日本精工(NSK)は、軸受(ベアリング)製品のプロダクトライフサイクル全体を通じて環境価値を創出するためのプラットフォームを構築した。システム構築を支援した富士通が11月28日、発表した。製品の再生・再利用を促進することで、環境負荷の低減と顧客企業の設備稼働率向上につなげる狙いだ。
NSKは、気候変動への対応として、自社の製造工程だけでなく、ユーザー企業による使用段階までを含む製品ライフサイクル全体での温室効果ガス(GHG)排出量削減に取り組んでいる。その一環として、軸受製品を組み込んだ設備のメンテナンスや補修、廃棄に至るプロセスにおいて、ユーザー企業と価値を協創する新たな事業モデルの確立を目指していた。このモデルを実現するためには、NSK独自の製品技術と診断技術に加え、状態監視やメンテナンス、リコンディショニング(再生)、交換といった多岐にわたる業務データを、組織を横断して収集・活用する基盤が必要だった。
そこで、企業や業種を横断したデータのトレーサビリティ確保やサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現を支援する富士通の「Sustainability Value Accelerator」を活用し、中核となるプラットフォームを構築した。開発にはアジャイル手法を採用し、最初のプロトタイプを3カ月で稼働させた。その後、ユーザー企業や社内からのフィードバックを基に機能拡張を行い、計6カ月という短期間で構築を完了したという。
新プラットフォームは、軸受製品の製造からサービス業務まで一貫したデータ管理を可能にする。これまで工程ごとに管理されていたデータや、ユーザー企業が保有する機器の故障・異常予兆情報を統合管理し、部門間で共有する。これらのデータをユーザー企業とも共有することで、軸受の稼働状況に合わせた迅速な対応が可能となり、設備の稼働率向上が見込めるとしている。
また、ブロックチェーン技術を活用し、GHG排出量やメンテナンス履歴といった情報を改ざん不可能な形で管理する仕組みも備えた。これにより、軸受の再生による省資源化や、新品交換時と比較したGHG削減量などの環境価値を算出・記録できるため、ユーザー企業は安心して軸受を再利用できるという。さらに、NSKの顧客管理システムとも連携しており、ユーザー企業の状況に合わせた最適なサービス提案が可能になるとしている。
今後は先行ユーザーでの検証を経て、2026年から本格的な運用を開始する予定だ。NSK執行職産業機械事業本部CMS本部長の永井浩史氏は、「今回は新しいソリューションをゼロからアジャイルで開発し、スピーディーに顧客検証まで進めることが課題だった。富士通のオファリングを活用することで、柔軟かつ素早く構築でき、トライアル・検証もスムーズに進められた。今後は、生成AI活用によりさらに意思決定の質を高めるなど、一段高い価値を生み出す取り組みを加速していきたい」とコメントしている。