世界有数の自動車部品メーカーであるデンソーが、グローバルなサプライチェーンの高度化に向けて一歩を進めた。財務および人事で運用してきた「Oracle Fusion Cloud Applications」の適用範囲を、サプライチェーン領域にも広げる。4月15日に日本オラクルが発表した。背景には、世界187拠点にまたがる業務プロセスをグローバルで標準化し、AIを前提とした意思決定基盤を整備する狙いがある。
4月16日に開催された「Oracle AI World Tour Tokyo」のアプリケーションジェネラルセッションでは、デンソー 執行幹部 兼 ITデジタル本部統括部長 兼 経営基盤プロセス改革部長 兼 ITデジタル統括部長の城所幹人氏が登壇し、複雑化する事業環境の中で、同社がテクノロジーをどう位置づけているのかを紹介した。単なる業務効率化にとどめず、生成AIや自律型エージェントを業務に組み込むことで、環境変化への対応力を高めたサプライチェーンを構築していく。
自動車産業を取り巻く環境が激変する中、デンソーは「地球に優しく、すべての人が安心と幸せを感じられるモビリティ社会の実現」をビジョンに掲げている。これを支える基盤として、同社は世界の主要な自動車メーカーほぼすべてに部品を供給するための、広大なサプライチェーンの最適化を急いでいる。現在、デンソーは世界各地に187の拠点を持ち、約16万人の従業員が働いている。
同社は、サプライチェーン管理(SCM)の仕組みとして「Oracle Fusion Cloud SCM」を新たに選択した。各種自動車部品をグローバル規模で製造し提供するデンソーにとって、SCMはビジネスの根幹であり、自社の競争優位性に直結する極めて重要な領域だ。そのため、従来は自社の要件に合わせた独自のシステムをスクラッチで開発・運用してきた。
しかし、ジェネラルセッションに登壇した城所氏は、この「自前主義」が直面している限界を率直に明かした。変化のスピードがかつてないほど速まり、生成AIなどの先端技術が次々と登場する現在、自社開発のシステムでは最新機能を取り込み、変化に対応し続けることが困難になっているという。「変化の激しい中でAIなどを最大限に活用するには、従来のスクラッチ開発ではスピードについていけない」と城所氏は指摘する。そこで同社は、Oracleが提供するクラウドパッケージを採用し、AIを含む新機能をタイムリーに取り込める体制へと切り替えた。
デンソーの戦略を支えるOracle側のテクノロジーも、進化している。セッションの前半に登壇したOracle Fusion ERPM開発担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのロンディ・エン氏は、過去18カ月間でOracle Fusion Applicationsに起きた変化を説明した。エン氏によれば、Oracleはこれまで、テキスト生成などを支援するAIから始まり、特定のビジネスプロセスをステップごとに実行するエージェントを1000以上開発してきた。
こうした取り組みは、現在「Fusion Agentic Applications」と呼ばれるコンセプトに発展している。従来のプロセス中心のシステムではなく、ビジネスの成果(アウトカム)を起点に設計されたアプリケーション群だ。取引や業務の記録を残すことが主目的だった従来のシステムとは異なり、実際の業績やキャッシュフローといった結果をどう高めるかに軸足を置いている。
ユーザーが自然言語で特定のKPIやビジネス目標、指示を入力すると、背後で複数の専門特化したAIエージェントが連携して動作する。たとえば、売掛金の回収管理において、システムはどの顧客から優先的に回収すべきか、どのような割引戦略を提示すべきかを自ら推論し、最適なプランを提示する。
エン氏は、システムを単なる業務ツールとしてではなく、意思決定を支えるパートナーとして位置づけていると説明した。人間がデータを収集し分析することに時間を費やすのではなく、AIが提示した推奨事項や戦略的選択肢から、人間が最終的な決断を下すという役割分担である。デンソーは、こうした「自律型」の機能を活用し、グローバルでの意思決定の質とスピードを高めていく考えだ。
デンソーとOracleの関係は、単なる製品の提供と利用にとどまらない。両社は、サプライチェーンのモダナイゼーションに向けて共同で取り組んでいる。AI活用に関する知見を構築・共有するための「AI Center of Excellence」を共同で設立し、経営層から現場まで足並みを揃え、プログラム全体を通じてAIの実装を加速させる。
城所氏は「Oracle Fusion Applicationsにより、データの精度と鮮度を高め、AIを業務プロセスに組み込むことで、変化に対応しやすいサプライチェーンを構築していく」と展望を語った。自社開発からクラウドパッケージへと方針を転換したことで、今後はOracleが提供する四半期ごとのアップデートを通じ、常に最新のAI機能が業務プロセスに供給されることとなる。
セッションの締めくくりとして、エン氏はAIプロジェクトを成功させるためのポイントとして、早期に開始し、まずは小さな成功を積み重ねることの重要性を説いた。デンソーの取り組みも、このアプローチに沿ったものだ。まずは財務・人事といったコア領域から始め、そこで成功体験とデータを蓄積してきた。現在は、その取り組みを企業の生命線であるサプライチェーンへと広げている。