住友生命、ウェルビーイング実現のために会計基盤刷新 Oracle Cloud ERPで業務変革を推進

2025年12月18日22:16|ニュース谷川 耕一
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 住友生命保険(以下、住友生命)は、DXの一環として会計領域に「Oracle Fusion Cloud ERP」を採用した。創業以来の理念を現代的な「ウェルビーイング」への貢献と再定義する同社。今回の刷新は、職員の生産性向上と付加価値の高い業務へのリソースシフトを目的としている。 2025年12月11日のカンファレンスイベント「Oracle Cloud and AI Forum」の基調講演にゲストとして登壇した同社副社長・角 英幸氏は、プロジェクトの背景と、金融機関特有の要件をいかにSaaS型ERPで実現したかを解説した。

「守り」と「変革」を明確化したシステム戦略

 講演で角氏は、住友生命が掲げるパーパスについて触れた。住友生命は、創業から約120年にわたり掲げてきた「社会公共の福祉に貢献する」という理念を、現代の価値観に合わせて「ウェルビーイング」への貢献として再定義している。顧客に対しては健康増進型保険「Vitality」などを通じてリスクそのものを減らす新しい価値を提供する一方で、それを支える同社職員のウェルビーイングも不可欠であると強調した。

 そのためにデジタル技術を活用して日々の業務ストレスを解消し、生産性を向上させる。それにより職員がより付加価値の高い業務に集中できる環境を作ることが、今回のシステム刷新の核心にあると説明した。

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住友生命保険 相互会社取締役 代表執行役副社長 角英幸氏

 住友生命のITシステム環境は、長らくメインフレームが支えてきた。今回のプロジェクトでは、既存資産に対する冷静な仕分けが重要となった。角氏は、顧客情報や保険契約を管理する基幹システムは、メインフレーム上で極めて堅牢に構築されており、セキュリティやIT人材確保の面でも問題がないため、今後もこれを維持する方針をとっている。これらは、安定性が最優先される「守るべき領域」としての判断だ。

 一方で、会計システムは「変革すべき領域」として特定された。これまで全国に約1500ある営業拠点や90の支社が、それぞれの業務プロセスに合わせオンプレミスでシステムを個別に構築してきた。その結果、全社的にシステムが分散・複雑化していた。そして法令対応や制度変更のたびに、それら個別システムの改修が必要となり、メンテナンス負荷が変革のボトルネックとなっていたのだ。この課題解消のために、経費精算業務などを集約し、OracleのクラウドERPを中核に据えた会計基盤への全面刷新を決断した。

生命保険特有の要件とクラウド選定の理由

 数あるERP製品の中で、なぜOracle Cloud ERPが選ばれたのか。角氏はその理由として、業務要件への充足度、堅牢なセキュリティ、そして実現性の高さの3点を挙げた。

 第一の理由は、生命保険業に特有の会計処理への対応力だ。生命保険会社には、生命保険会社の「区分経理」は、保険契約のグループごとに資産・負債・損益を分けて管理するための「区分経理」と呼ばれる仕組みがある。これは保険契約全体を種類ごとに区分し、それぞれについて資産・負債・損益を厳格に管理するものだ。一般的なERPでは対応が難しいこの要件に対し、OracleのERP製品は定義を柔軟に行える機能を有しており、アドオン開発を極力抑えつつ要件を満たせる点が評価された。

 二つ目の理由は、金融機関として譲れないセキュリティと信頼性だ。システムリスク対応や金融庁のガイドラインを満たしていることに加え、365日体制のサポートなど非機能要件でもセキュリティ基準をクリアしている点が重視された。また、国内外の金融機関における豊富な導入実績も、採用を後押しする材料となった。

 三つ目の理由が、プロジェクトの実現性(フィージビリティ)だった。選定プロセスにおいて、Oracleは単なる製品紹介にとどまらず、住友生命の具体的な要望に対する丁寧なデモンストレーションを実施した。これにより「これなら自社の要件を実現できる」という確信が得られたことが、最終的な決め手になったと、角氏は振り返る。

独自要件への適合と業務標準化のハイブリッド戦略

 一般に、SaaS型ERPの導入では、業務プロセスをシステムの標準機能に合わせる「Fit to Standard」のアプローチが推奨される。しかし、独自の商習慣や規制が多い日本の金融機関において、完全な標準化は容易ではない。角氏は、「区分経理のような独自要件への対応と、標準機能への準拠は矛盾しないのか」という問いに対し、住友生命がとっているハイブリッドな導入戦略があるという。

 角氏の説明によれば、同社はシステム導入において領域ごとのアプローチを明確に使い分けている。区分経理のような、生命保険ビジネスの根幹に関わる必須要件は、Oracle SaaSの持つ柔軟性を活用して、システム側を業務に適合させる方針をとった。これは、競争力の源泉や法的要件を守るための判断である。

 一方で、全国の拠点や支社で行われている経費精算などの一般業務は、アプローチを逆転させている。これまでは拠点ごとにバラバラのやり方が存在していたが、新システム導入を機に、現場の業務プロセスそのものをシステム標準に合わせて抜本的に見直すこととした。角氏は「個々の業務はこれまでのやり方を変えて、システムに合わせていく」と明言しており、これにはシステム刷新をてこに、長年の課題であった業務の標準化と効率化を一気に推し進める狙いがある。

 今回の導入プロジェクトは、住友生命の子会社であるスミセイ情報システム、およびアビームコンサルティングをパートナーとして推進されている。導入では、異なる企業文化を持つ3社のメンバーがワンチームとなることを重視し、角氏自らが「オーバーラップ(領域を超えた連携)」を推奨することで、円滑なプロジェクト運営を図っているともいう。

 Oracle Cloud ERPの新システムは、2026年度の本格稼働を目指している。角氏は、今回のERP導入によりデータの粒度がそろい、全社的な一元管理が可能になることの意義を強調した。整えられたデータ基盤は、将来的にAIを活用した高度な経営分析や予測を行うための前提条件となる。

 その上で住友生命は、この新たな会計基盤を、変化し続ける経営環境に対応するための「レジリエント(回復力のある)な土台」と位置づけている。守るべきメインフレームの信頼性と、クラウドERPによる柔軟性を組み合わせることで、「なくてはならない保険会社」としての進化を今後も加速させていくという。