メジャーリーグベースボール(MLB)は、ファンに新たな観戦体験を提供することを目的に、GoogleのAIモデル「Gemini」で構築された「MLB Scout Insights」を採用した。3月27日、Google Cloudが発表した。同機能は公式アプリの「Gameday」を通じて提供され、全試合のあらゆる局面で詳細な解説情報をリアルタイムに配信する。長年蓄積してきた膨大なデータをAIで即座に分析し、ファンのエンゲージメント向上につなげる。
MLBはこれまで、Google Cloudと協力して大規模なデータベースやデータレイク、デジタルアーカイブなどのIT基盤を整備してきた。公式アプリの主要機能であるGamedayは、一投一打の動きをリアルタイムで追えることから、毎日数百万人のファンが利用している。2026年シーズンの開幕に合わせ、この視聴体験をさらに没入感のあるものへ進化させるため、最新の生成AI技術の導入を決めた。
新たに導入されたScout Insightsは、MLBの伝統的な統計データと「Statcast」による詳細な動作データを、Geminiモデルによって瞬時にスキャンする。試合の状況と照らし合わせ、重要な局面で最適な背景情報を生成する仕組みだ。たとえば、特定の打者に対する投手の過去の対戦成績や、選手の出身校などのルーツに関する話題、特定の状況下でのスイング率といった詳細な傾向を、専門家のような視点で提示する。
システムの構築にあたり、単なる事実の羅列ではなく、ファンにとって価値のある「意外性」を重視した。情報の「気の利き方」を数学的に測定する指標として「Surprisal(意外性)」という概念を取り入れ、複雑なランキングシステムを構築。これにより、AIが試合の興奮を削ぐことなく、適切なタイミングで品位を保った解説を行えるようパーソナリティの調整を徹底した。
技術面では、スピードと柔軟性に優れた「Gemini 1.5 Flash」や「Gemma」モデルを採用した。Gamedayのユーザーが最も重視する低レイテンシを実現するため、Google CloudのエンジニアとMLBのチームが共同で独自のアーキテクチャを開発。データ分析プラットフォームの「BigQuery」やデータベースの「AlloyDB」を組み合わせ、当日のラインナップから展開を予測してインサイトを事前生成しておく手法をとった。これにより、実際のプレーから約2秒以内という驚異的な速さでの情報配信を可能としている。
MLBのエンジニアリング部門ディレクターを務めるマット・グレイザー氏は、数十年分のデータをAIやクラウドツールに取り込むことで、Scout Insightsはリアルタイムで的確な解説を届けられるようになったと説明する。これがシステムのもたらす魔法の一つであると述べている。
また、プロダクト担当シニアバイスプレジデントのジョシュ・フロスト氏は、ファンがより深く試合を楽しみ、熱狂を分かち合えるようサポートしたいと考えていると語る。そのつながりこそが、最高のスポーツとテクノロジーがともに目指すべきゴールであるとしている。
今後は、試合データやユーザーからのフィードバックを蓄積することで、システムを自律的に学習させ、さらに精度を高めていく方針だ。AIを通じて選手個々の歴史や人間模様を可視化し、データの羅列を超えたドラマ性のある観戦体験の提供を目指す。