東京ガスがDatabricksで1000万顧客への提案最適化や人事・VoC分析を効率化

2026年5月28日22:18|ニュース谷川 耕一
x
hatebu

 データブリックス・ジャパンは2026年5月27日、報道関係者向け説明会を開催した。本説明会では、データブリックスのソリューションを活用した課題解決の取り組み事例が紹介され、東京ガスによるAI活用事例も発表された。

稼ぎにつながるAI活用へ、データ基盤にDatabricksを採用

 東京ガスでDX推進部データ活用推進グループのグループマネージャーを務める笹谷俊徳氏は、同社におけるデータ活用の変遷と、新たなAI戦略について説明した。東京ガスには1980年代以前からデータ分析の専門チームがあり、長期にわたりデータ分析の取り組みを行ってきた。近年はAIやデータ活用に対する関心が全社的に高まっている。

20260528_TGS1.png
東京ガス DX推進部 データ活用推進グループ グループマネージャー 笹谷俊徳氏

 しかし一方で、簡単に実証実験(PoC)を終えて「ちょっと動くAI」はすぐにできるものの、それがビジネスの中で実際に価値を生み出せるのかが課題となっていた。取り組みは増加した一方で、成果創出との乖離が見え始めていた。

 このような課題を背景に、同社は現在「稼ぎにつながるAI活用」を全社方針として掲げている。ガバナンスは強化しつつAIのビジネス実装をいかに加速させていくかという方針のもと、その実現に向けた基盤にDatabricksを導入し、分散型の新しいデータ基盤を整備した。この新基盤は2024年末から稼働を開始しており、本格的に活用し始めてから1年と少しが経過している。同社はこのデータ基盤を活用し、さまざまなAI活用の取り組みを加速させている。

1000万件の顧客データを活用した「顧客DNA」の再構築と成果

 具体的な取り組みの1点目として、笹谷氏は「顧客DNA」を通じた顧客提案の進化を挙げた。東京ガスは現在、ガスや電気だけでなく、ハウスクリーニングなど顧客向けのさまざまなソリューションの提供を進めている。こうした提案を行うためには、顧客の価値観や趣味嗜好を理解することが重要となるが、従来のガス会社としての運営の中では、顧客の趣味嗜好がすべて分かるようなデータを網羅して取得していなかった。個々の顧客を理解するためには、AIを用いて属性や特徴を推定するアプローチが重要になると考えた。

 そのための取り組みとして、社内に蓄積されている数千項目以上のデータを集約し、AIを使って顧客の属性や特徴を推定・データ化している。それにより、顧客1人ひとりに合わせた最適な提案を可能にしている。この仕組み自体は5年以上前からスクラッチで一連の仕組みを構築し活用していたが、多くのデータから複数の機械学習モデルが動くことで仕組みが複雑化し、新しい試みをするための拡張に時間がかかる点や、メンテナンスコストの増加が課題となっていた。

20260528_TGS2.png
顧客理解のためのAI活用

 そこで新しいデータ基盤の導入に合わせ、データ加工から機械学習モデルの構築までをすべてDatabricks上で再構築した。これにより「大きな成果が得られた」と笹谷氏は言う。成果の一つが処理能力の向上だ。同社が抱える1000万件の顧客データを扱う上で、以前は処理の遅さが課題となっていた。新基盤の導入により、処理速度の高速化が実現されている。

 さらに、データの加工、モデル化、可視化までを、Databricksの環境でシームレスに行えるようになり、開発に関わるデータやコード、成果物の一元管理が可能になった。また、Databricksの「Genie」による自然言語ベースの開発支援機能の活用により、コーディングが得意ではないメンバーも開発に参画できるようになった。これにより、開発から実務への適用までのリードタイムは、「体感で1桁変わるほど効率化された」と笹谷氏は語る。

人事データの最適配置とVoCの統合管理への応用

 2点目の事例として紹介されたのが、人事データの活用だ。東京ガスグループでは現在、専門性を重視した新しい人事制度を進めている。この制度を推進するため、社員1人ひとりのスキルや業務経験、同社が求めるキャリアや専門性を「専門性ガイド」として整理し、人事データを構築した。

 このデータを利活用する手段として、二つの機能を開発した。一つは「キャリアアドバイザーAI」だ。これは社員のキャリアについてAIがチャット形式で提案するものだ。一般的な生成AIでは、東京ガスという企業の文脈に即したキャリアや専門性を十分に反映することが難しい。しかし、この仕組みでは社内の人事データや東京ガス従業員の専門性ガイドを踏まえた文脈での回答を可能にし、現在は目標設定やフィードバックの支援まで機能を拡張している。

20260528_TGS3.png
キャリアアドバイザーAI

 もう一つが「最適タレント検索」だ。従来は人事担当者の暗黙知に依存していた情報も含めてデータ化し、ダッシュボードや最適化技術を組み合わせることで、最適な配置案をAIが自動的にレコメンドする機能を社内に広く提供している。

 これら人事データの活用において、「Databricksが備えるデータガバナンスと権限管理の機能(Unity Catalog)が有効だった」と笹谷氏は指摘する。人事データは見えてはいけない人に情報が見えてしまうと大きな問題になる。Databricksの機能により厳密な管理を行うことで、安全な運用を支えている。また、データエンジニアリング、生成AI、アプリケーション化を一つのプラットフォームで実現できるため、PoC後のメンテナンスや権限管理の苦労を減らし、AI活用の量産化にもつなげている。

 3点目の事例が、顧客の声(VoC)の活用高度化だ。同社には電話受付での要望や、さまざまな顧客接点を通じて得られるNPS(顧客推奨度を測る指標:Net Promoter Score)のアンケートなど、膨大な顧客の声が集まる。従来は個別の部署での活用にとどまっていたが、この取り組みでは一連のVoCデータを統合管理し、生成AIを用いて通話データのタグ付けやカテゴリー分類などの加工を施した上でデータマートを整備した。整備したデータを活用する手段として、チャット形式やAIエージェント、ダッシュボードなど、さまざまな形で社内利用できるようにしており、ここでも自然言語を用いたデータ分析などのアプローチを組み合わせることで、顧客の声からインサイトを得る仕組みを実装している。

20260528_TGS4.png
AIによるVoC活用の高度化

全社実装の推進と今後の展望

 東京ガスでは、これらの取り組みを通じてAI活用による顧客価値の拡大をさらに進めていく。笹谷氏は、PoCの段階で一定程度は機能するものができた後、運用・メンテナンスの段階で課題が生じるケースが多いと指摘した。その上で、これらをDatabicksの一つのプラットフォーム上で扱えることが、実務におけるAI活用の量産化において大きなメリットになっていると評価した。

 東京ガスではDatabricksで実現した新基盤の本格活用から1年が経過し、現在も多くのプロジェクトが進行中だ。今後は、全社的なガバナンスを維持しながら、各ビジネス現場におけるAIの実装と運用の効率化をさらに推し進め、事業成果に直結するAI活用の定着を目指す。