日産自動車は、Software-Defined Vehicle(SDV)の開発を加速するクラウド基盤「Nissan Scalable Open Software Platform」をアマゾン ウェブ サービス(AWS)上に構築した。12月2日、AWSが発表した。このプラットフォームにより、車載ソフトウェアのテスト実行時間を75%削減するなど、目覚ましい開発効率の向上を実現した。同社は、SDVでのソフトウェア開発を重要な戦略と位置づけ、今後もAI開発環境の強化を進める方針だ。
日産自動車は、車両の価値の多くがソフトウェアによって決定される自動車産業の変革期をリードするため、SDV開発を推進している。これまでの開発では、複雑化するソフトウェアへの対応や増加するテストケース、オンプレミス環境の処理能力とリソースの制限、グローバル開発体制の再構築といった課題に取り組む必要があった。こうした背景から、グローバルエンジニアリング環境のモダナイゼーションを目指し、2023年にAWSとの連携を開始し、Nissan Scalable Open Software Platformの開発に着手した。
今回構築されたプラットフォームは、車両ソフトウェア開発を実行する作業環境「Nissan Scalable Open SDK」と、車両データを集約・活用するデータ基盤環境「Nissan Scalable Open Data」がAWS上に構築され、デジタルツインを実現するための車両OS「Nissan Scalable Open OS」の三層で構成されている。同社は、AWSの240を超えるサービス群を活用し、AWSのプロフェッショナルサービスの支援のもと、プラットフォームの開発を加速した。
このプラットフォームの中核となるAWS上の「Engineering Cloud」は、ソフトウェア開発から機械学習のトレーニング、テストケースを含むソフトウェアの評価、データ処理まで、包括的な開発環境を提供している。これにより、アイデアをデジタルスピードで機能へと変える迅速な開発サイクルや、高度なテスト機能による品質保証の向上、グローバル開発チーム間でのボーダーレスなコラボレーションを実現可能にした。
具体的な導入効果として、車載ソフトウェア開発のCIパイプラインをクラウドへ移行し、AWS Step Functions、AWS Lambdaを活用した新しいパイプラインを開発した。このパイプラインでは、AWSのコンピューティング環境を活用した並列処理を統合SIL(Software-in-the-Loop)において実装し、車載ソフトウェアのテスト実行時間を75%削減することに成功した。また、テストケースの実行から判定、結果のグラフ生成まで全ての工程を自動化し、開発者の作業効率を大幅に改善している。
さらに、グローバル規模での開発環境の統一も進めている。世界中に在籍する5000人以上の開発者が、物理的な所在地に関係なく、標準化されたツールとリソースに即座にアクセスできる共通の開発環境の構築を目指し、AWS上にワークベンチポータルを開発した。このポータルは、今後5000人以上の開発者による利用を見込んでおり、共通環境と地域固有の環境を柔軟に展開できる設計となっている。
日産自動車 ソフトウエアデファインドビークル開発本部 ソフトウェア開発部部長の杉本一馬氏は、このプラットフォームが未来のモビリティを創造し、顧客に新たな体験を提供するための極めて重要なKey Technologyであるとした上で、「AWSの先進的なクラウド技術と専門知識との連携により、グローバルな開発体制の効率化を強力に推進していく」と述べている。
今後は、AI搭載の新世代運転支援技術の次世代ProPILOTなどの機能を支えるため、Nissan Scalable Open Software Platformをさらに発展させ、Engineering Cloud上でのAI開発環境の強化を進めていく計画だ。次世代ProPILOTは2025年9月に開発試作車の運転能力を公開しており、2027年度に国内の市販車への搭載を予定している。