さくらインターネットは、顧客体験の向上と運用効率の強化を目的に、クラウドPBXサービス「Zoom Phone」を採用した。8月26日、Zoom Phoneを提供するZVC JAPANが発表した。顧客対応窓口における通話品質の安定化や通話データの活用により、顧客満足度の向上と業務効率化の両立を図る。
同社はレンタルサーバーやクラウド事業を展開しており、顧客対応窓口となるカスタマーセンターやデータセンターの電話システムとして、オンプレミス型のPBXを利用していた。しかし、機器の耐用年数やハードウェアの更新時期が迫っていた。加えて、コロナ禍を機に電話オペレーターの在宅勤務が標準化されたことで、従業員の自宅環境に起因する通話品質のばらつきが課題となっていた。通話品質の低下が顧客満足度に影響し、原因の特定も困難な状況だったことから、電話システムの刷新を検討していた。
電話システムのリプレイスにあたり、同社は「通話品質の向上」と「サポート窓口で利用するトールフリー番号の継続利用」を必須要件とした。複数のサービスを比較検討する中で、導入前の実証実験(PoC)において、通信が不安定な環境でも高い通話品質を維持できることを確認した。また、KDDIが提供するサービスと組み合わせることで、従来の電話番号を継続利用できる点も決め手となった。すでに全社で「Zoom Meetings」を利用しており、その音質や操作性に対する信頼感もZoom Phoneの採用を後押しした。さらに、容量無制限で通話録音データをクラウドに保存できる機能も評価した。従来はストレージ容量の上限に達すると手動でのデータ移行が必要だったが、その手間が解消され、録音データをスタッフの教育やサービス品質向上に活用しやすくなった。
2024年6月にZoom Phoneへ移行した結果、オペレーターへのアンケートでは「音質が良くなった」「通話が途切れなくなった」との回答が寄せられるなど、通話品質は高く評価されている。運用面では、発信定額料金プランの活用により、顧客への架電にかかる追加費用が不要になり、コスト削減につながった。また、従来は特定が難しかった音質低下の原因も、通話品質を数値で可視化する「通話品質ダッシュボード」機能によって特定が容易になった。さらに、Salesforceとの連携により、顧客情報画面の電話番号をクリックするだけで発信できるようになり、アプリケーションの切り替えや番号の入力ミスがなくなり、業務効率も向上している。
同社は今後、政府や地方自治体向けの新たなサポート窓口の設立を予定しており、事業成長に合わせてオペレーターの増員などにも柔軟に対応できるZoom Phoneの拡張性に期待を寄せている。クラウド事業本部カスタマーリライアビリティ部長の大西圭一氏は、今後の活用について「Zoomの生成AI『Zoom AI Companion』による通話の文字起こしと要約を顧客データとひも付け、音声からの『感情分析』が可能になれば、カスタマージャーニー全体の改善にもつなげられるかもしれない」と語っている。