みずほフィナンシャルグループは、システムアプリ刷新プロジェクトでAI駆動開発ソリューション「IBM Bob」を用いた実証実験(PoC)を行い、設計から実装工程の工数を約3割削減した。この成果を「通過点」と位置づけ、日本アイ・ビー・エムが新たに提供を開始した「ALSEA」の検証も進めることで、プロジェクト全体の工数削減と開発期間短縮を狙う。こうした取り組みの状況について、7月15日に日本IBMが開催した記者会見で説明がなされた。
日本IBMは7月15日、エンタープライズ向けのAI駆動開発ソリューション「AI Lifecycle Shared Engineering Artifacts(以下、ALSEA:アリーシア)」の提供開始を発表した。ALSEAは、コーディングエージェント「IBM Bob 2.0」と連携し、開発標準や規約を体系化した「コンテキスト」と、AIが生成する成果物の品質や整合性をプログラム等で自動制御する仕組み「ハーネス」を備える。これにより、大規模システム開発におけるAI主体の開発手法を本格的に支援する。
みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほ)は、システムアプリ刷新の現場において、すでに「IBM Bob」を用いたAI駆動開発のPoCを先行して実施しており、具体的な手応えを得ている。さらに同社は、今回発表された新技術「ALSEA」についても、提供開始に先立ち複数のアプリケーション開発領域における適用可能性の共同検証をスタートさせた。こうした取り組みは、2021年のシステム障害を機に再発防止の徹底を図りつつ、激変するビジネス環境に即応するため2023年から経営の重要課題として推進している「IT改革」の中でも、最重点施策に位置づけられている。
記者会見に登壇したみずほの執行役常務 グループCIOを務める檜原伸一郎氏は、従来のシステム開発体制が抱えていた深刻な構造的課題を指摘する。これまでは案件やシステム領域ごとに、ベンダーからの提案をベースに技術選定を行い、個別に開発環境のセットアップや端末の調達を進めていた。そのため、検討から環境構築までに数カ月の時間を要し、ビジネスニーズに即応できない「アジリティの欠如」を招いていた。さらに、この進め方は「技術のサイロ化」や「知見の散逸」をもたらし、結果として「技術的負債の蓄積」や「ベンダーロックイン」といった連鎖的な課題を生む要因となっていた。
技術サイロ化やベンダーロックインといった課題を根本から解消し、失われた「技術主権の回復」を果たすため、みずほは標準技術を定めてインフラや開発自動化基盤を共通化・抽象化したプラットフォーム(B-Sphere)を構築した。JIRAやGitHubなどの管理ツール、CI/CD基盤をプリセットの形で開発者に払い出す環境を整えることで、開発メンバーはインフラ構築に煩わされることなく、純粋なアプリケーション開発に集中できるようになった。その結果、外部に依存しきっていた技術的なブラックボックスが排除され、自社内に確固たる技術知見を取り戻すための基盤が築かれつつある。
みずほでは、共通プラットフォーム上で実施された「IBM Bob」による先行PoCにおいて、設計から実装のプロセスで約3割の工数削減という具体的な成果を実証した。しかし、檜原氏はこの結果について、あくまでも「通過点」であると強調する。実装や単体テストといった個別工程での削減効果は大きいものの、プロジェクト全体を見渡すと、前後のプロセスやレビューなど、まだ人間の手作業や確認に依存する領域が多く残されているためだ。今後は、新たにALSEAの検証を進めることで、こうした前後プロセスの最適化やガバナンス強化を図り、プロジェクト全体としてより大きな工数削減・開発期間短縮の効果を得ることに期待している。
みずほは、IT業務の運営そのものをAI前提へ刷新するため、3段階の明確なロードマップを描いている。2027年度までの「フェーズ1」では、開発・保守・運用のプロセスや環境、そして人材のスキルまで含めて、すべてを「AI Ready化」するための標準化に注力する。続く2028年度から2030年度の「フェーズ2」では、AIを中核に据えた自律化によって現行比で生産性5倍を目指し、2031年度以降の「フェーズ3」では実装をAI中心とし、運用をゼロオペレーションへと近づけることで、人間とAIの共進化を果たす計画だ。
質疑応答では、技術進展による「フルオートメーション(全自動)開発の到来時期」についても質問が上がった。これに対し檜原氏は、勘定系のような大規模かつミッションクリティカルなシステムが全面的に変わるタイミングは、現時点では正直なところ見えていないと述べた。一方で、セキュリティパッチの自動適用といった特定の業務プロセスについては、近い将来にほぼ全自動に近い進め方が可能になる領域もあるとの見解を示している。
また、特定のAIツールやベンダーへのロックインに対する懸念について問われた場面では、みずほはIBM製品のみを使用しているわけではなく、MicrosoftやAWS、GitHub Copilotなど多様なソリューションを適材適所で試していると説明した。どのようなモデルを導入するにしても、重要なのは自社が技術をしっかり理解し、主体的にコントロールすることであるとし、技術主権の回復の重要性を改めて強調している。