日本中央競馬会(JRA)は、公式Webサイトの安定運用と業務効率化を目的に「Red Hat OpenShift Platform」を採用した。OpenShiftを提供するレッドハットが7月1日に発表した。
JRAは、1954年に日本中央競馬会法に基づき設立された特殊法人。設立70周年を迎え、「競馬を国際的なスポーツエンターテイメントとして創造していくこと」を経営方針に掲げる。その理念のもと、中央競馬の開催をシステム面で支えているのがJRAシステムサービス(JRASS)だ。同社は、JRA公式サイトをはじめ、中央競馬関連システムの開発・運用・保守を担っている。
JRAは、早くからIT基盤の強化に取り組んできた。2013年には、JRAの情報系システムを統合し、リソースの有効活用や過剰なスペックの排除を目的に、ハードウェア共通基盤の検討を開始した。そして翌2014年には、仮想化技術を活用し統合IT基盤として運用を開始した。
この仮想化技術による統合IT基盤により、ハードウェア資源の効率化が図られ、調達コストの削減や準備の負担軽減が実現した。2015年にはJRA公式ホームページのシステムも統合IT基盤に移行し、仮想化環境での運用が始まった。これにより、物理サーバーでは難しかった柔軟な拡張が可能となり、開発や運用が効率化された。
その後、スマートフォンの普及やインターネット投票会員の増加(600万人超)を背景に、公式サイトへのアクセスが急増。特に中央競馬が開催される土日祝日には、アクセスが集中する。開催日の中でもメインレースの締め切り直前にはアクセスが最大ピークを迎え、2024年の有馬記念当日は1日で5000万ページビューを超えるアクセスがあった。
有馬記念のレースではさらに、馬券の発売締切後にアクセスが急減する一方、レース終了直後には結果確認で再び急増するなど、極端なアクセス変動も発生。こうした変動に柔軟に対応し、コストを最適化しながら安定運用を続けることが喫緊の課題となっていた。
日本中央競馬会 情報システム部 統合情報システム課 課長の尾崎準一氏は、「従来の仮想化基盤では、アクセス集中に対応するためのインフラ準備に時間がかかっていた」と言う。さらに仮想化サーバー環境ごとの手作業は、ヒューマンエラーによる不具合のリスクもはらんでいた。
また、リリース作業も仮想化サーバーの環境ごとに行う必要があり、本番環境への反映にも時間と手間がかかっていた。さらに、近年増加する脆弱性を狙ったサイバー攻撃に対し、迅速にセキュリティ対策を実行できるプラットフォームも求められていた。尾﨑氏は、JRAの公式Webサイトが「安全・安心・安定稼働」を強く求められるミッションクリティカルなシステムであるため、これらの課題解決が不可欠だったと語る。
JRAでは、これらの課題を克服すべく2022年からコンテナ技術の検討を開始。2024年10月には既存環境からOpenShiftを基盤としたコンテナ環境への切り替えを完了し本番運用を開始する。OpenShiftの採用の決め手は、多様な機能や高度なGUIが低コストで提供される点、レッドハットのエンタープライズ領域における豊富な導入実績、技術ノウハウ、そして信頼性の高いコンサルティングサービスだった。プロジェクトメンバーに対するレッドハットからの技術支援が、コンテナプラットフォーム導入の理解を大いに助けたと尾崎氏は評価する。
OpenShiftの導入は、公式ホームページの運用にさまざまな効果をもたらしている。まずは、OpenShiftのオートスケーリング機能により、アクセスが集中する土日祝日でも、柔軟かつ効率的にリソースを最適化し、安定したサービスを提供できるようになった。これにより、有馬記念をはじめとする主要GⅠレースにおいても安定した稼働を維持している。尾﨑氏は「OpenShiftの環境は、大きな安心と自信につながっている」と語る。
またセキュリティ面の改善もある。コンテナプラットフォームへの移行により、従来の仮想化の基盤と比べ脆弱性対応の頻度は6ヶ月に1回から、2ヶ月に1回へと増えている。これにより、最新のセキュリティ脅威に対し、より迅速に対応できる体制が整った。
さらに、システム運用の効率性も大きく向上。本番リリース作業は従来の5時間から1時間へと大幅に短縮された。リリース時の環境に起因する不具合もゼロになり、仮想マシン構築などのリソース準備期間も3ヶ月から1ヶ月へと短縮された。一時的なサーバーへの高負荷にも迅速な対応が可能となり、JRAではこれらの効果を強く感じていると言う。
JRAおよびJRASSは、今後もOpenShiftの価値を最大限に活かし、カスタマーエクスペリエンスの向上を図っていく。JRAは、システムの対応力のさらなる向上のため、「リードタイムの短縮とリリース頻度の向上」および「回復力の強化」を柱とし、運用プロセスの見直しやアーキテクチャーの改善を進める。
尾﨑氏は「安定稼働を通じてお客様に喜んでいただける公式サイトを提供したい。今後もレッドハットと連携し、より多くの人に喜ばれるシステムを目指していく」と展望を語った。JRAの経営方針である「競馬は、お客様とともに、毎週走り続けます」を受け、尾﨑氏は「オープンシフトとともに競馬は走り続けます」と表現。今後もシステムを通じ、全力で走り続けると言う。
今回の導入は、公営競技というミッションクリティカルな分野でオープンソースとコンテナ技術を適用し、事業の安定性、セキュリティ、顧客体験の向上を実現した好例といえる。JRAは、今後も継続的なシステム改善とレッドハットとの連携強化を進める考えを示している。
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