厚生労働省は、開示請求や行政不服審査などに伴う情報公開等事務の高度化を目的に、OracleのAIサービスを活用した独自のAI活用基盤「Ministry of Health, Labour and Welfare Organization AI」を構築した。7月7日、日本オラクルが発表した。開示請求件数の増加と事案の複雑化で負荷が高まっていた過去事例調査や関連文書検索の業務を、第1段階として意味検索システムで支援し、業務プロセス全体の段階的な最適化につなげる。
厚生労働省の大臣官房総務課公文書監理・情報公開室では、行政機関の保有する情報の公開に関する法律に基づく開示請求や、行政不服審査法に基づく審理手続において、適切かつ迅速な情報公開対応が求められている。特に開示請求対応事務では、請求内容に応じた所管部署の選定から対象文書の選定、開示・不開示の判断に向けた前例確認、決定通知書の作成・審査にいたるまで、複数の部署と手順をまたぐ複雑な業務が発生する。しかし、近年は請求件数が増え、難案件も多いことから、前例確認や対象文書の選定に時間がかかり、法定期限内に処理を終えるための事務処理の早期化が課題となっていた。
こうした背景から同省は、PDFや決裁文書など多様な形式の文書データを格納し、ベクトル検索を活用して意味的な類似性に基づいて文書を見つけ出せる検索システムを構築した。職員が過去の事例や関連文書を自然言語に近い問いかけで速やかに参照できる環境を整えるためにOracleの自律型AIデータベース「Oracle Autonomous AI Database」とクラウドサービス「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」を中核とするデータ基盤を採用した。
システム選定にあたり、ユーザーインターフェイスの開発にローコード開発環境「Oracle APEX」を採用し、業務現場に適したアプリケーションを効率的に実装できる点を評価した。また、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)に登録されているOCI上に専用テナントを構え、ゼロトラストの考え方に基づく多層防御や暗号化を施し、安全性の高い環境を実現できる点も評価した。
同省は2026年1月から3月にかけてAIに関する知識研修やシステム設計を進め、4月には第1段階となる意味検索システムを稼働した。現在は第2段階として、生成AIサービス「OCI Enterprise AI」を活用し、文書要約や回答案の作成を支援する対話型RAGシステムを7月中に実装する予定だ。同プロジェクトはシステムエグゼが導入パートナーとして参画し、日本オラクルのカスタマーサクセスサービス部門も設計と構築を支援した。
情報公開室 室長の渡邉一真氏は、過去文書の調査や整理をAIが補助することで、本来業務に一層集中できる環境づくりが進んでいると評価している。同システムの導入により、これまで人手に依存していた過去事例や関連文書の検索プロセスが効率化された。前例検索や文書要約といった定型的かつ時間を要する作業の負荷が軽減され、職員が法令に基づく判断や国民への説明責任といった業務に、より集中できる環境が整い始めている。
今後は、情報検索から文書作成にいたるプロセス全体の段階的な最適化を図るとともに、最終的な判断や審査は職員が継続して担う。こうした取り組みにより、より迅速で質の高い行政サービスの提供を通じて国民の信頼向上を目指す。また、開示文書における墨消し作業を支援する機能の追加なども検討している。
同日に開催された日本オラクルの2027年度事業戦略説明会において、同社取締役社長の三澤智光氏はこの事例に言及した。三澤氏は今回のシステム導入について「夢のようなAI活用というわけではなく、シンプルにAIを使ってシステムを構築したもの」と述べた上で、「極めて安全かつスケーラビリティのあるベクターサーチエンジンが重要になる」と強調した。さらに、ベクターデータベースの活用により資料検索の効率化が進み、職員が本来の業務に集中できる環境が実現したとし、「こうした地道なところからAIの活用は進んでいくのでは」と今後の普及に向けた見解を示した。