オンワードデジタルラボは、公式通販サイトの検索機能強化と運営業務の効率化を目的に、Google Cloudの「Vertex AI Search for commerce」および生成AI「Gemini」などを採用した。12月8日、Google Cloudが発表した。ユーザーの検索意図を理解するAI検索により購入単価を向上させたほか、商品情報の登録業務にかかる時間を大幅に短縮した。今後はパーソナライゼーションの強化や動画生成AIの活用も視野に入れる。
オンワードデジタルラボは、アパレル大手オンワードホールディングスのデジタル戦略を担う中核企業。公式通販サイト「ONWARD CROSSET」の運営やデジタルマーケティング、実店舗とECを融合させるOMO戦略を推進している。同サイトでは月間約10万回以上の商品検索が行われているが、従来の検索エンジンはキーワードの一致に依存していたため、表記ゆれなどにより顧客が目的の商品にたどり着けないケースがあり、機会損失が課題となっていた。また、EC運営の要である「ささげ(撮影・採寸・原稿)」業務においても、負荷の高さや品質のばらつきが課題視されていた。
こうした課題を解決するため、同社はGoogle CloudのAIソリューションを採用した。検索機能には、Google検索の技術を活用したVertex AI Search for commerceを導入。商品名などのキーワードだけでなく、言葉の意味を理解するセマンティック検索が可能になり、顧客が自然な言葉で商品を検索できる環境を整備した。
導入の効果は数値として表れている。ABテストを実施した結果、検索あたりの購入金額は14.2%向上した。顧客が意図した通りの商品にたどり着きやすくなったことが、購買行動の活性化につながったと見ている。
ささげ業務の効率化に向けては、社内向けの生成AIサービス「AIme(アイミー)」を構築し、業務プロセス全体にAIを組み込んだ。商品説明文の作成にはGeminiを活用し、作成時間を最大5割程度短縮した。担当者による品質のばらつきが解消されたほか、表記ゆれや事実誤認の修正も自動化され、コンプライアンス遵守の観点でも品質が向上している。
商品画像の加工には画像生成AI「Imagen」や「Gemini 2.5 Flash Image(Nano Banana)」を活用している。背景を変更してブランドの世界観を表現したり、画質やアスペクト比を調整したりする作業をAIで効率化した。これにより再撮影の手間が減り、年間約200万円のコスト削減効果が見込まれる。
導入にあたっては、Google Cloudのオフィスでワークショップを実施し、ブランド側のEC担当者も交えて実用性を検証した。システムの導入および実装は、Google Cloudの認定パートナーであるシステムサポートが支援した。
今後は、Vertex AI Search for commerceの機能を活用し、検索体験のさらなる向上を図る方針だ。過去の購買履歴や閲覧履歴に基づき、個々のユーザーに最適な商品を表示するパーソナライゼーションを進めるほか、検索ワードに応じてトレンド感のある絞り込みキーワードを動的に表示する機能の実装も検討している。また、動画生成AI「Veo」を用いて、モデル着用画像などから商品動画を生成する検証も進めており、リスク管理を徹底しながら活用方法を模索していく。
オンワードデジタルラボ イノベーショングループ カスタマーサクセスDiv.の森田潤氏は、「従来の検索エンジンでは、表記のゆらぎなどがあった際に顧客が求める商品にたどり着けないという課題があった。Vertex AI Search for commerceは意味を理解した検索ができるため、キーワードでマッチしなくても意図どおりの商品にたどり着けることが増えた」と話している。