働を開始している。

 検査員の高度な判断力に依存することなく安定した検査が可能になり、検査工程において83%以上の省力化を実現した。生産規模の拡大に伴う人員増強が不要になったほか、創業以来初となる24時間の安定稼働体制を確立した。また、検査品質の均一化や誤検出の削減、教育コストの低減といったメリットも生まれている。

 福島芝浦電子品質管理部業務改善課係長の竹内彰孝氏は、「AIは学習データの質を結果として静かに返してくる素直な技術だ。スキル移転の積み重ねが導入成功の鍵だったと実感している。今後は第3号機の導入などさらなる展開を進め、将来的にはAIの判定結果を作業者教育やライン改善にも活用したい」と話している。

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