シーユーシーは、介護現場の記録業務を効率化するため、Googleの生成AI「Gemini」にあらかじめ役割や口調・出力ルールを固定して作る「自分専用のカスタムAIアシスタント」機能のGemで構築された「ケア記録アシスト」を採用した。3月27日、シーユーシーが発表した。短い音声メモや手書き入力から専門的な介護記録の草案を瞬時に作成することで、記録時間を約20%短縮し、利用者と向き合う直接的なケアの時間を創出する。
日本の介護業界は深刻な人手不足に直面しており、今後数年間で数十万人の人材が不足すると予測されている。介護の最前線では、記録業務が労働時間の大きな割合を占めており、利用者一人ひとりと直接向き合う時間を奪っていることが大きな課題となっていた。
医療機関の経営支援や訪問看護事業を展開するシーユーシーは、こうした間接業務の負担を軽減するため、実証実験を実施した。同社が運営するホスピス型住宅「ReHOPE」の2拠点、27名のスタッフが参加し、現場運用とプロンプトの最適化のみで効率化を目指した。
ケア記録アシストは、SOAP(S:主観的情報:本人や家族の訴え、O:バイタルや観察所見などの客観的情報、A:専門職としての判断である評価、P:今後のケア方針となる計画)や、F-DAR(F:注目すべきテーマや問題点のフォーカス、D:フォーカスに関する事実や情報のデータ、A:行ったケアや対応のアクション、R:対象者の反応や状態の変化のレスポンス)といった専門的な形式の記録草案を作成できるツールだ。Google Workspaceユーザー向けに公開されており、各施設の独自フォーマットや用語ルールに合わせてカスタマイズが可能となっている。基盤となるGemini 3.0 Flashは日本の介護専門知識に精通しており、介護福祉士国家試験で精度100%を達成するなど、文脈を正確に理解する能力を備えている。
実証実験の結果、1人あたりの平均記録時間は4.0分から3.3分へと約20%短縮された。スタッフ1人あたり1カ月で約3.5時間の工数削減を実現しており、ReHOPE全59拠点に展開した場合、年間で3万時間を超える事務作業の圧縮が見込まれる。記録の品質についても、有識者による評価の約6割で「従来の手入力より質が高い」との回答を得た。
特に外国人材の活用において大きな成果を上げている。専門用語や特有の言い回しが必要な記録業務は外国人スタッフにとって心理的負荷が高く、日本人スタッフによる修正工数も課題だった。Geminiの活用により、外国語での音声入力や簡潔な単語の羅列からでも、正確な日本語の専門用語を用いた記述が可能になった。
セキュリティ面では、エンタープライズレベルの基盤を採用。入力データが組織外で共有されたり、AIモデルの学習に使用されたりすることはない。また、AIが作成した草案は必ずスタッフが内容を確認・承認する「Human-in-the-loop(人間が介在する)」設計を徹底している。
本取り組みを監修した慶應義塾大学の宮田裕章教授は、生成AIの活用は介護現場の労働環境を根本から改善し、ケアに関わる人々のより良い共生を実現する上で大きな可能性を秘めていると指摘する。記録業務という間接業務の負担を取り除き、介護の本質である人と人との触れ合いへの時間を創出するアプローチは、極めて重要であると述べている。
シーユーシーは今後、この運用モデルをグループ内の全介護施設および訪問看護・介護領域へと順次拡大していく方針だ。先進テクノロジーの活用を通じて現場の力を最大化させ、多様な人材が専門性を発揮できる次世代の医療・介護モデルの構築を推進する。