富士フイルムは、写真愛好家向けのコミュニケーションマーケティングを強化するため、メタバースサービス「metatell」を採用した。3月4日、metatellを提供するUrthが発表した。Webブラウザベースのメタバース空間「House of Photography in Metaverse(HoP)」を構築し、デジタルカメラのショールームやギャラリー機能を通じて、ユーザーとの中長期的なエンゲージメントの向上を図る。
1934年の創業以来、写真フィルムの国産化を皮切りにヘルスケアやエレクトロニクスなど多岐にわたる領域を展開する富士フイルムは、祖業であるイメージング領域のさらなる加速を目指している。同社のハイエンドデジタルカメラ「Xシリーズ」は、製品のストーリーに深く共感するコアなファンに支えられている。しかし、近年は街のカメラ専門店の減少により、ユーザーが気軽に相談したり現物を確認したりする場が減少し、製品選びに迷うユーザーが増えているという課題があった。
こうした「ユーザーの迷子」を解消し、ブランドの想いを直接届ける新しい手段として、同社はメタバースの活用を決めた。SNSのような一方的な情報発信ではなく、リアルなイベントよりも気軽に参加できる「中間の場所」として、アバターを介した双方向のコミュニケーションに可能性を見出した。
プラットフォームにmetatellを選定した最大の理由は、Webブラウザベースである点だ。専用アプリのダウンロードやVRゴーグルなどの高価な機材を不要にすることで、参加のハードルを下げ、多くのユーザーが手軽にアクセスできる環境を重視した。また、建築デザイナーが設計する3D空間や、管理画面から自由にカスタマイズできる柔軟性も評価のポイントとなった。
現在は、リアルとメタバースを組み合わせたハイブリッドな施策を展開している。具体的には、実際の撮影会とビデオツールでの講評会を経て、選ばれた作品をHoP内のメタバースギャラリーに展示する一連のパッケージを提供している。SNSでの画像投稿とは異なり、空間に写真を「展示」してストーリー性を持たせる体験は、ユーザーから高い評価を得ている。
富士フイルムのメタバース空間HoP
導入初期には、社内のセキュリティ基準との兼ね合いや、ユーザーの操作習熟度といった課題にも直面したが、Urthの支援による機能改善や運用ルールの見直しを経て、現在はチャットや画像共有を活用した自由なコミュニケーション環境を整えている。
富士フイルムイメージングシステムズの上野氏は、「これからは第二章として、ユーザーが自発的に楽しむプラットフォームとしてHoPを開放していきたい。初心者もベテランもフラットに交流できる写真愛好家の遊び場を目指す」としている。同社は今後、メタバースでの体験を通じてファンを増やし、LTVの向上につなげるとともに、新しいイメージングの世界を市場に示していく。